第十四話『高校デビュー!?』

第15話

私は調理を再開した空井君の背中を見て、気持ちを再確認する。


――やっぱり、私は彼のことが好き。好きだし、もっと知りたい。空井君の1番になりたい。味方になりたいし、傍にいたい。頼ってほしい。なんか母というか姉になった気分・・・?


私には3個下の妹がいる。小さい頃はよく私の後ろにひっついてたけど、今では私よりしっかり者に成長していた。なのでちょっと寂しい。


――空井君が『占い』を見ない、信じないって言った時も、不思議と嫌悪感は湧かなかった。多分それは、私も――。


「来たぞ」


「え・・・ヒッ!」


――空井君顔怖っ!顔に力入りすぎ!


「何だよ」


「い、いや、えっと、もうちょっと笑ってみるとか、どうかな」


「・・・今は無理」


「えっ!じゃあ深呼吸!肩の力落とすとか!」


「誰のせーだと・・・」


彼は子声で何か呟き、私の顔を見てすぐに逸らした。


「ん?ごめんもう1回言」「俺もアイツみたくいつもニコニコしてろって?」


「そんなこと・・・アイツって?」


「あそこにいる6人組の・・・べっこう飴舐めてるヤツ」


空井君が顎でしゃくった方角を見ると、場が俄かに盛り上がった。


「皆お疲れ様。繁盛してる?」


「ランちゃん!」


「ラン荷物多すぎ!超満喫してるじゃん」


「正影!なにB組のやつ買ってんだよ」


「!」


私は咄嗟に身を隠す。


――ふふふふふふふふ風蘭ちゃん!来ちゃったどうしようまだ心の準備が・・・。


「何で隠れてんだよ」


「ちょっと一旦様子見・・・」


そっと風蘭ちゃんを見るとそこには、黒髪ロングに眼鏡をかけた、清楚系の女の子が満面の笑みを浮かべていた。


――えっ。誰??


「美味しそうだったから、皆に差し入れようと思って。エリちゃんカオリちゃん。はい、あーん」


――ん?


「これ?3-Dで売ってたゴルフボールアイス。こっちは清水君の分。あーんは女子限定だけどね」


――んん?


「空井君!焼き物だから暑いね。ちゃんと水分取ってる?」


――んんん?


「・・・キモ」


「・・・」


――ひええええええええ!


残念ながら空井君の声は生地が焼ける音では誤魔化せず、場の空気はアイス並みに冷える。


「・・・空井君、私より焼くの上手になってる!この調子でよろしくね」


溶けないうちに食べてね!と優し気な笑みを保ったまま、風蘭ちゃんは友達の元へ戻っていった。


「ヤバあいつ・・・」


「ランちゃんもあんな奴ほっとけばいいのに。委員長だからって・・・」


「優しいし、可愛いし、マジ天使すぎ」


他から見ればクラスメイトに差し入れを持ってくる気配り上手な委員長にしか見えない。しかし、しゃがんでいた私は、しっかりとその現場を目撃した。


――風蘭ちゃんさっき、空井君の足めっちゃ踏んでた・・・!


「だ、大丈夫・・・?」


「いつものこと」


――いつもあるんだ。それに。


「風蘭ちゃんって最初からこんな感じなの?」


私の知る風蘭ちゃんは強気で、リーダー気質で、いつも命令口調で小学生の時のあだ名は『じょてい』。男子から煙たがられてたけど女子からは圧倒的な支持を得ていたタイプの子だった。


子供っぽいと男子に馬鹿にされても『ふらんはツインテールが一番似合うから!』と髪を引っ張ってきた子達を片っ端からボコボコにしてたあの風蘭ちゃんが。


小学4年から視力が落ちはじめた時も『眼鏡なんてダサい。コンタクトじゃないと嫌』って言って先生と親に何回言われても頑なに眼鏡をかけなかったあの風蘭ちゃんが。


「新入生代表挨拶の時からあんな感じだったけど」


――プライド高めリーダー系女子をやめて、面倒見のいい清楚系女子になってる!?


「そ、そんな・・・」


高校デビューを果たしているなんて考えもしなかった私は、尚更彼女に会うのが怖くなってきた。


「そういえば、空井君は前の風蘭ちゃん知ってるの?」


「あぁ」


「なら――」


「空井、俺ら昼行ってくるから店番よろしく」


「すぐ戻るー」


「・・・」


「えっ」


そう言って他のメンバーは空井君を残してそそくさと行ってしまった。

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