第十三話『空井直治が嫌いなもの』
第14話
現在、屋台は空井君入れた4人が接客担当以外無言で回している。そう。接客の2人以外、誰一人として口を開かず淡々と進めている。
――飛沫感染防止のためって言えば納得はするけど、空気重すぎない?食品扱うから集中するのは分かるけど、もっとわちゃわちゃ楽しんでもいい気がする。細倉君がいた時もこんな感じだったのかな。
屋台の様子を観察しながら最後の一個を放り込む。空井君は生地に火が通る合間を縫って、私のところまで来てくれた。
「ベビーカステラ順調?」
「昨日よりかは」
「それならよかった――もう見てて気になるから直接聞いちゃうけど」
私は空井君にしか聞こえないくらいの声量に絞る。
「空気重くない?張りつめてるというかギスギスしてる気が」
「あぁ。俺クラスで変人扱いされてっから」
心当たりがあるのか、空井君は左腕を見る。
「それって・・・」
宙に浮いていた違和感が確信という名の実体に変わる
「俺『占い』嫌いなんだよ」
環里高校は原則としてスマートフォンの使用を禁止している。大っぴらに禁止してない高校なんて聞いたことがないので、多分富潟中央高校も同じ校則があると思う。そこで、私達学生及び未成年者は『占い』を確認するときは『占い』専用スマートウォッチ『
職業柄『Dvitch』をあえて外している大人もいるけど、未成年が『Dvitch』を腕に着けていないのは正直おかしい。それが何日も続けば尚更だ。紛失・故障が確認されれば2、3日で自宅に郵送されるし、2年に1度予備の『Dvitch』が国民全員に配られる。
何より『占い』に頼って生活している私達は『占い』を見ないと怖くて何も出来ない。
――だから、富潟中でただ1人『Dvitch』を着けていない空井君は他のクラスメイトにとってどれだけ異質な存在なんだろう。
「それは、何となくそうじゃないかって思ってたよ。」
いつから?と聞くと端的に中3とだけ言われた。
「結構最近・・・あのさ」
「・・・」
「『占い』に頼って生きている人のこと、皆嫌いなの?」
「は」
空井君は驚いた顔で私を見る。
「あ、いや、ごめ・・・じゃなくて私にとっては大事、というか」
「別に、嫌ってはねーよ。向こうが勝手に気味悪がってるだけ。正影は見下してからかってくるし、細倉は珍獣目線で俺に絡んでくるしな」
「そっか・・・良かった」
私は心の底からホッとする。
「政川はどう思った」
「私は・・・凄いって思ったよ」
一呼吸おいて続ける。
「私ね、ちょっとしたことでも1人じゃ何も決められなくて、家族や友達にしょっちゅう呆れられてるんだ。だから『占い』に頼んないで、自分で選んで決めれる空井君は本当に凄いと思う。私は怖くてそんなことできないや」
「6%のくせにガチャ引いてたのは」
「あ、あれは他のアニマルズも欲しかったからで!」
「ふーーーん」
「・・・」
何といえばいいのか分からず、無言で空井君の左腕を見る。
「政川が、俺のこと変な目で見ないってのはよく分かったよ」
「変な目」
ギクッと肩が強張る。
――どうしようめっちゃ下心丸出しでいるのに。
「『占い』見んのやめてから、クラスでは腫れもの扱いか良い見世物で、大人は『占い』を見ろの一点張りで親とは冷戦状態」
「うわ・・・まぁそりゃそうなるよ」
空井君は座ったまま顔を下に向ける。彼の表情は窺えない。
「分かってる。反抗期でこんなこじれたのかもしれねーけど、俺はもう『占い』を信じたくない」
空井君が何か重いものを抱えているのは私でも分かる。正直、『占い』無し生活なんてバラエティー番組か動画でしか見たことなかった。
「本当に、本当にお疲れ様。空井君凄いよ」
私は手を伸ばして彼の頭を撫でる。一瞬ピクッと反応したけど、拒んではこなかった。
「空井君が良ければだけど、私はこれからも空井君を応援したい」
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