第十話『真中祭~Life is a passion~』
第11話
11時10分
私は富潟中に着くなり近場の女子トイレに駆け込んだ。
――緊張してきたあぁぁ。やっぱり独りは怖いよ・・・アウェイすぎる。
鏡を見ると、私と同じおろしたてのワンピースに身を包んだ知らない人が不安そうな表情を浮かべている。
――かんちゃんは凄いな・・・私のことこんなに綺麗にしてくれるなんて。
4日前。つまり空井君にチケットを貰った次の日、私は千ちゃんとかんちゃんの前で両手を合わせた。
「お願い!真中祭一緒行こ!」
「いつあるんだ」
「今週の土曜日!」
「ならウチは無理。普通に部活」
予想通りバッサリ断られた。ならばとかんちゃんを見る。
「空いてるけど」
「かんちゃん!」
脳内でファンファーレが鳴り響いた。
「ちょっとそのチケット見せて」
「うん!」
私は何の疑いもなくかんちゃんに渡すと、かんちゃんは呆れたように溜息を吐いた。
「やっぱり。このチケット1人用みたいだね」
「えっ」
急に音楽が停止する。
「ん~?『本券1枚に対しお1人様の入場が可能です』・・・だってよ。紫水」
「・・・」
残念だったなとかんちゃんに頭を撫でられるが、到底納得出来ない。
「こ、このチケットをコピーすれば!」
「絶対行かない」
「んんん」
私は文字通り頭を抱える。
――終わった・・・1人で他校の文化祭。楽しそうだけど、不安だよ。
「はぎゃ男がいんなら大丈夫じゃね」
「まだ連絡先知らないから、空井君がいつ校内のどこにいるのか分かんない・・・」
「進展のスピードが亀!」
折角名前教えたのに、はぎゃ男呼びを続行していることについてツッコむ余裕もない。それくらい私は焦っていた。
「当日一緒に行けないけど、会いに行ってあげる」
「・・・どういうこと?」
私が顔を上げると、かんちゃんはドヤ顔で親指を立てる。
「要は自信ないから不安なんでしょ。私が紫水を可愛く変身させてあげる」
「本当!?」
「ドヤ顔はムカつくけど、よかったじゃん。香音メイク詳しいもんな」
こうして富潟中に行く前にかんちゃん家に寄り、あれよあれよという間に髪は結われコテで巻かれアクセがついた。顔はかんちゃん曰く素材を生かすメイクを施してくれた。ずっと私のためにメイク講座をしてくれたけど、脳内は空井君一色だったのでほぼ聞き流しちゃった。かんちゃんごめん。
通知音が鳴り、かんちゃんと千ちゃんから『頑張って』のメッセージが送られてきた。
―――そうだ。今私は一人だけど、2人がいる。もっと空井君と仲良くなるし、絶対に風蘭ちゃんと仲直りしてみせる。
「よし」
小さく息を吐いて、女子トイレを出た。
――まずは、1年生の出し物エリアを見て回ろう。
私はパンフレットを開く。
環里高校では1年生が展示、2年生が劇、3年生が中庭で屋台と決まっているけど、富潟中は学年問わず、好きな出し物をしていた。
――1年生7クラスあるんだ。しかもどのクラスもやってる所がバラバラ・・・空井君と風蘭ちゃんがクラスメイトで良かった。まずどこに行くかを『sou』で・・・。
「こんにちは!」
「こ、こんにちは」
突然、黄色のクラスTシャツを着た男子が挨拶してきた。彼は肩に『2-C はしまき』と書かれた看板を担いでいる。
――2年生・・・先輩だ。
「迷子?誰か探してる?」
「あ、いえ。どこ周ろうか考えてて・・・」
「だったら!はしまきどう?中庭でやってんだけど」
「中庭」
「お願い!まだ1人も呼び込めてなくてさ、このままだとクラスのやつらにボコボコにされちまう」
――まぁ、中庭にも1年生がやってる屋台あるし、先にそっちから行ってもいいかな。
ついて来てくれるだけでもいいから!の一言に乗せられ私は先輩の後をついていくことになった。
――はしまきって初めて聞いた・・・どんな食べ物なんだろう。
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