第九話『政川紫水の後悔』

第10話

「どういうこと」


空井君は器用に右の眉だけくいっと上げる。


「親友がいて、その子と一緒に受験しようって約束してたんだけど・・・『占い』が私は環里高校を受験するべきだって。多分、学力不足でそんな結果が出たんだと思った。だから親に答えが変わったら志望校を変えたいって説得して、直前まで勉強頑張ってA判定貰えたの。けど、最後までその文は変わんなかった。親も応援はしてくれたんだけど『占い』を見て、結局富潟中には行かせてもらえなかったんだ」


空井君は掴んだ手を離してくれた。私はスマホを自分の胸に当てる。


「『占い』は私の幸せを叶えるために存在してて、パパもママも私に悲しい思いさせたくないって思ってるのは知ってる。でも、私は、私の所為で――風蘭ふらんちゃんとの約束を破っちゃった」


自嘲的な笑みを浮かべる。空井君の反応を伺っていると、彼からとんでもない言葉が出た。


「風蘭?正影まさかげ風蘭?」


「え!?ひょっとして」


「同じクラス」


空井君を見ると、何故か苦虫を噛み潰したような顔をしている。


――えーーーーーー!?好きな人と親友がクラスメイトだったのーーー!?同学年だし、名前くらいだったら聞き覚えあるかなって思ってたけど。


「こんな偶然あるんだ!」


「そーだな」


――興味なさそう。そっけなさが滲み出てる。


「もしかして、風蘭ちゃんとひと悶着あった?」


「アイツ小学生の頃からあんな感じなのかよ・・・超うぜぇ」


空井君は何が委員長だよと吐き捨てる。


「風蘭ちゃん、高校でも学級委員長になったんだ」


――変わんないな。風蘭ちゃん・・・。


「会いたいの」


「え!?」


急に言われてドキッとする。


「さっき自分で言ってただろ」


どうやら、無意識に口に出していたみたいだった。


「あ、いや、それは・・・」


「あ?」


「会いたいけど、私から連絡取れなくて。それに向こうは、私の顔なんて見たくないって思ってる。と、思う」


泣きながら私の進路について話した日から、風蘭ちゃんは私に話しかけてくれなくなった。連絡も全部無視されて、目すら合うこともないまま卒業を迎えたので、私はまだ、風蘭ちゃんに伝えたいことを届けられずにいる。


――きっと今も、風蘭ちゃんは怒ってる。


「いんじゃね」


「え?」


「会いたいなら、会いに行けば」


――今、さらっと言われたような。


「これやるよ」


彼はそう言って何かを私の頭の上に乗っける。


「じゃ、そろそろ帰るわ」


「え?え?ま、待って!?」


私の静止など意にも介さずに、空井君は帰ってしまった。頭を押さえたままポカンと彼が去った方向を見る。


――い、行っちゃった・・・後半私の話しかしてない・・・。でもマイペースなところも好き!


また千ちゃんとかんちゃんにツッコまれるなぁ・・・と持っていた紙を見る。それが何かを理解した瞬間、衝撃が体中に走った。


空井君から渡されたものは『真中祭しんちゅうさい』の招待チケット――富潟中央高校の文化祭に入場するための必須アイテムだった。

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