第八話『私達はお友達』

第9話

――名前?い、一生って・・・きゃーーーー!呼んでくれるの!?それってそれって・・・私に興味持ってくれたってことなのかな!?自惚れ!?えこれ自意識過剰かなああああああ。


「政川紫水です。政治の『政』に、簡単な方の『川』に紫色の水と書きます」


頭が爆発状態でも、笑顔のまま噛まずに言い切ることができた。


「ふーん。変わってんな。」


「気に入ってるんです。よかったらその、えっと・・・」名前で呼んで欲しい・・・!


空井直治そらいなおはる


まごついている私を見て己の名前を聞きたがっていると捉えたのか、彼はあっさり教えてくれた。


「苗字は空の井戸?」


「ああ」


「なおはるは」「直して治める・・・さんずいの方」


「ありがとうございます!空井・・・先輩?空井君?」


念願の名前を知れてはしゃぐ暇もなく次の知りたいことが浮上する。


「高1だけど」


「同い年!?」


「老けてて悪かったな」


「違うよ!雰囲気が年上っぽかったから。背も凄く高いし、落ち着いてるし」「そーか」「ぶっきらぼうな口調からアンニュイさが透けて見えててそれが人生を達観してる社会人みたいで同学年には見えなかったというか」


「・・・急にめっちゃ喋んじゃん」


「ごめんなさい!」


――や、やってしまった!つい心にしまってた想いの一部が!


「いい加減謝んのやめろ」


あと敬語も。という彼――空井君はさっきより3割増しで輝いて見えて。


「うん・・・あの、よろしくね。空井君」


「――あぁ」


「・・・」


――まただぁぁぁぁ!けど、私は失敗を繰り返さない!


「・・・っその制服!富潟中とがちゅうだよね。電子黒板の授業ってどう?学食って普段はどんなメニューがあるの?」


「・・・!」


空井君は一瞬面食らった表情を見せるけど、すぐ真顔に戻った。


「何で知ってんだよ」


「私も富潟中に行きたかったから。オープンスクールも行ったんだよ」


「なのに環里かんさと?」


「あーーえーーっと」


私が通っている公立環里高校は偏差値中くらい、生徒数は多すぎず少なすぎず、強豪な部活はないけど試合や大会で賞状やトロフィーを貰うくらいには強い。制服も設備も可もなく不可もなくという、特に悪いところが無いところが自慢の学校らしい。


私は去年、県で1番偏差値の高い公立富潟とがた中央高校、略して富潟中を受験せずに環里高校に出願書類を提出した。

千ちゃんとかんちゃんにも言ってないその理由は――空井君に対しても、話すことに抵抗があった。


――どうしよう。適当に誤魔化そうか。でも、空井君が心を開いてくれなくなったら・・・。


空井君を困らせたくない自分と嘘をつきたくない自分が、私に選ばれるのを今か今かと待っている。


「落ちたのか」


「ううん」


――そうだ、こういう時こそ『占い』じゃん!どうするのが吉か聞けば・・・!


と考え、鞄からスマホを取り出そうとした手は、空井君に抑えられた。


「先に聞いてんのは俺だろーが。『占い』より俺を優先しろ」


きゃーーーー!拘束されちゃったあああああ!俺様発言もサイコーーーー!


「な、んで『占い』を見ようとしたって・・・」


「バレバレなんだよ。で?」


「ぁ、っと・・・・・・う、受けられなかったの『占い』に止められて」

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