第七話『すきな人ってなに?』

第8話

この世界にはスマホとは別に『占い』のみを確認できる腕時計型の端末が存在する。それは1人1台国から支給され、私も6歳の時子供用モードに設定されたものを貰った。


――わたし、いのうえくんのことすきかも・・・。


――いのうえくんって2くみの?せひくいけど、かっこいいよねー!でもアタシはやっぱりソウタがいいな!


――もー。らんはひとすじなんだから!


――しょうもとくんやさしいからね。いのうえくんもうんどうかいのリレー、すごくはやかったよね。


――すいちゃんは?


――え?


――そういえば、しすいはすきな人、いないの?


――い、いない、かな・・・。


――ほんとに?アタシたちのまえでナイショつくったらだめだよ!


――うん。だって、男の子より、ふらんちゃんたちとあそぶほうがたのしいもん。


――ふ、ふーーーん?


――あれ、らん、かお赤―い!


――見ないでよ!しすいがわるいんだから!


――ごめん。


――ゆるすかわりに!すきな人ができたらすぐにおしえなさいよ!


――うん!わかった!


この約束は、皆それぞれ別の学校に進学しても果たされなかった。かっこいいと思う男の子はいた。話してて楽しい人もいた。けれど、それは皆が言う『好き』とは違う気がして言えなかった。


初めて自分の結婚相手を占ったのは16歳の時。それは男女ともに16歳以上でないと占うことが出来ない。私は今年の誕生日、生まれて初めて日付をまたぐまで起きていた。


『政川紫水 さんが将来結婚する相手は 20××年9月17日 現在、近いようで遠いところにいます。国籍は日本人、黒髪または黒に近い茶髪、身長175cm以上、血液型B型、1月生まれの水瓶座、右利き、知能指数上の下、球技系スポーツ経験者 年齢差0~1 の男性が将来あなたとの幸せを誓ってくれるでしょう』


この情報は日々更新される。勿論ずっと変わらないケースもあるし、性別、国籍ごと書き換わるケースもあるらしい。人々はこの情報を元に伴侶を探す。稀に、『占い』は恋愛に対して否定的な結果を表示することがある。それを踏まえて自分が今後どうしていくのかはその人次第であり『占い』は粛々と問われたことを占っていく。


私は1回目で引き当てたシロナガスクジラを見つめる。口を開けて髭を見せる姿は、私の初めてのお友達の風蘭ふらんちゃんにちょっと似ていた。


――やっぱり、笑った時の風蘭ちゃんに似てる。


「――おい」


――メタルチャームの時のシロナガスクジラはそうでもなかったんだけど・・・横顔だったからかな。


「おい!」


「え?」


しゃがんだまま横を見ると、彼が私と同じ目線にいた。


「わーーんぶぅ!」


「うるせぇよ。変な目で見られんだろが」


即座に手で口を抑えられる。私が頷くと、すぐに離してくれた。


――危うく大声を上げるところだった・・・。だってま、まさかあんな近くにいるなんて、全然気付かなかった。


「ごめんなさい。ちょっと考え・・・ぼーっとして、て」


「何だ。当ててんじゃん」


そう言って彼は私の手を掴み、シロナガスクジラを観察する。


――ひいいいいいいいいい!近い近い近い近いいいいいい!手!手握っちゃった握っ握られてるううううううわああああああーーーーーー!


内心彼のボディタッチに悶えていると、ある重大な事実に辿り着く。


――待って。近いって、彼の顔も近いんじゃ・・・!?今顔上げれば、至近距離で彼の顔見放題!? どうしよう見たい!けど体が動かない!!まるで錆びついたリング錠のよう!


首に力を込めて見上げようとする前に、彼は私の手を離して立ち上がった。


「は」


――あと1歩早かったら・・・っ。


「あんだよ」


「いっ、なんでもないです!その、これ、昨日のお金。昨日は本当にありがとうございました」


仏頂面の彼に、透明のジッパー付きポリバックに入った300円を渡す。


「いいっつってんのに」


そう言いつつも素直に受け取ってくれた。私は肩の荷が下りてホッとする。


他のお客さんが来はじめたので、私達は邪魔にならないところに移動した。


「・・・」


「・・・」


――あれ!?待って、このままだと終わる!


「そっ」「おま」


――あーーーー!


このまま解散するのは本当に嫌だった私は慌てて話題を振った。が、被ってしまった。


「・・・お先どうぞ」


彼は頷いて口を開く。


「昨日は言い逃げしやがって・・・――くらい聞かせろよ」


「・・・え?ごめん今なんて?」


「名前!俺が一生お前のこと『あんた』とか『てめぇ』呼びでいいってんなら言わなくてもいいけど」


彼は苛立ったように頭をかいた。

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