第五話『また会えますように』
第6話
「よくこれがジュゴン?だって分かるな」
そう言って彼はマグネットを私に返した。
「うん。SNSで『水中で生きるシリーズの』シークレットがジュゴンだってのは知ってたけど・・・まさか私の元にも来てくれるなんて!」
『わちゃぽいアニマルズ』には必ずシリーズごとにシークレットが存在する。けれどとれもツチノコ並に希少性が高く、私もSNSでしか見たことがなかった。
「かわいい~!フレームと絵もキラキラしててレア度高すぎ~!」
「・・・まぁ、お前がいいならいいけど」
呆れた表情から嫌でも察してしまう。彼は絶対――『わちゃアニ』を知らない。
急に神妙な顔して驚いたのか、彼はギョッとした顔で私をた。
「俺なんか変なこと言った?」
「ううん。その、変だよね。この動物達。よくクラスメートからもキモいとか草とか言われてて」
「――なんだそれ。真に受けんじゃねーよ」
「ごめん。急に変なこと言って。引くよねー。こんな何の動物かも分からない絵に一喜一憂しちゃって・・・」
めきょっ。と彼が飲んでいたミネラルウォーターが音を立てて握り潰された。
「ひっ」
「お前・・・」
ゴゴゴ・・・と彼の背中から怒りのオーラが見える。
――ひええええ!
反射的に目を瞑ると、頭を何かでこつかれた。
「さっきから言動が矛盾しすぎ」
「んん」
空のペットボトルと言葉で体も心も痛いところを突かれる。
「マイナスな意見やアンチがいるのは当たり前。そんなゴミ共に負けないくらい、お前がずっと好きを続ければいいだけの話だろ」
「じ、じゃあ、あなたは『わちゃぽいアニマルズ』のこと、どう思う?」
私は手のひら一杯にマグネットを乗っける。
「変だしキモい」
「うっ!」
紫水は 1000 のダメージ!
「けど・・・前よりかはキモくねーかも」
「・・・前?」
「ダチが運気上昇アイテムだとかで持ってたんだよ」
――な、なるほど・・・。ってことは彼、『わちゃアニ』知ってんじゃん!早とちりした―!
「いんじゃね。さっきのレアが出た時のお前は、キモくなかったよ」
だからそのままでいろ――私には何となく、そう言ってくれているかのように聞こえた。
「あ、そうだお礼・・・っていってもこれくらいしかないけど、よければどうぞ!」
――アシカとオットセイとジュゴンしかいない・・・。
彼は5個中3個アシカという悲惨なガチャ結果を見て――
「じゃあこれ。価値高いんだろ?」
――容赦なくジュゴンを手に取った。
「@?え%!&×¥!」
「・・・冗談」
彼は笑って私の頭を撫でる。
「――っ!」
少し迷った末、アシカをもらってくれた。
――お茶目!お茶目からの頭撫で!?そして気を使ってくれた・・・!優しいいいい!やっぱ好き・・・!好きが止まらないんだけど!
「ぁ、あにょ・・・」「明日もここ来んの」
「はぁいっ!!」
思ってたより大きな声が出てビックリした。彼も一瞬唖然とした後、眉間の皺が深くなる。
「あ、明日も私、シロナガスクジラ迎えに行くので、ここでガチャ引いてます!もちろんあなたにもらったお金は別で取っときます!」
「おい――」
「それじゃあまた!」
断られるのが怖くて、私はすぐにその場を去った。
帰宅途中は『占い』が警告してくれた道を脳死で通ってしまい、でっかい蠅が急に現れて腕に止まった。
夕ご飯では白米だけ一気に食べてしまい、曖昧に相槌を打ってたらママがお代わりを大盛りでよそってくれた。
部屋に戻って、彼から貰った(お金で引いた)マグネットをどこに飾ろうか、それとも保管するべきかについて、明日の宿題をする間も惜しんで悩んだ。
布団にもぐり、目を瞑っても、頭に浮かぶのは彼の顔、表情、声、仕草ばかりで。
それに悶えて、足をばたつかせて、耐えきれず唸り声を枕に吸収させても――私の中の彼は全然消えてくれない。それどころか、彼に恋する気持ちが膨らんでいく一方だった。
「逃げちゃったよおおぉぉ」
怒ってないかな。許してくれるかな。来てくれるかな。待っててくれますように。明日――会えるかな。会いたいな。会いたいよ。明日だけじゃなくて、これから先、も・・・。
ようやく睡魔がやって来るまで私は――ずっと彼のことを考えていた。
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