第四話『気になるガチャの結果は』

第5話

――わ、わわわわわわわわわわわわわわわわわ。


彼から目が離せない。私は内心大パニックになっていた。


「ふーん」


――ひぃやぁぁぁぁぁ!声!声も素敵すぎるううううう!


「諦めんの?」


間違いなく耳まで赤くなっているだろうけど、彼は構わず私に問いかける。


「え・・・はい。さっき全部使ってしまって」


「ほら」


彼が差し出した手のひらには300円――ちょうど、ガチャ1回分のお金が乗っていた。


「え?ええ?」


理解の遅さに苛立ったのか、段々と彼の眉間に皺が寄る。ワイルドで素敵!!


「横の自販機でこれ買ったときに出てきたやつだから。俺小銭嫌いだし」


そう言って彼はミネラルウォーターを軽く振る。私は小銭と彼の顔を交互に見つめた。


「・・・本当に良いんですか」


「なんかずっと引いてて可哀想だったから」


ん?ということは・・・体温が上がっていくのを肌で感じる。


――一部始終見られてたってこと!?


「は、恥ずかしいところを・・・」


「で。引くの」


「引きたい!けど・・・『占い』が・・・」


「チッ」


急に舌打ちされて驚く。彼は――怒っていた。


「そんなに悪いんなら、何でさっきまであんなガチャ引いてたんだよ」


「それは」


欲しかったからじゃねぇの。と言って、彼は開いていた手を握る。


「どいつもこいつも『占い』『占い』『占い』・・・馬鹿じゃねぇの。マジで気持ち悪い」


彼を怒らしてしまった。私がいつまでも煮え切らない態度とってるから。


そのまま手をポケットにつっこみ、行ってしまうのをを阻止したくて彼の腕を掴む。


「待って!」


「!」


「あ、ごめんなさい・・・私」


深呼吸して真っ直ぐに彼の目を見る。


「今日のくじ運が6%でも・・・引きたいです!引かせてください!お願いします!」


「6%!?」


素っ頓狂な声が上がり、情けない気持ちになる。


「あ、あはは・・・無謀だよね、やっぱり。もともとあんま高い方じゃないんだけど」


私は、他の人と比べて『くじ運』が低い日が多い。普通の日は20%~30%で、良くて50%で悪くて1桁。0%だった日に、画面を家族に見せたらSNSに晒された。『sou』は月末になると、運ごとの平均値を折れ線グラフで表示してくれる。『くじ運』の項目で『sou』ユーザー平均値と私の値を比較しても、超えている月が1年を通して2回あればいい方で。


「馬鹿だろ」


バッサリ切り捨てられた。でも顔がいいからご褒美です!


彼はしゃがんで、さっきまで私が引いていたガチャポンに小銭を投入する。


チャリンと3回、彼の長い指が100円玉を投入口に入れていく。その動作すら輝いて見え、私は思わず目を抑える。


「・・・回せば」


目を開けると、目の前に彼が現れた。


「はあっ!!あ、ありがとう!お金は絶対返します!」


別にいいという彼の言葉を尻目に、ガチャポンの前で合掌する。


「・・・そんなんしても意味ねーだろ」


「だって泣きの1回ですよ!?ちなみにあなたに引いてもらうっていうのは・・・」


「帰るわ」


「紫水、引っきまーす!」


ガチ、ガチ、ガチン・・・コトッ。


「出た・・・!」


奇跡のフレームマグネット・・・例えこれが4個目のアシカになろうとも、超大切にする!!


「中身見えないんだ」


「はい。『わちゃアニ』シリーズのカプセルトイは全部このタイプなんです」


では、と私はセロハンテープを外して留め具に手をかける。


「開けます・・・!」


カポッとカプセルが開き、中には――白くてでっぷりと太ったアニマルズが描かれていた。


「なんだコレ・・・」


私がワナワナと震えている中、彼はマグネットをひょいとつまみ、袋越しに観察している。


「少なくともクジラじゃねーな・・・あ、お前がクジラ来いクジラ来いって言いながら引いてんの見てただけで・・・つーかここあんま人通らないからって独り言呟きすぎ」


「――ごい」


「ってかこれフレームの部分がキラキラして――?」


「すごいすごいすごい!これジュゴン!シークレット!!シークレットだよ!」


私は感動の余り両手で彼の手を掴み、上下に振る。


「!?」


「ありがどううううう!引いてよっかったぁぁぁぁぁ!めちゃくちゃ嬉しい!」


「分かったから!手!手離せ!落ちんだろ!」


「わっ!ごめんなさい!」


彼の目元が赤みを帯びているのを見て幾分か正気に戻った。


――勢いでついやっちゃった・・・でも、慌てた顔もかわいい!千ちゃん私、男の人にかわいいって思う気持ちやっと分かったよ!

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