第三話『は、はぎゃーー!?』

第4話

――あれ。もしかして2人に相談したの間違えたかな。『友達占い』では『良い相談相手になる』って書いてあったから大丈夫だと思うけど。


私は千ちゃんもかんちゃんも、恋愛に関してはかなり特殊なケースに当てはまることに気づいた。動揺で汗が噴き出そう。


「香音は逆に写真撮らなすぎ。まだ彼氏とのツーショ撮ってないのか」


「・・・めんどくさい。写真苦手だし」


かんちゃんはプイと横を向き、ふてこい表情で言い返す。


「千こそ早くわちゃぽい先輩に告白したらいいのに。誰かに取ら」「わちゃぽいじゃない!空円と空円先輩をあんなアホみたいなクリーチャーと一緒にするな!」


「え?この水色の・・・ペンギン?目元とかそっくりだと思うけど・・・」


かんちゃんは私のペンケースについているメタルチャームをいじる。


「どこがだよ!?お前同担に燃やされるぞ」


「千ちゃん、かんちゃん・・・」


私は静かに手を挙げる。ちょっと涙出てきた。


「深刻な悩みを喧嘩で流さないで」


「すまん」


「ごめん」


2人同時に頭を撫でられる。素直でよろしい。


「千ちゃん・・・」「『わちゃぽいアニマルズ』をアホみたいなクリーチャーって言って悪かった。好きな奴の前で言っていい言葉じゃないな」


千ちゃんは自分の意見を良くも悪くもはっきり言うタイプで、男らしさがある。私はすぐ相手に流されちゃうから、千ちゃんのそういうところ憧れる。好き。


「かんちゃんも・・・」「もしかしてこれ・・・ペンギンと見せかけてウミガラス?」


「カワウソだよ・・・」


「ごめん・・・でも、かわいいね。新キャラ?」


「うん!今『水中で生きるシリーズ』のガチャが新しく出てるの」


かんちゃんはマイペースでちょっと天然だけど、平和主義で私達の『好き』を決して否定しない。かわいいって言ってくれたの嬉しい。好き。


『わちゃぽいアニマルズ』は千ちゃんみたいに好き嫌いがはっきり分かれる。そんな独特なタッチで描かれた動物のカプセルトイのこと。フィギュアだけじゃなくて、アクリルスタンドやキーホルダー、ストラップなど・・・。


「そして私が今注目しているグッズが『わちゃぽいアニマルズ~水中で生きる~』フレームマグネット全6種!」


わちゃぽいアニマルズ公式SNSの画面を見せると、2人は案の定怪訝そうな表情を浮かべている。


「・・・で?紫水は張り込みでもすんの」


強制的に話題を戻された。私はスマホの画面を閉じる。


「最初に会った場所もう1回行ってみる」


「その人の分かりやすい特徴は?」


かんちゃんの家は私が通っている塾と同じ、富潟とがた駅にある。私は出来るだけたくさんの情報を伝えようと頭を巡らす。


「髪はこげ茶で・・・サラサラしてて、鞄左肩にかけてたから多分右利きで黒のワイヤレスイヤフォンつけてて漫画好きで背高くて足長くて目がキリっとしてて肌つやつやしてるけど右のこめかみにほくろがあって」


「多い多い多い」


「よく見てるね」


「しっかりと目に焼き付けたからね!あ、これが一番大事!その人見た瞬間こう・・・はぎゃーーってなったの!」


今もそう。彼を思い出す度胸が締めつけられたように痛い。


「歯医者行けよ」


「親知らずが神経に食い込んでいるのかもしれない」


揚げ足を取られても怯まずに主張する。


「違うの!胸抑えてるじゃん!今もその人のこと思い出すとこんななっちゃう・・・」


「これがガチ恋・・・狂っているな」


「私の恋愛が如何に打算的なのかを突き付けてくるなんて酷い」


「香音のは果たして恋愛と言えるのか・・・」


「彼のことは好き好き大好きだけど?」


「そう!本当の恋はかんちゃんみたく冷めっ冷めじゃないの!」


「恋愛の形は人それぞれよ」


――それはそうだけど・・・そうなんだけど!


「2人が運命の人に出会えた時!絶対今の私みたくなるよきっと!はぁ・・・何て名前なんだろう。声も聴きたいな・・・名前で呼んでほしぃぃぃぃ~ん」


「恋したくないわけじゃないが、あんなにはなりたくないな」


「千も空円について語ってる時と遜色ないよ」


「何だと!?」


進捗あったら報告よろしくということで、今日の昼休みは終了した。


そして


「今日もいない・・・」


彼をもう一度見つけると豪語してから早4日が過ぎた。この時間帯に来たのはたまたまだったのかな。もしこのまま会えない日が続いたら――


――最終手段として、彼の通っている高校で待ち伏せする・・・。


脳裏に非常識な考えが浮かんだので、いやいやとその考えを打ち消す。


『会いたい人に会う占い』も名前が分からなければ機能しない。自分の運と目だけが頼りだ。


彼探しは打ち止めにして、折角塾がないのに駅に来たんだからと地下街にあるガチャポンコーナーへ立ち寄ることにした。


そこで私は別の出会いを果たすことになる。


――え!?新しいの入荷されてる!特にこのシロナガスクジラ超かわいい~!欲しすぎる・・・けど・・・。


『sou』を開くと『政川紫水 さんの今日のくじ運は6%です。引くことはおすすめしません』と表示されている。


ひ、一桁は絶望的すぎる・・・今日は引いても出ないだろうな。来週になったらお小遣いももらえるし。今日は我慢・・・明日の運次第でまた来てみようかな・・・。


私は回れ右をして帰宅しようと足を――。


足を――。




「またラッコ・・・これで3個め」


――で、出ない!全然だめだ・・・。


結局誘惑に耐え切れずガチャを引き始めてn回後、未だにシロナガスクジラを出せないでいた。


――他のアニマルズも十分かわいいし!欲しいしね!全種コンプリートしちゃおう!!そのついででシロナガスクジラが当てれたらいいし!


そう自分に言い聞かせていたが、そろそろこのやせ我慢も限界に近付いてきた。


とうとう持っていた100円玉がなくなり、急いで両替機に走ると『故障中』の張り紙が貼ってあった。


「何で!?」


よりによって今日なの・・・しばらく呆然としていたが、ようやく諦めがついてきた。


「明日にしよう・・・」


「故障中?」


ガチャポンコーナーを後にしようとしたその時、知らない声が聞こえた。


「はい。今日は使えないみたいで・・・」


・・・は



はぎゃーー!?


声の主は、私がずっと探していた――『一目惚れした人』だった。

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