ー勇者冒険譚ー

@koshi_ai

舞い降りたひとつの依頼

○人物紹介

勇者

一応パーティーのリーダー。馬鹿で呑気でマイペース。仲間思いの良い奴だが頭に血が上ると周りが見えなくなる。このパーティーを設立した本人。


タンク

勇者と仲がいい。相手の攻撃を受けるとその攻撃の特性や相手の能力を少し知ることが出来る能力を持つ。


魔道士

勇者が頼りないので実質このパーティーのリーダーのような立ち位置にいる。しっかり者でよく周りを見ている。メンバーからの信頼は厚い。


ヒーラー

毒舌。文句も言うけどなんだかんだ優しい。タンクの能力は致命傷も負いかねないのでかなり手を焼いている。


○ストーリー設定

基本お互い役職呼び

前置きとか全カットですぐ本編





○本編



 行く手を阻む弱小モンスターを切り倒しながら勇者が口を開いた。

「それで、今回のクエスト内容ってなんだっけ?」

「もう…そんな呑気に聞かないでください。さっきも言ったじゃないですか。今回は、『青の死神』討伐依頼ですよ。というか目の前の敵に集中して下さい。油断してると危ないですよ。」

魔道士は涼しい顔でそう言いながら目の前の敵を倒していく。

「あーそうだったな。悪ぃ悪ぃ忘れてた。こいつらなんて雑魚だから大丈夫だ。」

そう言って勇者はまた一体倒す。それを見て苦笑いしながらタンクが口を開く。

「相変わらずお前はマイペースだな。しっかし、そんな低級モンスター討伐をどうして Aランクパーティーの俺らがやるんだ?」

「はぁ…それも言われたじゃない。私たちが今いるダンジョンは今異常ステータスのモンスターが多いんだよ。もちろん今回の青の死神もその一人。」

行く手を阻む敵をほとんど全滅させて満足気な勇者の体力を少し回復させながらヒーラーが言う。

「そうです。いくら低級モンスターと言っても特殊個体となれば話は別です。討伐依頼を受けてダンジョンに潜って、そのまま戻らない冒険者も多いんです。」

「なるほどなぁ。上級ランクパーティーに頼るしかない,と。特殊個体…今回はなかなか手強いクエストになりそうだな。」

「でも俺たちにかかればそんなの余裕で攻略できちまうかもな!」

そう自信満々に言う勇者に、一行は苦笑するしかなかった。


 そして数十分後、特殊個体の『青の死神』目撃情報が絶えないダンジョンの中層部へ足を踏み入れたその時だった。

「伏せて下さい!!!!」

普段冷静沈着な魔道士が叫んだ。身軽な勇者,ヒーラーはすぐに反応して伏せたが重装備を身につけるタンクは反応が一歩遅れた。その瞬間、タンクに鋭い刃のような、あるいは重たいハンマーのような、未知の何かで攻撃された。

「ガッ……!?」

「おいタンク!?しっかりしろ!」

「勇者!そんな余裕はないです!!」

「魔道士の言う通り…どうやらお出ましみたい。例の死神が…!」

ヒーラーと魔道士の目線の先に、不気味に笑う奴はいた。

「クケケケケケ…」


「俺の仲間を傷つけやがって…!許さねぇ。覚悟しろよ青の死神っ!!!」

勇者は怒りを顕にする。

「まずは落ち着いて戦況を確認しま…」

「うぉぉぉぉぁぁあ!!!」

「ちょっそんなすぐに突っ込んだら…!」

魔道士の制止も虚しく、勇者は青の死神に向かって突っ込んで行った。

「グッ………!?」

結果、青の死神に返り討ちにされ呆気なく吹き飛ばされる。






「馬鹿なの?」

あれから数分後。吹っ飛ばされた勇者の無事を確認した後にタンクを抱え、撤退した一行はモンスターの湧かない所謂安全階層(セーフティエリア)で作戦を立てることにした。呆れた様子でヒーラーは勇者の傷へ手をかざす。

「ッはぁ…。ありがとうヒーラー。あいつ…マジで強ぇ……」

「そりゃそうですよ…。いつもの青の死神とは訳が違います。勇者はいつも仲間のことになると頭に血が上りすぎです。仲間思いなのは良いことですが度を過ぎるのはかえって危険ですよ。」

「あ、あぁ。わかった。すまねぇ…。」

「では、ヒーラーはタンクの救護をしつつ、とりあえず作戦を立てましょうか。」

「ほんとあいつバカみたいに強ぇぞ!?ほんとに青の死神かよ…。」


「勇者…あなた馬鹿なの?私の話と数秒前の魔道士の話、ちゃんと聞いた?」

タンクの救護をしつつヒーラーは言う。

「……はっ!あいつが…特殊個体……?」

閃いたかのように勇者は言った。

「はぁ今更ですか。まぁそういう訳ですから無闇に突っ込むのは余計危ないです。どんな攻撃を仕掛けて来るのかも、何もかも資料不足なんですから。」

「そうか…だからあんなに……」

その時,タンクが意識を取り戻した。

「んっ…」

「タンク、大丈夫?」

「っあぁ…。少々体は痛んだりするがヒーラーのおかげでなんとか大丈夫だ。ありがとう。」

「ほんとのほんとに大丈夫なのか?」

タンクに迫る勇者を片手でヒーラーが払う。

「あんまり勢い良く迫らないで。まだ完治した訳じゃないから。」

「勇者,俺は大丈夫だから。」

そう言ってタンクは勇者に向かって軽くガッツポーズしてみせる。

「タンク、くれぐれも無理はしないでくださいね。相手は特殊個体の青の死神。能力は低級モンスターにしても元々が強いですので、油断なりません。」

「あぁ。その通りだ。」

重々しく頷くタンクに魔道士は問う。

「ところでタンク。体がまだ少しきついのは重々承知ですが…私が言いたいこと、分かりますか?」

「はぁ、いつものやつだろ?嫌になっちまうよ。良い能力だがその分,強い相手ならその度に倒れる羽目になるんだ。」

「おっ…いつものあれか?」

「あぁ。…じゃあ話すぜ。あいつの特性。」

そう言ってタンクは話し始める。




 あいつは、一言でいうとバケモンだ。見た目でわかるって?いやそういうことじゃねぇよ …ん?なんだ勇者。え?通常の青の死神の能力から分からない?お前なぁ…。まぁいいさ,まず始めにあいつの通常種の能力からおさらいするか。

 青の死神は基本的に魔法系攻撃を仕掛けてくる。また、あいつを倒す上で最も厄介なのがそもそもの実態が無いことだ。いわゆるゴーストタイプ、ってやつだな。だから魔道士が特殊魔法をかけないと攻撃は当たらねぇ。勇者は俺が倒れたあとあいつに向かって突っ込んでいったらしいがそれは全くもって無意味だ。そりゃそうだよな。攻撃通るわけねぇもん。ま、お前は知らなかったみたいだし今回は見逃してやるが、これはまっじで基本中の基本情報だからよーく頭に叩き込んどけよ。てかあれだな。お前よくそんな知識でここまで登ってきたな。つくづく運の良い奴だな本当に。

あぁ、悪い悪い話が逸れちまったな。そして、あいつの使う魔法の種類について。まず、そもそも敵が扱う使う魔法には二種類ある。これはさすがに知ってるよな?そうそう、妨害系魔法と攻撃系魔法だ。そして“通常の”青の死神は主に妨害系魔法を使う。例えば“鈍足(スロウ)”や“痺れ(スタン)”がある。逆に攻撃系魔法は“毒(ポイズン)”や“叩きつけ(スラップ)”なんかが代表的だな。敵が扱う魔法の種類はもちろんこれ以外にもたくさん種類があるし,その中で強力なやつ弱小なやつ様々だ。ただ今回の話とは全くもって無関係だから説明は省くな。


基礎知識はこんなところにしておいて…。

ここからはあの特殊個体である青の死神について話してくな。あいつは妨害系魔法と攻撃系魔法、その両方を扱える。そう、つまりあいつは妨害も攻撃もこなせる。妨害持ちってだけで既に厄介だった青の死神が攻撃魔法も撃ってくるとなるとさらに戦いは厳しくなるだろうな。…しかも恐らくどちらの魔法もかなり強力だ。

加えて、青の死神に攻撃が通るようになる魔道士の魔法も最大効果時間は10分だ。俺らが今持ってるマジックポーション(魔法を撃つために使う魔力を回復させるポーション)の数と攻撃するための魔力回復用を残すことを考えるとかなり厳しいと思う。だからこの戦いを、長期戦に持ち込むのは正直かなり厳しいと思う。


「そしてこれは俺の個人的な予想になっちまうんだが、恐らく相手は…“探知能力”を持っている。」


「探知能力……それってどんなのだ?」

「あぁ。探知能力は妨害よりもさらに厄介だ。こっちの魔法や能力なんかを瞬時に分析してその特性を知ることが出来ちまうんだ。」

「それが本当ならかなり厄介ですね…。ちなみにタンク、『俺の個人的な予想』と言いましたがそれは何故です?」

「それなんだが、俺の能力はお前らも知っている通り“相手の攻撃を受けることで相手の特性を少し知ることが出来る”という能力だ。それは相手がどれくらいの強さで攻撃したかによって知れる度合いが変わってくる。あいつは攻撃をするとき,俺らを殺す勢いで攻撃しようとしてきた。だが,こっちにヒーラーがいること、俺に特殊能力があることをわかったかのように実際の攻撃は力を押えてきてた。だから俺はあいつがどんな種類の攻撃魔法や妨害魔法を使ってくるのか…までは知れなかった。それはきっとあいつが“探知能力”を持っているからこそ。俺はそう考えたんだ。」

嫌になるよな全く、と溜息を吐きながらタンクが言う。

「なるほど…。それなら確かに話も繋がりますね。にしても…魔法の種類が知れなかったのは痛いですね…。特殊個体の青の死神はただでさえ情報が少ないですから、そんな中での戦闘はかなり厳しいです…。」

「たぶん、通常の青の死神が使う“鈍足”と“痺れ”,“目眩し(ダジェル)”は強化されていると思う。」

「あぁ,恐らくだがそうだろうな。」

ヒーラーの発言に、タンクも魔道士もうんうん、と頷いた。

「えぇ。妨害系魔法はある程度予想がつきます。ただ問題は……」


「問題は…攻撃系魔法,か。」

ずっと黙っていた勇者が口を開いた。お手上げだ,と言わんばかりにタンクが後ろに倒れ込んで言う。

「そうなんだよなぁ…。あいつは通常で攻撃系魔法を使わないから全く予想がつかない…。」

「普通の雑魚敵だと“毒”とか“叩きつけ”なんかが多いけど。」

「そうですね。ただ,あの特殊個体である死神がそれらの技を使うのか…… 。」

神妙な顔つきの勇者がふと呟いた。

「毒撃の強化版である“猛毒”とかなら可能性としてはありそうだよな…。」

「確かにそれはあるかもしれません…。」

「ばか勇者にしてはまともな意見。」

タンクもむくりと身体を起こして小馬鹿にするように笑いながらヒーラーに同調する。

「お前にしては一理ある考えだな。」

「俺に対する当たりが強い……。」

普段からの行いの結果だなんだと勇者は全員から総ツッコミを喰らった。


「まぁ勇者をいじるのはこれくらいにして…こっからは魔道士にパスするな。ちゃんと作戦考えようぜ。」

「そうですね。いつまでもこの階層に留まるわけにもいかないですし。」

「えっ…ちょっ…作戦考えるのってリーダーの仕事じゃ…。」

「勇者はちょっと黙ってて。」

「…!……うぅ…俺がリーダーなのに……」

勇者が肩を落としたのを見て魔道士が苦笑いする。

「まぁまぁ勇者、そう肩落とすなよ。戦闘面では頼りにしてるから,な?頭脳系はお前には向いてねぇよ。魔道士に任せようぜ?」

「わかった…。」

少し拗ね気味の勇者をタンクがなだめた。


「…良いですかね。じゃあ早速作戦立てていきましょうか。まず,最初に私があいつに特殊魔法をかけて攻撃が通るようにします。これは必須ですね。」

「だね。でも制限時間は10分…。」

「そうなんですよね…。長期戦になるとマジックポーションの数が厳しくなってくるのでかけ続けるのはなかなか難しいです…。」

魔道士が少し眉間に皺を寄せた。そこで勇者があのぉ、とおずおず手を挙げる。

「お、俺からも案…いいか?その、俺があいつの注意を引き付けるからタンクの攻撃が通るようにして欲しいんだ。タンクは重装備で思うように動けないかもしれねぇ。でも俺だったら身軽に動ける。だからこそ注意が俺に向いてる内にタンクが攻撃してくれ。タンクの方が俺よりも一撃の火力は高いしな。勿論俺も注意しつつ切れそうだったら切る。」

思わぬ人物からの作戦提供に魔道士もヒーラーも目を丸くしている中、

「お前がそう言うならやってみてもいいかもな。ちゃんと引き付けとけよ?」

タンクはニヤッと笑ってそういった。魔道士はふむ…と考え込んでから言った。

「なるほど、いいかもしれませんね。ただそうなると勇者の体力消耗は激しいと思い

ます。相手は妨害系魔法も,攻撃系魔法も持っていますし,第一そんなにずっと動き回ってたら勇者の体力が持ちませんよ?」

魔道士の的確な指摘に勇者は答える。

「それも考えた。二手に分かれるんだ。注意を引き付ける俺側にはヒーラー。攻撃側のタンクには魔道士が付いて欲しい。ヒーラーは俺の体力が落ちてきたらそれを回復して欲しいんだ。魔道士は主にタンクのサポート,そしてもし万が一あいつに気づかれて,タンクが危なくなっちまうようなことがあったら援護してやってくれ。」

「多少詰めの甘さはあるでしょうが、きちんと考えられていますしこれなら多少持ち堪えられそうですね。私はやってみる価値はあると思います。お二人はどう思いますか?」

「俺も同感だ。ただ,気づかれてやられちまった場合の治癒する方法がねぇからヒーラーは魔道士に回復ポーションを複数持たせて欲しい。」

「ん,私も別にそれで構わない。」

勇者の目が子供のようにキラキラと輝く。

「じゃあ…!」

魔道士は大きく頷いて言った。

「えぇ。ひとまずこの作戦で行きましょう。」





「ヒーラー,タンク用に回復ポーションを貰ってもよろしいですか?」

「うん。じゃあこれを。」

「回復ポーションが1…2…3………10!?こんなに良いんですか!?しかも全て上級回復ポーションじゃないですか!これではヒーラー側が足りなくなるのでは!?」

普段は冷静沈着な魔道士がポーションを抱えながら焦って言った。しかしヒーラーは至って冷静に「私にはこれがあるから」と青緑に輝くポーション瓶を振ってみせた。

「マジックポーションですか…!」

「そう、魔道士用のマジックポーションとは別に私の分がある。だからそっちの在庫量変わんないから安心して欲しい。これで魔力回復しながら勇者の体力回復サポートする。」

「分かりました。ではそれで,お互いサポート頑張りましょうね。」



「なぁタンク,俺ら勝てるのかなぁ?」

「なんだよ急に…。だいたい,あの作戦立てたのはお前なんだから勝算かなんかあったんじゃねーの?」

「いや…特に無い。」

きっぱりと勇者は言い切った。

「……は?」

「だって相手は戦ったことも見たこともない未知の特殊個体だろ?勝てる作戦なんて思いつかねぇって。」

清々しい程の笑顔でそういう勇者にタンクは不服というか不安というか呆れというか…とにかく複雑な心情の顔を浮かべる。

「まぁそりゃそーだけどよぉ…。」

「でも,タンクがどれだけ攻撃を入れてくれるかでその後が変わってくると思うんだ。俺はお前のこと信頼してるから,頑張ってな。」

勇者はタンクの胸を軽く叩いた。タンクは一瞬驚きの表情を見せた後、笑って言った。

「あぁもちろん精一杯やらせてもらうぜ。お前こそ,途中で力尽きんじゃねーぞ?」

「当たり前だ!」



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続くかもしれないし続かないかもしれない

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