第13話 勉強はいやだ勉強はいやだ
みーちゃんの勇者教育が既に始まっているのに気付いてしまったと同時に、私はこの世界の文字が読めないことにも気付かされてしまった。
この四日間、文字を読む暇もなかったから全然気付かなかった。
というわけで、みーちゃんだけじゃなくて私にも家庭教師が付くことになってしまう。
やだー! 勉強やだー!! と逃げたかったが、流石に通貨の名前とか常識とか知らないと危険だと思ったので泣く泣く勉強することになった。
異世界に来て勉強とか。ほんとうにいやだ…。子守と同じくらいいやだ…。
しかし驚いたことに、家庭教師は魔王討伐メンバーにいた魔法使いだった。
「討伐予定で仕事を空けていたので暇だから来た」
「旅行じゃねぇんだぞ」
魔王討伐ってそんな軽く扱うイベントじゃねぇだろ多分。
現れた魔法使いは、見るからに魔王使いというローブ姿だった。
黒い髪は耳の下で切り揃えられていて、ちょっとざんばら。引き籠もりっぽい白い肌に、骨と皮しかなさそうな細い腕。シャープな縁なし眼鏡をかけた彼は、真っ赤な目で私を見ていた。
分類としては輪郭の薄い塩顔だ。目元も一重だし、色白だし。塩顔のイケメン。
黒い髪は親近感わくけど、目が赤い時点でファンタジー。
親近感とかいいつつ今の私の髪は夕張カラーだから、向こうは一切共通点を感じないだろうけれど。
ちなみに名前はジェイコブ。
魔法使いより騎士とかにいそうな名前だな。名前が強そう。
彼は王宮勤めの魔法使いらしいが、魔王討伐のため本職は長期休暇扱いになっていたらしい。公休だと言われたけど有休じゃなくて公休なの? 違いなに?
「しばらくは確実に旅に出ないから、仕事に復帰すればいいと思う」
「消化していなかった有休を消化することになった。やることがなくて暇だから家庭教師に名乗り出た」
「他にもっとあるだろやること」
「いいや。今一番興味深いのは勇者様とあなたで間違いない」
この魔法使い、ほぼ無表情でじりっとした焦げ付く目付きで見てくるから苦手だ。
(塩顔男子は趣味じゃないんだけど…)
無表情で淡々としている魔法使い。彼にハニトラは難しそうだ。
私に引っかかったとしても、思い通りに操作できる気がしない。幼女と同じくらいわかりにくそう。
ちなみにその幼女はお昼寝中。
ぴったりくっついてこなくなったが、起きている間は私が視界に入らないと探す。難しい話をしているときこそくっついてくる。それじゃ勉強にならないので、私の勉強時間はみーちゃんが眠っている数時間だ。
「行動は我々と同じ…生命活動も変わりなし。魔力はか細いが反応あり。この世界の一般市民と変わりない数値が見込めそうだ。発育は圧倒的だが勇者様がどう育つかでより違いの検証が…」
「チェンジで」
家庭教師が生徒を研究対象として見てるの無理すぎる。
ただでさえ勉強がいやなのに、教える側もこんななので全く捗らない。
この魔法使い、専門用語ばかりで人に教えるのに全く向いていない。かろうじて金銭感覚が理解できた。理解できたがチェンジして欲しい。
セバスチャンは代わりの人員を探すといってくれたが、顔だけ王子はとても渋っていた。
それは以前もいったとおり国では災害が起きていて、こちらに避ける人員が最低限。元々魔王討伐として切り離していた人員を当てていたらしい。その人員の中で、一番頭がいい奴が連れて来られたようだ。
頭がいいからって教育者に向いているわけじゃないんだな。把握した。
なので、簡単にチェンジはできなかった。
(イケメンはイケメンだけど、私の趣味じゃないイケメンだなぁ)
観賞用なら問題ないが、逆にこちらを見るあの赤い目がイヤだ。
赤い目が不気味とか、そんな話じゃない。
こちらをじっとり見詰める目付きそのものが、鳥肌が立つほどいやだった。
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