魔法学園の図書館

 うむ、午後の予定は財布探しだったのだが、流れで【アイテムボックス】持ちだということをバラしてしまったし、もう必要がなくなってしまった。


 もう学園でも最初から隠さず【アイテムボックス】を使っていくことにするか。


 さて、どうしたものか。『ウィング』を使ってまで急いだ意味まで無くなってしまうのは癪なので、学園の施設ツアーでもするか。


 ならば、と、路地裏に入るとともに幻惑結界を発動し学園付近に『転移』する。


 誰も見ていないタイミングで結界を解除し南門を通って学園の敷地に入る。

 そのまま、前から気になっていた図書館に行ってみることにする。

 南門から入って敷地の一番右奥にそれはあった。


 世界最大の魔法研究機関でもあるためか、図書館の大きさがどう考えても本校舎よりも大きい。素晴らしい。


 さて、早速中に入り受付に近づいて職員に利用の是非を聞いてみる。

「すみません、自分は入学予定の者なのですが、入学前でも図書館の利用は可能ですか?」


「こんにちは。ええ、問題ありませんよ。しかし入学前からとは、勤勉なのは良いことですね。利用するのであれば、今は学生証を持っていないと思いますから、入学許可証があれば利用できます。持っていますか?」

『収納』がなければ置いてきていたやつだこれ。あぶなー。


『収納』から入学許可証を手に出現させ渡す。


「あら、【アイテムボックス】を使えるなんて。この学園でもなかなか見ないスキルだからビックリしちゃった」

 そう行って受け取り許可証を確認する職員。


「はい、確認しました。図書館の利用についてのルールを説明するわね?」

「お願いします」

 そう行って、『収納』から筆記用具とメモ帳を右手と左手それぞれに出現させる。


「まず、本館の利用には学生証が必要です。次に無断での蔵書の複製は遠慮してください。許可があれば可能です。本館には魔力を秘めた魔法書などがあるので、館内での魔法の使用は厳禁です。魔法書に悪影響を及ぼしてしまう可能性があるためです。本館の蔵書を破損した場合は罰金があり、悪質であれば退学処分もありえますのでご注意を。蔵書の貸出も可能ですが、持ち運びは学園の敷地内に留めてください」


(魔法書以外はほとんど前世の図書館と変わりはないな)


「そして、本館には禁書が収蔵されているスペースがあります。このスペースへの無断侵入はやめてください。禁書を閲覧したい場合は、学園の許可を取ってからにしてくださいね。さて、最後ですがこれが一番重要です。1つは本館では静粛な利用をお願いしたいのと、もう1つは、魔法書を読んでいる最中にうっかり詠唱したりして魔法を発動しないようにしてください。以上が本館の利用のためルールです」


(うわぁ、うっかり詠唱して発動は怖いな。そんなしょうもないケアレスミスでこの図書館を利用できなくなったりしたら大変だ) 


「流石に、うっかり詠唱は怖いですね」


「遺憾ながら、毎年それをやらかす生徒がいるのです。規模の小さい魔法ならまだしも、爆発が起きるような魔法とかもありました…。どれだけ注意しても同じなので、これはもう人間の限界なのかも知れませんね…」

 遠い目と悟ったような顔をする職員。


「あはは…。お気持ちお察しします」

 苦笑いを浮かべるほかあるまい。


「あなたもそういうことがないようにしてくださいね。本当に。…では、存分に本館をご利用ください」

「ありがとうございました」

 そう言って少し頭を下げてから館内に入っていく。


 ──圧巻だな、これは。


 内装は落ち着いた少し暗い色の木材が全体に使用されており、上を見ればシャンデリアが等間隔で吊り下げられており、下を見れば机と椅子がセットで何十個も置かれている。  

 肝心の蔵書は縦に長い壁一面にズラッと並べ慣れており、ギュウギュウに本が詰まっている。しかも1階だけでなく、壁が階段状になっているため、2階、3階とそんな壁が続いている。


 前世でもここまで感動を覚えるような図書館など経験したことがない。

 精々が市立図書館くらいなもので、これはどう見てもそれを色々上回っている。


 いやはや、世界最大の魔法研究機関の肩書を今ここで深く実感することになるとは思っていなかった。

 でも、まあ自然ではあるか。


 しかしこれは見て回るだけでもかなり時間がかかりそうだし、興味のある分野に絞って見ていくか。


 さしあたっては勇者関連の情報が気になるので、歴史書の類が置いてある辺りに行ってみる。


(『ファブルアーリア魔法国の成り立ち』…『魔法国における実力主義貴族社会の起源について』…『アウロラ魔法学園の軌跡』…『魔法国の王家と勇者』…っ、見つけた、これだな)


『魔法国の王家と勇者』という題名の本を抜き取って、椅子と机が並んでいる場所に向かい椅子に座ってこれを読み始める。


 ───1時間後───


『本書では、ファブルアーリア魔法国の王家と勇者の関係を解説していく…』

 その一文から始まったこの本は、実に興味深い情報をもたらしてくれた。


 この本によると、魔法国と勇者の関係は思っていたよりも深いものだった。それはファブルアーリア魔法国になる以前のアトーレ大森林の開拓時代にまで遡る。


 ご存知の通り勇者は500年以上前に世界中を旅したが、今のファブルアーリアの国土をほとんど覆っていたアトーレ大森林にも例に漏れず勇者が訪れていた。


 その目的は当時のアトーレ大森林の主であったとされる、大悪魔グラムの討伐。

 大悪魔グラムは当時大森林を住み家としており、森林で様々な実験を行っていた。


 例えば、魔力に関する研究、森林に関する研究、魔物に関する研究などなどその研究は多岐に渡っていたそうだが、現在はその研究についての詳細な情報を知ることは出来ないとされている。


(相当厄介な研究でもしていたのか?勇者が研究結果を破棄したとかかも)


 だが、その大悪魔が行っていた当時の実験のうち、ある実験が大森林の外にまで影響を及ぼし始めた。


 その実験は魔物を凶暴化させるという事象を引き起こし、普段森から出ないような魔物さえもが森林から出てきて、当時のアフロディーテ神聖国にその魔物たちが侵攻してきたのだ。


(いわゆる、人為的なスタンピードだろうか)


 それにより神聖国の南地区に壊滅的な被害を生み出し、これは不味いとなったところで、運良く当時の勇者一行がアフロディーテに訪れ、国から原因究明とその原因の排除を依頼される。


 依頼を受けた勇者一行は大森林に向かい、原因である大悪魔グラムを発見するに至り、これを無事討伐。その後魔物が暴走するに至った実験で使われていた稼働中の装置を停止。


(悪魔が相手ということは、勇者の光属性は存分に活躍したのかも知れないな)


 これにより侵攻してきた魔物たちの洗脳のような状態が解け、魔物の侵攻も停止する。


(こういう実験って、なんだかんだ抹消されていたかと思えば誰かが今もその研究を引き継いでいたりするんだよなぁ。無いと思いたいが)


 そして、無事依頼を達成した勇者が国から受け取った物の中には何故か、神聖国で聖女と呼ばれる超凄腕の魔法使いである、アウローラという女性も含まれていたという。


(うーん、これは…神聖国の教義とかそういう関係だろうか)


 勇者一行に聖女もとい強力な魔法使いアウローラが加わることになり、これも皆さんご存知の通り勇者一行は無事に魔王を討伐するわけだが、魔法国の設立に関する話はここからだった。


 大義を無事に遂行した勇者一行は解散し、それぞれの思い入れの強い国や場所に散っていったのだが、件の魔法使いアウローラはアフロディーテに戻ってから何故かその力を振るって、大森林を開拓していき、その元は森林だった肥沃な土地に人が集まりだし、結果的に国ができあがったのだとか。


(これもアウローラの動機がわからない。また教義とかに関わることか?)


 また、その国の王は、森を開拓したアウローラとその開拓を最も身近で支え続けた男性との間にできた子供で、その子供は強力な魔法使いである母親に憧れ、その国を魔法使いの育成に力を入れた国にすると決心する。


 そして同時に、当時の国王はアウローラの名前から取って、アウロラ魔法学園という学園の設立を推進し始め、無事学園が完成する。


 そしてその数年後辺りから、この国はファブルアーリア魔法国と呼ばれることになる。


 そして現在に至る、と言うわけだ。


(所々動機がわからない展開があったのはさておき、実に興味深い内容だった。この国の成り立ちそのものに勇者一行のメンバーが直接関わっているとは…)


 この感じだと、他の勇者一行のメンバーもどこかで何か偉業を成し遂げているのかも知れないな。


 本を閉じて背伸びをし、立ち上がって本の元あった場所に向かい棚に戻す。


(中々に有意義な時間だったな。さて、今日は残りの時間をどうしたものか…ギルドにも行ったし、図書館も利用できることが分かったし、まあとりあえず敷地内の施設をあらかた見て回ってみるか)


 そう思いとりあえず図書館を出る。

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