Dランク昇格への道

(ふむ、確かEランク討伐依頼4つとDランク討伐依頼を1つ遂行するのがDランクへの昇格条件だったっけ)


 依頼ボードを確認しつつ脳内で再確認する。


 運搬依頼を受けたときのように、依頼期限が厳しくなさそうなものを中心に5つ選別してボードから剥がして受付に持っていく。


「すいません、この5つを受注します」

「はい、受注いたしました。ダーネルさんが認めたくらいですから余計なお世話かもしれませんが、お気をつけくださいね」


「はい、分かりました。充分に気をつけて遂行してきます」

 そう言い軽く頭を下げてから踵を返しギルドを出る。


 さて、まずは4つのEランク依頼で肩慣らしをしてからDランク依頼に手を付けるか。


 魔物の討伐依頼に順番は関係ないので、Eランク依頼の魔物を手当たり次第に片付けたらDランク依頼の魔物を狙いに行く。


 期待感が高まったところで、少し早いが腹拵えしておこう。

『収納』から串焼き肉を3本取り出して平らげてから、リンゴーンを皮ごとかじる。

 うん、美味い。味もりんごとほとんど変わりない。強いてあげるなら少し甘いくらいか?


 よし、栄養補給もしたし、さっさと街を出て魔物を討伐しに行こう。

 依頼書によると、スライム5匹、ゴブリン10匹、ホーンラビット2匹が4つのEランク依頼の全てだ。


 ロアルドからアトーレ森林に出入りするための門で、門番にFランクからEランクへ表示が変わっているギルド証を提示して通してもらう。


 そういえばEランクくらいから身分証としての効力を発揮し始めるのだったか。ふむ、後々学生証も貰えるだろうが、外では基本ギルド証を身分証として使うか。学園関係の人物からの身バレ防止のためにもな。


 実は、この街ロアルドから北にアトーレ大森林という場所が存在している。

 実家にいる際にメモ帳に書いておいた超簡易的な地図を見せよう。


 https://kakuyomu.jp/users/xylitol0321/news/16818093088108522759


 本来街ごとの境界線はここまで直線的に敷かれてはいないが、超簡易的な地図なのでご容赦いただきたい。


 さて、なぜここまでファブルアーリアの開拓が進んでいるのに、この大森林は開拓されていないのか。


 答えはシンプルで、ファブルアーリア全体の魔素を調整する役割を担っているのがアトーレ大森林だという考えがあるのだ。


 なぜか。それは過去に、ファブルアーリアの開拓ために今よりも広かったアトーレ大森林を縮めることになった結果、開拓前よりもその周辺の魔素の濃度が下がり、人間の魔力変換効率がはっきりと低下したのが原因だ。


 例えば、エルフの領土であるセプテンはその大半が森で構成されているが、そのおかげか他の地よりも魔力の変換効率が比べ物にならないくらい高いのだとか。

 セプテンには世界樹が存在するのも、もしかしたら一因かも知れないが。


 そんな例もあってかファブルアーリアで、これ以上のアトーレ森林の縮小はやめておこうという考えに当時至ったらしい。


 どの世界も自然破壊によって起きることは良くないことばかりということなのかも知れない。


 この世界の人間にとって魔素、ひいては魔力はなくてはならない要素だし、自分もその判断は正しいと思う。


 ファブルアーリアだけ魔法が使えないなんて事になったら、国防の観点で言うと致命的だ。もちろん、他の面でも多大な影響を及ぼすことだろう。


 と、そんなことを考えながら森の浅い部分にまで来たところで、スライムに遭遇。

 依頼書には、本当に魔物を討伐したのかを証明するために魔物の指定部位を持ってくるように書いてある。


(スライムの場合はっと…よし、体の一部だな)


 スライム相手に剣を使うのもアレなので、空間属性の上位魔法である『ブレイク』でスライムの体の一部を残して切り裂き、消滅させる。


『ブレイク』は空間を切り裂き、敵に直接ダメージを与える魔法で、汎用性抜群なので恐らく今後もよく使う魔法の一つになるだろう。


(あ、空間属性を誰が居るかもわからない場所で当たり前のように使って良いのかって?)


 大丈夫、【気配察知】でそこら辺はしっかりと警戒している。ついでに【結界術】で幻惑魔法も張っておくか。

 これで結界の内側の光景は隠され、外側からは何も起きていないように見せる。



 よし、問題ないだろう。引き続き探索を継続していこう。


 歩きながら【気配察知】でスライム、ゴブリン、ホーンラビットを探す。

 ついでにDランク討伐依頼のモンスターも話しておくと、オーク2匹だな。

 いつも串焼き肉として大変美味しくいただいている、あのオーク肉の持ち主だ。


 あの肉ならいくらあっても良さそうなものだが、自分で美味くなるようにオーク肉を調理する方法を知らないので乱獲してもしょうがない。


 そうしてオーク肉について考えながら歩いていると、【気配察知】が魔物の気配を捉えた。

【完全隠蔽】が働いているので、魔物は大抵自分の存在や気配に気付くことができない。

 変わらないチートスキルっぷりだ。


 そうして気配の元へと接近すると視界に入ってきたのは、頭に立派な角を生やしている兎っぽい動物。


(ゴブリンじゃなくてホーンラビットか)


 まあ順番は特に指定されてないので、早速討伐する。


 ホーンラビットの証明部位はあの立派な角なので、スライムのときのように角が生えている頭を『ブレイク』で胴体から切り裂いて討伐する。


 スライムの体は要らなかったから『ブレイク』で一部を残して消滅させたけど、ホーンラビットの素材はスライムよりも需要があると聞いたことがあるので残しておいたのだ。


(今度魔物の素材の価値も調べるべきかな?)


 切断した頭と角を『ブレイク』でまた切断し、角、頭、胴体をすべて収納する。

 そうしてまた【気配察知】による魔物捜索を再開する。


 やはり大森林ということもあって、植生も豊かだ。

 片っ端から【鑑定】しているのだが、薬草はもちろん毒草や麻痺草、たまに魔力草らしきのも生えている。


 もちろん果物も色々あるが、薬草に比べて少し採取に手間がかかるのと、果物まで取っていたら時間を食ってしまうので程々にしている。


(果物なら街でも買えるしな)


 毒草とか麻痺草に直接触れるほど危機管理ができないわけではないので、自分の両手に空間属性でグローブの様に手を覆う空間を作ってから採取している。


 と、採集活動に勤しんでいるとまたまた【気配察知】に反応アリ。

 採取を中断してその気配に近づくと、ゴブリンを3匹発見した。


(ふむ、人型だし剣の修練にもなるだろうから、魔法剣士として討伐してみるか)


『収納』からアダマンタイトの剣を右手に出現させてから、風魔法の『ウィンドエンチャント』を剣に付与する。風の力で切れ味を上昇させる魔法である。


 アダマンタイトは鉱石の中でも魔力伝導性が低いので本来は少し効果が低くなるが、それは【属性強化】によって帳消しにされる。


 剣に風の属性が付与されたことを確認して、素早く茂みから飛び出し一体のゴブリンの首と胴体を切断する。


(うん、切れ味は問題なさそうだな)


 続いて急な襲撃に驚いている2匹のゴブリンの首も切り落とす。


 よし、魔法剣士としてのデビューをきれいに飾れただろう。

 切ったゴブリンから、証明部位である左耳を剣で切断して収納する。


 ゴブリンの胴体は価値がなさそうなので、そのまま火魔法で燃やす。

 その後に光魔法である『ピュリフィケーション』でアンデッド化の可能性を完全に排除する。


 発動した際に、周囲が光で一瞬照らされる。


『ピュリフィケーション』は、自分の光属性のイメージが浄化だったことから自作した魔法だ。

 通常、火で死体を燃やすだけで大抵はアンデッド化を防げるのだが、それでもたまにアンデッド化してしまうものがいると前に聞いたことから自作に至った。


 効果の程も子供の頃に実験済みだ。

 数年経っても殺したどの魔物もアンデッド化しているのを確認していない。


(まあ、アンデッド化を防ぐ意味もあるけど、使う機会の少ない光属性の経験を積むためでもあるんだよな)


 わざわざ光属性の攻撃魔法を使わなくても、より便利で威力の高い空間魔法があるし、かといって何かを回復させるという機会も全然ない。


 精神体みたいなモンスターには効くのだろうが、まだ遭遇したこともない。

 光ったりして派手だから表立って使うのも憚られるという散々な具合である。


 世間では勇者の使っていた属性としてよく挙げられる有名な属性だが、内実はこんなものだ。

 まあ、回復する相手がいたり、専門が精神系モンスターだったりする場合にはもってこいだろうけども。


 さて、思考はこれくらいにして、引き続き依頼の残りを達成していこう


 ───1時間後───


「ふぅ、ようやっと集まったか」

 Eランクの魔物討伐完了である。ならば…。


「オーク、行きますか」


 実家の近くでオークを見たことがないので、初遭遇になるだろう。

 意外に時間を食ったので、ここからは急ぎ目に行く。午後には財布を買う予定がある。


 実は、作ったのは良いものの、未だに完全に制御することができていない『ウィング』という風属性の上位魔法がある。名前の通り、背中に風の翼を発現させて飛ぶための魔法なのだが、これまた慣れない感覚でまだあまり長時間飛べない。


 だが、練習しないと上達しないのは確かなので、使うことにする。


(失敗して落ちそうになっても、空間魔法で足場を作ってやれば対応はできるし)


「『ウィング』」

 気合を入れるために魔法名だけ口にして発動する。


 すると背中のあたりに2つの風の塊のようなものが生まれ、それが翼の形に変形する。

 それを確認してから、翼を制御して体を浮かび上がらせる。

 そのまま周辺の木々よりも高い位置に飛んだら、そこから今度は水平に飛ぶように制御に集中する。


「やっぱり、難しいな…」


 人間に元々存在しない部分を生み出して操作する、という体験など普通はしないので、慣れるのに時間がかかりそうだ。


 水平に飛ぶだけならまだ飛べなくはないのだが、鳥のように縦横無尽にというのはまだまだ無理そうだ。まあ飛べるだけありがたいことなのだが。


 そうして出力を徐々に上げて飛翔速度を上げていく。これも速度を出しすぎると危険なので、自転車で早めに走る程度に留めておく。


 そうして少し経った頃に【気配察知】でEランク魔物より少し魔力の量が多く感じる気配を見つける。


(オークであってくれ…)


 そう思いながら翼を制御して降下し地面に足をつけてから、早足でその気配に近づく。


 そして視界に入ってきたのは、豚のような顔をしている二足歩行の魔物だった。


(よし、オーク!しかも、三匹も居るではないか。いいね)


 恐らくオークだろうが、糠喜びする前に【鑑定】で対象を鑑定する。


 <名前> 無し

 <種族> オーク

 <性別> オス

 <年齢> 4歳

 <能力値>HP: 220/220 MP: 53/53 STR:55 DEX:11 VIT:72 AGI:43 INT:23 MND:14 LUK:4

 <スキル>【突撃】【呼び声】

 <説明> 森や洞窟に生息する亜人系の魔物。凶暴な性格で、人間を襲うことも多い。集団で行動することが多く、上位種のリーダーがいることもある。


 よし、やはりオークだな。なら切るまでだ。

 アダマンタイトの剣を手に出現させ、『ウィンドエンチャント』を剣に発動する。


 そして一応Dランクモンスターなので、【身体強化】を使う。

 体に力が漲るのを感じてから、飛び出してオークに接近する。


【呼び声】を使われたらたまらないからな。

【呼び声】はどうせ仲間を呼ぶスキルなので、その前に片付ける!


「もらった!!」


 今日何度も繰り返してきた様にオークの首を切断する。


「プギィ!?」「プグォォ!?」


 その流れで驚いているオークに何もさせまいと、残りの二匹にも接近して首を刎ねる。


「圧倒的ではないか、我が剣は」


 と、戦闘後のテンションで変なことを言ってしまう。


 だが、Dランクくらいではほとんど一方的に対処できてしまうので、修練にはあまりならない。前にも言ったように強敵との戦闘経験が自分には必要なのだ。


「いっそ、【完全隠蔽】の気配遮断だけオフにして戦うか?」


 そう考えながら、3匹のオークの頭から証明部位の左耳をゴブリンのときのように切断し収納。

 同時に頭と胴体も収納する。


「さて、森に来て2時間くらい経ったか?まあまだ昼だし良いか」


 やることも無くなったので、ロアルドの門付近の森まで『転移』し、出入り口の門に向かう。かけっぱなしだった幻惑結界も解除しておく。


 ロアルドを出たときのように門番にギルド証を見せてから中に入り、その足でギルドに直行。


 少し小腹がすいたので串焼き肉を1本取り出して食す。

 うん、仕事終わりの塩味は良いね。ミネラルを補給していこう。


 食べ終わって残った串を収納したところで、ちょうどギルドに到着。


 そのままギルドに入り受付に向かう。朝来た時と変わらず人は少ない。

 いつもの受付職員に報告を行う。


「すみません、依頼達成の報告に来たので処理してもらってもいいですか」


「あら、すごくお早いですね!流石ダーネルさんが褒めていただけはあるということですか。素晴らしいです!」


「それほどでもありません。証明部位と依頼書をお渡しすれば良いので?」

「はい、そうですよ」


 流石に出す量が出す量なので、そろそろ【アイテムボックス】の話をしておくか。

『収納』から受付テーブルの上に証明部位と依頼書を出現させる。


「っ!? これは、【アイテムボックス】ですか!?」

 珍しく大きな声を出す受付職員。


「ええ、はい。実は【アイテムボックス】が使えます。なので、証明部位以外の魔物の死体もそのままの物があるのですが、それはどうしたら良いですか?」


「ええっと…はい…分かりました。えー、魔物については解体部門に解体と買い取りを依頼できますね」


(ぬはは、動揺しておるな)


 人を驚かせることとかサプライズの類は、自分が実行する側の場合に限り好きなのだ。

 なんでそうなのかは分からないが、まあ性格によるものとしか言えない。


 まあそれはさておき、解体部門か。

 ギルドに解体部門あり、だよな。


「では、解体をお願いします、どこへ行けばいいでしょうか?」

「解体部門は、あの解体部門、と書かれた扉の先です。そこで対応してもらってください」


「分かりました。ありがとうございます…っと、先に依頼達成の手続きをしましょうか」


「そうですね、討伐証明部位も依頼書の討伐数と一致していますので、Eランク討伐依頼4つとDランク討伐依頼1つの依頼達成になります。ということで、カイさんはDランクへ昇格になりますので、ギルド証を更新しますね」


 今回はコソコソせず受付テーブルの上に直接ギルド証を出現させる。

「本当に【アイテムボックス】…いえ、ありがとうございます」


 そう言うと、お馴染みのギルド証を更新してくれる職員に受付職員がギルド証を渡す。

 ギルド証を受け取った職員が少し驚いた顔をしていたが、そのまま更新に向かっていった。


(そりゃ、昨日冒険者登録してもうDランクだからなぁ。自分がおかしいのだと自覚すべきか?知らず知らずの内に常識知らずになって恥をかくのは真っ平ごめんだからな。本当に)


「では、達成報酬が銀貨7枚になりますが、そのままお持ちしますか?」

【アイテムボックス】があるんだろう?みたいな顔で言ってくる。


「そうですね、そうします」


「承知しました。では、お渡ししますね」

 その銀貨を受け取りすぐに収納する。


「あと、銀行にお金を預けるのもお願いしていいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 了承してくれたので、『収納』内の自分のお金と生活費用のお金を混同しないように、生活費用の残金である銀貨86枚と青銅貨8枚をテーブルの上に出現させる。

 銀行口座には仕送りなどのお金すべてを管理する専用口座になってもらうことにした。


(学園を卒業したら、『収納』が使える自分はもう口座を使わないかも知れないな)


 出てきた銀貨が多すぎて、テーブルの上でメダルゲームみたいに綺麗に縦に積んであるのを見て少し笑ってしまう。


「あはは、すごい…いやいや、はい。責任を持ってお預かり致しますね」

 職員が少し素を出してしまうが、すぐ切り替えて対応してくる。


「はは…お願いします」

 それに対して苦笑いして返事をする。


 そのタイミングでギルド証の更新が終わったのか、更新担当?の職員が戻ってきて、受付職員にギルド証を渡す。

 そしてそのまま受付職員がギルド証を渡してくる。


「はい、これでカイさんはDランク昇格になります。おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

 謙遜はせずにすぐにギルド証を受け取る。


「では、解体を依頼してきますので。失礼します」

 礼をして先ほど教えてくれた解体部門の部屋に向かう。

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