冒険者登録と初依頼

 そのまま寮に戻らず学園を出て、場所を事前に調べていたギルドに向かう。


 ギルドといえば、定番の展開である舐められて絡まれるアレが起きないか心配だが、一応今の時刻であれば大概の冒険者は出払っているだろう。これもファンタジー作品からの推測に過ぎないが。


(ギルドの依頼は早朝にボードとか掲示板に張り出されて、冒険者たちは割の良い仕事にありつくために我先にとその時間に殺到する、というのはよくある設定だからな)


 まあこの昼の時間に居るようなやつはまともな冒険者じゃないことも多いので運といえば運だが。


 そう考えながら移動し、ロアルド支部のギルドに到着する。


(おお、すごくギルドって感じだ)


 ギルドの建物で定番と化した入口の西部劇風のスイングドアが、ここがギルドであることを名一杯に証明してくれている。


 やはりこの時間にはそこまで冒険者がいないようで、スイングドア越しにはあまり人気を感じない。


 早速突入すると、入って右手にテーブルが数個設置されており、数人がまばらに座って食事をしている。なるほど、これはギルド併設の酒場かなにかだろうな。これも定番だ。


 少し視線をずらすと、壁に教室の黒板くらいの大きさのボードが設置されており、そこには依頼書であろうものがまばらに貼ってある。


(うんうん、これだよこれ。これがギルドだよな。依頼ボードのないギルドはギルドではない)


 そして真正面を向くとカウンターが3つあり、人があまりいない時間だからか中央のカウンターにしか職員がおらず、他2つのカウンターは稼働していないようだ。

 唯一職員がいる中央のカウンターに向かう。


「こんにちは。あ、もしかして魔法学園に入学予定の方でしょうか?」

「えっと、はい。そうです。なんで分かったんですか?」


「この時期にあなたくらいの年齢の方がギルドに来るとなれば、このロアルド支部では大抵は新入生の方ですからね」

 そう言って少し笑みを浮かべる女性職員。


 まあそうか、今は制服を着ていないからなぜ分かったのか気になったが、そういうことなら納得だ。


 ちなみに前にお伝えした通り、こういうビジネスライクな関係ならやるべきことが明確なので女性への対応でも問題なく行える。


「なるほど、では自分も例に倣いまして、冒険者登録をお願いできますか?」


「ふふ、はい。ではまずはこの資料に氏名と年齢、性別と職業などをご記入ください。氏名に関しては安全に配慮するために、偽名でも問題ございません」

「分かりました」


 ふむ、名前か。偽名でもオーケーなのは良いな。


 性格上、自分の情報はあまり無闇に人に教えたくはないので、偽名で行こうか。

 うーん、では、「カイ」で。特に意味はないが、呼びやすさ重視だろうか。


 以前からファンタジー作品で冒険者の登場する話を読んでいると、

(これ絶対短い名前のほうが、咄嗟のときも呼びやすくて良いよな...)

 と常々思っていたのだ。


 年齢は誤魔化してもしょうがないので13歳のままで、職業なぁ…。


 魔法学園の新入生ということがバレているなら隠さず魔法使いであるべきだろうか?

 いや、やはりヤヌスの剣術を使う剣士ということにしておこう。

 何なら魔法学園の生徒としての要素を少し足して、入学後は魔法剣士とかにしておくか。それならそこまで勘ぐられることもないだろう。


「一点質問なんですが、職業を後で変更するのは可能ですか?魔法学園に入学してからは上手く行けば魔法剣士としてやっていこうと思っているので」

「はい、職業を後から変更する方も普通にいらっしゃいますし、問題ありませんよ。その際にまたお申し付けください」


 ならば、と、氏名の欄に「カイ」、年齢の欄に13歳、性別の欄に男、職業の欄に剣士とそれぞれ記入し、職員に渡す。


「…はい、ありがとうございます。では、冒険者ギルドの規則についてお伝えしますね」

 職員が渡した書類にサッと目を通してから他の職員に手渡してそう言う。


「お願いします」

「まず、冒険者ギルドの冒険者にはGからSまでの冒険者ランクが存在しており、カイさんは本日からGランク冒険者となります。GからFにランクを上げるにはまず街中での依頼を三つほど受注していただき、これを達成して頂く必要があります」

 頷き返す。


(そうだよな、最初からいきなり街の外の魔物の討伐依頼なんかにGのビギナーを充てていたら危険極まりないし)


「FからE、EからDなど、それぞれに昇格条件が存在しますが、それは追々で大丈夫でしょう。そして、受注したクエストを途中放棄したい場合はギルドにお申し付けください。そして、無事に依頼を達成した場合は忘れずギルドに報告してください。依頼の種類は、あちらの依頼ボードから自由に選択していただき受注する自由依頼と、依頼人から指定の冒険者に対して指名して依頼をする指名依頼があります」

「はい」


「そして、ギルドは冒険者間のいざこざなどには基本介入いたしません。各人の裁量におまかせする形が基本ですが、あまりに悪質である場合においては例外的に介入させていただく場合もございます。また、ギルド内での私闘などは秩序の乱れに繋がりますのでご遠慮願います。その場合においてもギルドが介入いたします。以上が冒険者ギルドの基本的な規則になります」

「なるほど、分かりました。」


 そう言うと、先程この職員が書類を渡した相手が戻ってきて受付職員に何かを渡す。


「では最後に、このギルド証にあなたの魔力を登録します。ギルド証に触れていただくだけで大丈夫ですよ」

 その言葉に従いギルド証を受け取ると、一瞬だけギルド証が小さく光を放ち収まる。


(おお、これまたギルド定番のギルドカードとかギルド証の魔力登録だな。感動だ)


「はい、登録を確認しました。これからそのギルド証はあなたの身分を証明するものとしても使用できますが、Eランク程度からでないとその効力は少々少なくなりますので、それまでは身分証としてなら学園で発行される学生証のほうが良いでしょうね」

「そうなのですね、ありがとうございます。」


(Gランク程度では身分証にはなり得ないか。まあ登録しただけって感じのランクだからな。別に学生証があれば困ることはないので特に問題はない)


「ではこれで、冒険者登録は以上になります。あと一点だけ宣伝なのですが、冒険者ギルドにはお持ちのオボルスを預けておける銀行としてのサービスも存在しております。皆様の預金を利用した貸付などの制度は無いので預金に利子は発生しませんが、代わりにギルド証があれば世界中のギルドでご利用いただけるので便利ですよ」


(おお、銀行はあればいいなと思っていたがあるのか。存分に利用させてもらおうか。ならまずは祝い金の金貨を一枚預けておこう。常に200万円を携帯するというのは落ち着かない)


 前世の最後では普通の大学生だったし、そんな大金を自由にできる立場でもなかったので、どうしても慣れないのだ。


「なら、それの登録もお願いします。それと金貨を一枚預けさせていただきたいのと、両替もできますか?」


 金貨を銀貨にしておかなければ普段遣いに困ってしまうのでさっさと両替しておきたいのだ。


「はい、可能ですよ」

「ではもう一枚金貨があるので、それをすべて銀貨にしていただけますか?」

「かしこまりました。先に金貨をお預かりさせていただきます」


 そう言われたので懐から出す振りをして『収納』から金貨を2枚取り出し渡す。

 そしてそれを職員が受け取り、テーブルの下から銀貨と小さい袋を取り出す。

 その袋に銀貨を詰め込み渡してくる。


「では、金貨1枚分ですので銀貨100枚となります」

「ありがとうございます」

 礼を言い、袋を『収納』に放り込む。


(あ、いやまあいちいち枚数を数える必要もないか?信用問題だし、ちょろまかすようなことはしないはず)


「口座開設に関してはこちらですべて完結しますので、改めまして手続きは以上になります。これからがんばってくださいね!」


「はい、頑張ります」


 そう言って会話を終了させ、早速誰もいない依頼ボードに近づく。


 どうせ今日はもうやることもないしまだまだ昼時だから、理想を言えば今日の内にGは脱却したい。


 冒険者として登録したのは自分で自由に使える金を手に入れるためだから、Gランクではそれができないなら、さっさとランクを上げてしまうのに越したことはない。


 両親からの仕送りもあると聞いているが、それも祝い金の金貨2枚と同様学園関係や日常生活で必要になった場合にしか使用しないことにしている。

 自分で稼いで自由にできる分はいくらでもあって困るということは無い。


 そう考えながら依頼ボードを見ていると、清掃の依頼や店の手伝い、荷物の運搬などが見つかる。依頼概要にもGランク推奨と書かれている。


(うーん、清掃は魔法を使っていいなら楽そうだけど、今はまだ魔法は普通使えないはずだ。常識を忘れてはならない)


 ならば自慢の能力値で肉体労働が手っ取り早いか。

 そう考えて、期限が今日中のもので作業の時刻がちょうどバラける手頃な運搬依頼を3つ依頼ボードから剥がして受付に持っていく。


「すいません、早速ですがこれらを受注したいと思います」

「あら、もう初依頼ですか?はい、受注を受け付けました。依頼が完了したら依頼人に依頼書へサインをしてもらってギルドまでお持ちください。それで依頼が完了となります」


「ありがとうございます」

 職員に礼を言ってから踵を返しギルドを出る。


 さて、1つ目の依頼は引越し業者からのようなので、早速現場に向か…う前に、食料を買い貯めておきたい。もちろん学園に学食は存在するが、いちいち脚を運ぶ時間と手間が面倒くさいので、事前にどこかで爆買いして『収納』に貯蓄しておきたいのだ。


 それに、学食の場所は貴族寮の一階であることは分かっている。

 貴族に周囲を囲まれながら食事なんて、落ち着いて味も分かったものではないだろう。


 あと、それとは関係なく普通に腹が減ったのもある。

 ちなみに飲料は水魔法で生成した水を飲んでいれば事足りる。

 無料で喉を潤すことができて魔法の訓練までできるなんて、最高に効率が良い。


 なので、現場へ向かう道の最中に何か美味そうな物を売っている屋台はないか探す。


 そして、目に止まったのは串焼き肉を売っている屋台だ。肉の美味そうな匂いが食欲をめちゃくちゃに刺激する。

 早速近づいていく。


「おう!らっしゃい!オークの串焼き肉、一本銅貨5枚だ!」

 オークか、良いね。一本銅貨五枚は500円に相当するわけで、ちょっとお高めかと思うが、実家でも度々食べたことがあるオーク肉は美味かったので妥当なのだと思う。

 だが、保険のために最初は一本だけ購入して味見をしておこう。


「一本だけ貰えますか?味見がしたいので」

 そう言って銀貨を渡す。

「? よし分かった、一本持っていけ!」

 そうして串焼き肉と釣り銭の青銅貨9枚と銅貨5枚をもらう。


 少しだけ離れた場所で早速オークの串焼き肉を食す。

「! 美味い!さすがはオーク肉だ! 塩がかかっていて塩分補給もできるな」

 腹が減っていたので数十秒で平らげる。


 初っ端からこんな串焼き肉に出会えるとは、LUKが仕事したのか?

 こりゃあ買い占めだな!

 再び屋台に近づき声を掛ける。


「すみません、大変美味しかったのでこの屋台の在庫あるだけ買いたいんですが…」

「はぁ!?全部ってなると…200本で銀貨十枚だが…払えるのか?いや、というかどうやって持っていくんだよ?」

「お金は問題ありません。それと自分は【アイテムボックス】のスキルがあるのでいつでも食べられるんです」


「いやいや、【アイテムボックス】は収納しても腐っちまうだろうが」

(ん?…え? いや、もしかして【アイテムボックス】って収納空間の時間の流れがゆっくりになったりしないのか?『収納』が特別? ……あり得るな。空間属性の魔法だし、【アイテムボックス】と違っても何もおかしくは無い…。マジか…)


 どうしたものか。スキルが進化したとでも誤魔化せばいいか?だが、スキルが進化するなんて聞いたこと無いしな…。まあ、誤魔化しても別に問題はないか。本当のことを教える必要なんて無いしな。


 そう思い顔を上げると、急に長考し始めた自分に屋台の店主が怪訝な顔をしていた。


「ああ、すみません。自分の【アイテムボックス】は少々特殊で、時間の流れがかなりゆっくり流れているので、そうそう腐ったりはしないんです。ですので、200本すべて買わせてください」

 そう言いながら銀貨を10枚『収納』から手に出現させて、店主に渡す。


「お、おう…。まあ良いか、買ってくれるって言うなら売るだけだ。問題ねぇ、200本今から用意する」

「でしたら、完成した串焼き肉は熱々の内に収納したいので、ここで待ちます。できたてをどんどんください」

「そうか、分かった。ちぃとばかし待ってな!」


 そうして、串焼き肉200本回収RTAが始まった。

 完成しては仕舞い完成しては仕舞いを繰り返して15分ほど経った頃に最後の串焼き肉を収納した。


「ふぅーー…。結構かかっちまったな。200本一気に焼くなんて初めてだからよ、すまねぇな」

「いえいえ、店主さんもお疲れ様でした。ゆっくり食べていこうと思います。では」

 一礼して現場に向かいながら『収納』から串焼き肉を取り出して食べる。


 そういえば、異世界の引越し業者とか、自分でもあまり聞き慣れないな…。魔法が使えるならいちいちギルドに依頼を出す必要もなさそうだが、やはり魔法使いという人材は貴重なのだろうか?

 一応世界最大の魔法学園のお膝元なのだから、そういうことも十分有り得そうだが。


 まあだが、魔法はダメでも【アイテムボックス】(『収納』)を使っていいなら引越しはすぐに終わるだろう。最高の魔法だ。


 そうして思考しながら串焼きを4本食べたところで目的地に到着。

 そこには、ひと目で引越し業者だと分かるくらいに逞しい体つきをした男たちが、複数の荷車のようなもののそばで何かを待っているのか話しながら集まっている。


(依頼を受けた冒険者を待っているってことでいいのかな?)


 その集団に近づき声を掛ける。

「あの、すみません、引越し業者の方たちですか?自分はギルドの依頼を受けて作業のお手伝いをしに来ました。カイと言います」

 そう言ってもらったばかりのギルド証を手にして見せる。


「おお、やっと来てくれたか!…って大丈夫か?お前パッと見そんなに力があるようには見えないが」

 おそらくリーダーであろう人が答えてくれる。


「安心してください。これでも他国の剣術は一人前程度にはできるくらい鍛えていますので。それに自分は【アイテムボックス】というスキルを使えるので、お役に立てると思います」

「【アイテムボックス】だと!?お前さんすげぇな…。魔力は問題ないのかよ?」

「そうですね、魔力量には自信がありますよ」

 そう言って少し笑みを浮かべる。


「ほぉ…。なら存分に役に立ってもらおうじゃねぇか。実のところ、いつも荷物を運ぶのを補助してくれる魔法使いが居るんだがよ、突然今日は急用で無理だって話になって、昨日慌ててギルドに依頼をしたわけだ。いやぁ、【アイテムボックス】持ちが来てくれるなんて運がいいぜ!」


(やっぱり居るのか、荷物運びの手伝い魔法使い)

 そうだよなぁ、居るといないとじゃあ大違いだよなやっぱり。具体的にどうやって補助しているのかは分からないが。身体能力上昇の魔法とか、はたまた魔法で直接荷物を運ぶのか?どっちだろうか。


「なるほど…。では早速ですが運び出す荷物まで案内してもらってもいいですか?どんどん収納していくので」

「よし、じゃあ俺達も行くぞ!」

 とリーダーが言って周囲に居た作業員に声をかけ歩き出すのでついていく。


 そして、建物の中の荷物がまとまっているところまで来た。結構多いなこれは。


「よしこれが今回運ぶ荷物だ。じゃ、カイ。張り切ってやってくれ」

 それに頷き返し、手慣れた『収納』の際の一連の動作をする。

 ぱっと全部収納するのは他の作業員に申し訳ないし、三分の二くらいだけ収納するか。

 あと、ちょっと遊び心を加えて荷物に手でもかざしたりして。


 荷物に向かって手を差し出し、「収納」!と声に出して発動する。声に出すのも必要ないけど。これも遊び心だ。


 すると積み上がっていた荷物の三分の二ほどが形を変えて吸い込まれるように手の中に収納されていく。

「よし、このくらいなら問題なく運べますね」


「おお!すげぇな!これが【アイテムボックス】か!荷物ほとんど収納しちまったじゃねぇか!【アイテムボックス】持ちなんて滅多に見れるもんじゃないからよ、貴重な経験させてもらったぜ!」


「いえいえ、では収納しきれなかった分はお任せしてもいいですか?」

「おう!おめぇら!こんくらいならさっさと運んで終わらせるぞ!」

 そう言うと他の作業員たちが「はい!」と大声で返事をしてすべての荷物を運んでいく。体育会系だな…。


「よし、カイもついてきてくれ。引っ越し先の場所はそう遠い場所じゃねぇからすぐだぜ。ありがたいことに一往復で仕事が終わるみたいだし、感謝するぞ」

「いえ、行きましょうか」

「おう」


 そう言って建物の外に出ると、最初に見たいくつかの荷車に荷物がすべて積載されている。

 運ぶのは人力か。これも魔法で改善はできそうだが、今は魔法は使えない設定なので余計なことはしない。


「よし、じゃさっさと行くぞおめぇら!」

 そう言って作業員が荷車を動かしていくので歩いてそれについていく。


 ある程度荷車を引いた者は荷車を引いていない者へ交代し、それを繰り返して30分ほどで引っ越し先の建物に到着する。


「んじゃ、どんどん荷物を運び入れていけー!カイ、お前も中に入って荷物全部出してくれ」

「了解です」

 そう返してリーダーと建物の中に入っていき、エントランスのような場所で荷物をすべて『収納』から取り出す。


「やっぱ便利だよなぁ、【アイテムボックス】。こんな能力を持つやつが今よりも多くいたとしたら、ウチみたいな仕事をしているやつはお役御免になっちまうところだが、幸か不幸か【アイテムボックス】使いは貴重な人材だからな。こうやってたまに手伝ってくれるくらいがちょうど良いな」

 そう言って笑うリーダー。


「自分が言うのもなんですが、【アイテムボックス】使いが国お抱えになるのも引く手あまたなのも理解できる気がします」

「そうだな、お前さんは将来【アイテムボックス】使いとしてどっかに雇われて食っていく予定なのか?」


「実は、僕は魔法学園の入学前なので、やはり魔法学園で様々な選択肢を探してから決めようかなと考えています」

「なるほど、そりゃお前さんみたいなやつが魔法学園の生徒じゃないほうがおかしいか。さて、依頼も無事こなしてくれたようだし、依頼書を出しな。サインする」

「あ、はい」


『収納』使いであることはバレているので、そのまま隠さず依頼書を手に掴んだ状態で収納空間から出現させる。


「これです」

「はいよ」


 そう言って受け取ったリーダーは懐から鉛筆のようなものを取り出して依頼書にサインする。

「よし、ほらよ。今回はありがとな、カイ」

「いえ、依頼ですので。それでは、今日はありがとうございました」

「おう、お疲れ!」


 そう労ってくれえるリーダーに頭を下げて建物から出て離れる。


 さぁて、次の依頼も運搬依頼だし、『収納』の力を思う存分活用させてもらおうか。


 ───五時間後───


 さて依頼をすべて終わらせたのだが、もう夜になってしまっている。

 最後の依頼が思ったよりも長引いてしまった。


 寮の門限の前に戻らないとな。『転移』で直接部屋に戻りたいところなのだが、入口を経由して寮に入らないと違和感を持たれるかも知れないので、学園近くの誰も居なさそうな場所に転移しようと思っている。

 が、その前に依頼達成の報告をするためギルドに向かっている。


 まあまずは、無事に依頼を終わらせることができて何よりだ。

 だが驚いたのは、最初の運搬依頼で作業員のリーダーが言っていたいつも補助してくれる魔法使いが、実は今日受けた三つの運搬依頼のすべての業者でいつも手伝いをしていたことだ。

 なんでこんな事になっているのだろうか?


 でも改めて考えてみたら分かるような気もする。いくら魔法学園のお膝元とはいえ、多くの学生は他国から学びに来ている者たちだし、自分だってそうだ。


 この地に根付いて学園で学んだ魔法を活用してくれる人材がどれだけ居ることか。そう考えたら、意外にこういう仕事をしている魔法使いは少ないのかも知れないと思った。


 そんなことを考えているうちにギルドに到着したのだが、昼来たときよりも人が多い。依頼を終えた冒険者たちが帰ってきたのだろうか。うーん、ギルド定番のアレは怖いが行くしか無いよな。


 スイングドアを通ってギルドの中に入り、一直線に昼と同じ中央の受付まで行く。無事受付にたどり着いて、昼と同じ受付の職員に依頼達成の報告をする。


「依頼達成の報告をしに来ました」

「ああ、無事に依頼を三つとも完了させたのですね!おめでとうございます。これであなたはFランク冒険者に昇格になります。ギルド証の表示ランクをFに変更するので、ギルド証をいただけますか?」


「分かりました」

 そう言って、『収納』から取り出したのがバレないように懐をゴソゴソしてギルド証を取り出し職員に渡す。


 依頼で『収納』を思い切り使っていたし、いつかはバレるだろうが、かといって自分からバラすメリットも無いだろうと思ったので昼と同じ様にしている。

 必要になったらバラす。


「ありがとうございます」

 と言って受付職員が他の職員にギルド証を渡す。


「ギルド証の更新に少々時間がかかるので、その間に達成報酬をお渡ししますね。まず、1つ目の依頼が4000オボルス、2つ目の依頼が3500オボルス、3つ目の依頼が5000オボルスですね。合わせて12500オボルスになります。銀行に預けますか?それともそのままお持ちしますか?」

「そのまま頂けると助かります」

「承知しました」


 そう言って職員が1枚の銀貨、2枚の青銅貨、5枚の銅貨を渡してくれたので、それを受け取りポケットに入れるふりをして『収納』に放り込む。


『収納』を秘密にしたままなら、ずっと懐からお金を取り出すのもなんか変なやつになってしまうので、この報酬で財布でも買うかな。カバンとかも必要か。


 そう考えていると、先ほどギルド証の更新のために離れた職員が戻ってきて受付職員にカードを渡す。


「はい、ギルド証の更新が終わりましたので、お渡ししますね。では手続きは以上になります。」

「ありがとうございました」


 そう言って頭を下げて振り返ると一直線に出口に向かい、ギルドを出る。

 外に出て落ち着いたところでギルド証を見ると、冒険者ランクの部分がGからFにしっかりと更新されている。


 よし、まずはFランクになれた。このまま大量に稼げるランクまで昇格を頑張っていこう。


 さて、人気のない裏路地に入ってから、幻惑結界を自分の周囲に構築し学園付近にまで『転移』で飛ぶ。そして結界を即解除する。


 そこから学園に入り、寮の出入り口をしっかり通って3階に登り自室に到着する。


「は~。今日は中々濃密な一日だったな。」


 そういえば今日は一滴も水を飲んでおらずめちゃくちゃ喉が渇いているので、土魔法で土を生み出しコップ型に成形し固めてから、水魔法で水を生み出して3杯分を呷る。

 そしてコップを消し去りそのままベッドに倒れ込む。


(そういえば、こういう魔法を活用した日常の工夫も13年でかなり身についたな)


 最初の頃は日本の頃の感覚が完全に抜けきっていなかったので、エリュシオンでは魔法が身近なものであることや、それを日常で工夫して活かすという感覚が全く身についていなかった。

 それを思えば、もう13年も経ったのかという気持ちになる。


 親元を離れて、ようやっとこの身一つで自由に行動できるようになり始めたところなので、疲れはしても楽しさが勝る。


 ちなみに、入学式があるのは3日後になる。それまでは自由行動できるため、やりたいこととやるべきことを済ませておこう。


 目下の課題は冒険者ランクの向上かな。暇になったら学園の図書館にでも通っていたいが、まだ入学を済ませていないのだし、利用できないかも。

 まあその時はその時だ。


 もうだいぶ夜深いし、明日に備えてしっかり睡眠を取ろう。

 睡眠は個人的にかなり重要視しているのである。


 ───そんな事を考えながら、セグストは倒れ込んだベッドでそのまま眠りに落ちていく…。

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