二章

魔法学園へ

 今、自分は乗り合い馬車で早速絡まれている。


「なあ!俺はアーランって言うんだが、お前はどんな属性の適性が欲しい?俺はやっぱり派手な火か雷だな!」

「あー…どうも。自分はセグスト。そうだな、水とかあれば回復魔法ができるみたいだし水は欲しいな」

 そう適当に答える。


(もう絡まれた…。いや、13歳ならこんなものかな。前世ならまだ中学一年くらいだし。というか、こっちのほうが健全なのでは…。)


 だがそれはそれとして面倒である。同じクラスになったならまだしも、絶対に必要のないやり取りなのだから、このワクワク感を妨害されるのはちょっと嫌だ。


「そうか!水が発現したら良いな!」

「…ああ、ありがとう」

(まあ悪いやつではなさそうだし、適当にあしらっておくか…)


 さて、この乗合馬車は4人乗れるようになっており、見たところ自分以外の3人全員がおそらく学院に入学する者たちだろう。


 さっきのがアーランと言う名前で男性。それ以外は男性が一人と女性が一人だ。

 最初に女性が一人途中で馬車に乗ってきて、その後は男性、アーランと言う順だった。


 自分と女性が途中まで馬車でふたりきりだったのは気まずかったが、とりあえず会釈だけして外の風景に集中していた。


 その後優男みたいな顔の男性が入ってきて助かった。勝手に感謝している。

 で、最後にアーランが搭乗しさっきのやり取りになるわけである。


 あと、家の玄関で言っていたように荷物は既に全部収納の中だ。

 剣を収納していて良いのかと思うが、咄嗟でも取り出せるように練習をしたので問題ない。多分。


『収納』を使うに当たり、偽のステータスには【アイテムボックス】と追加しておいた。

 これで鑑定対策もバッチリ。というか、生まれたときから【アイテムボックス】と偽のステータスに表示させておけば、『収納』も気兼ねなく使えたのではないかということに気づいてしまう。


(…まあ、あの時はいっぱいいっぱいだったし、許容範囲ということで…)


 さて、とりあえず今は馬車の窓から見えている、この流れていく異世界風景を堪能したい。


(こういうゆったりとした時間は好きなんだよな)


 性格的にも(自分では)マイペースだと思っているし、のんびりできるならそうしていたいのだ。

 多数相手のやり取りは苦手だし、控えてほしい。


「じゃあ、お前たちはどんな属性の適性が欲しい?」

 テンション高めにアーランが前に座る男女に聞く。


(でもこっちが気にならないと言えば嘘になる…)


 初めて同年代とまともに接するのだ、どういう価値観でどのような考え方なのか、学園で恥をかく前に基準が作りたいので参考にしたい。

 横目でやり取りを見る。


「僕は、回復や洗浄ができる便利な水か、サポートができる風か、高望みですが回復力が高いと伝わっている光属性ですかね」

「ヒーラー希望なのか?」


「そうですね、前に出て戦うのは少々苦手で…」

 苦笑いを浮かべながら優男が言う。


「なるほどなぁ~。お前はどうだ?」

「私も、やはり水や光属性があれば便利だそうだと思うのでその2つでしょうか。あとは上位属性なら何でも嬉しいですね」


「やっぱそうだよな~!上位属性ってカッコいいもんなぁ~!」

「いえ、あの…まあ、はい。そうですね」

 なにか言いたげだったが結局何も言わず肯定を返す。


(ふむ、水や光はやはり便利だし、人気なのにも頷けるな)


「あ、そういえば二人はなんていうんだ?」

「僕はセクトです。よろしくお願いしますね」

「エドナと申します」


 ふむ、頷く程度はしておこう。シカトは今後の行動に悪影響が出たら嫌だしな。


「3人共、もしクラスで一緒になったらよろしく頼むぜ!」


 はー…。コミュニケーションって疲れる。

 いや、大したことはしてないが、やっぱ初対面は特に疲れる。

 後のことを考えたりして対応するから余計疲れるんだよな。


 学園で唯一憂鬱な点だ。

 こういうの、クラスが決まったときにまたあるわけだし。

 やっぱり、性格は転生しても変わらないな。嫌いではないから良いけど。


 学園には人と交流するのが目的で入学するわけではない。魔法をもっと学ぶためだ。

 そうやって人と交流をしたりするのは、前世の学校で十分やったし今生では好きなようにさせてもらう。


 そうして、風景を見ながら会話には参加せず話だけ聞いていた。

 話したくなさそうな雰囲気を、景色ばかり見ている自分から感じ取ったのか、特に話しかけたりはしてこない。


 アーランとセクトは将来冒険者で生きていきたいらしく、かく言う自分も冒険者志望なので共感する。エドナの方は特にそういったことはないようだ。


 エドナは、あわよくば魔法の才能があってほしいということで入学することにしたらしい。

 まだまだ13歳だし、そうやって将来の可能性をちゃんと探すために行動しているのは尊敬する。

 前世の自分より大いにしっかりしていると思う。頑張ってほしい。


 ふむ、こうやって自分から話をするのはあまりしたくないが、人の話は面白かったりするものだ。魔法で聴覚強化とか盗聴とかできそうなのを今度作ってみるか。


 ───数時間後───


 そうして何度か休憩を挟み、ついにファブルアーリア国のロアルドにあるアウロラ魔法学園へ到着する。


 というか、思ったよりも馬車がきつかった。


 馬車にスプリングが無いのか、振動で尻がぶっ壊れそうだったので、途中から薄い空間の板を作る空間基本魔法の『ブロック』を、座席からほんの少し浮かせた場所に出現させ尻に固定し、そこに座ることで事なきを得た。


 空間は硬いから快適とまでは言わないが振動は伝わらないので随分楽をさせてもらった。他3人はかなりきつそうだったが。


 数時間も風景を見ているのは流石に飽きたので、風景を見る体勢のまま魔力制御の訓練をしてやり過ごした。

 うむ、やはり訓練は良いものだ。魔力、魔法に限るが!


 さて、馬車から降りて顔を上げ、魔法学園を見る。

「うおおお、すげぇ~!!!」

「確かに、これは壮観ですね」

「広い…」


 ───さすがというべきか。世界最大というのは伊達ではなさそうだ。


 まず門から向かって正面の迫力がすごい。

 そこには、六角形の形をした5階建てくらいの、超巨大な建物が中央にある。


 そして、その周囲を囲むようにして、正面と背面部分だけが空いている円状の建物が建っている。


 さらに、その囲んでいる建物の各階の所々から渡り廊下のようなものが本校舎?に接続されている。


(囲んでいる建物は副校舎とかかね?いや、副校舎にしては大きいし、研究棟とかか)


 そこから左を向くと、演習場のような場所が3個ある。これまた超広い。上級魔法くらいなら発動しても何とかなりそうな広さだ。


 逆に右を向くと、学園の敷地の端に大小2つの七階建ての建物が並んでいる。

 敷地の奥にももっと何らかの施設があるのだろうが、ここからでは本校舎と副校舎が大きすぎて見えない。


 …まあ、考えてばかりではいられない。他の三人を置いてさっさと歩き出す。


 事前に実家に送られてきていた当日の行動表に従い、まずは寮に向かうということになっているので、「貴族用宿舎はこちら」と書かれた看板に従い歩みを進める。


 というか、貴族の宿舎と平民の宿舎は分けられているのか。


 まあ、いくら身分を問わない魔法学校でも、学校内で身分の高いものに何かあったとなれば問題だし、そうするしかないのかな。


 そうして、最初に見た大小の七階建ての建物の内の小さい方の入口に到着する。ということは、大きいほうが一般寮かな。


 というか、この時代感でこの高さの建物を立てられるのは中々違和感があるが、これも魔法の成せる技なのだろうか。


 入口で管理人っぽい人が受付に座っているので、その人に話しかける。


「すみません、入学予定のものです。部屋の鍵を頂きに来ました」

「はい、お名前を教えていただけますか?」

「セグスト・リーベルです」

「セグスト・リーベルさんですね。入学許可証はありますか?…ありがとうございます、少々お待ちください」


『収納』から取り出したとバレないように許可証を取り出して渡す。

 そうすると管理人さんは許可証を一瞥してから、机の内側にしまっていた鍵の中から一つを取り出して渡してくれる。


「はい、これですね。どうぞ」

「どうも」


「宿舎の規則についてですが、夜10時以降の外出は事前に申請があった場合や緊急時以外原則禁止です。また、2階から4階までが男子寮で、5階から7階が女子寮となっています。女子寮には許可を取ってから立ち寄るようにしてください。逆の場合も同様です」

「はい、分かりました」


「それと、ここは貴族用の宿舎になるため、一般の方を部屋にお呼びになる際にも、安全の為に許可を取ってからにしてくださいね。寮の規則はこれで以上になります。良き学園生活を」

「ありがとうございました」


 言祝ぎをもらい、宿舎の中に入っていく。

 入って中を見ると、貴族寮らしく中々豪華な内装だ。他国の貴族から学園を下に見られないように努力したのだろうか?


 左を向くと大きめの食堂がある。見る限り生徒も割と利用しているようだ。

 次に右を向くとちょっとした購買があり、交流スペースのためのサロン的なのも見受けられて、生徒たちが談笑している。


 まあ、自分は購買以外利用することは無いと思うけど。


 さて、鍵には4-101とあるので、おそらく4階だろう。入口正面のでかい階段から登る。毎日最低8階分は上り下りか。

 まあ、訓練だな。これも。


 そう思って階段の一段目に踏み出そうとした瞬間、急に体が軽くなる。

「あー、なるほど。風属性の魔法陣かな」

 パット見では分からないが、どこかに設置されているのだろう。


(そりゃあそうか。七階が自分の部屋だったら、エレベーターが無いんだから流石にきついもんな)


 階段を登りきり4階に着くと体の軽さは消え、エントランス的なものが出迎えてくれた。

 見る限り郵便受けとかもあるみたいなので、一応忘れないようにしよう。


 そして、広い通路を歩いて部屋の並ぶ方へ向かうと、扉に「4-101」と書かれた部屋を階段の直ぐ側で見つける。

 さすがは101だ。


 早速扉を開けて中に入り、玄関からリビングに出るとそこそこの広さの部屋が視界に映る。

 10畳とか11畳くらいか?


 うん、元日本人として、一人暮らしするにしてはちょっと広いような気もするけど、この広さは貴族寮らしく貴族準拠かな。


 というか、もしかしたら爵位によっても変わるかも知れないな、部屋。

 あまりに広すぎるのは落ち着かないが、言っても少し広いくらいなので特に問題はない。


 次に部屋の中を見て回る。

 トイレ有り、家具付きリビングあり、広めのキッチンあり、ちょっとしたベランダあり、寝室ダブルベッド付き、浴室付きの風呂あり。


「全く問題ないな。最高」


 特に、バスルームに浴室が付いているのが素晴らしいところだ。大浴場とかで裸の付き合い上等! みたいなのは苦手だから本当にありがたい。


 前世では終生実家暮らしで、一人暮らしの経験はなかったためちょっとテンションが上っている自覚がある。


 まだホテルに来た感が強いが、これから3年間世話になることだろう。


「よろしく頼むぞ、4-101号室よ」


 さて、玄関付近に実家から送った荷物類が置かれているが、今荷物を整理する必要はないので次に属性判定をしてもらいにいく。


 一階に降りて寮から出る。そして、敷地内の看板による案内に従って、最初に見た本校舎っぽい場所に来る。

 というかやはりここは本校舎らしい。


 本校舎に入って引き続き案内に従って進んでいくと、「属性判定室」と書かれた部屋の前に来た。

 部屋に入ると、既に数十人が並んでおり判定を今か今かと待っている。


 まあ、そうか。普通だったら、属性はこの年まではわからないもんな。

 うむ、初々しくて良いではないか。学生諸君よ。


 並んで待っている間にも判定が終わったものが先頭から離れていくのだが、テンションが上っているものと明らかに気落ちしたような感じの人間がたまに居て、その結果を想像する。


 一喜一憂、素晴らしきことかな。


 引き続き並んで待っていると、先頭から馬車で一緒になったアーランが満面の笑みで離れていったかと思うと、今度はセクトも少し満足そうな顔で部屋を出ていった。

 どうやら、欲していた適性はあったようだな。

 若者よ、頑張りたまえよ。


 そしてようやく自分の番だ。複数ある判定のためのブースのうちの一つに向かう。

「次の方、お名前と、入学許可証をお願いします」

 判定を担当している女性が言う。

「セグスト・リーベルです。これが許可証です」

「ありがとう」


 そう言い、許可証となにかの書類を確認しはじめる。


「うん、問題ないわね。では、これから属性を判定します」

「はい、よろしくお願いします」

「この属性判定石に触れてもらうだけで大丈夫だから」


 言われた通りに鑑定石と似たような石にふれる。

 すると、石の中で火が出たかと思うと水玉がいくつか生まれ、次に風が巻き起こる。


(うーん、これもまたザ・ファンタジーだなぁ)


 思わずうっとりしてしまうが、気を取り直す。

 風の次は地面のようなものが石の下側に現れ、最後に電気のようなものがビリビリと走る。


「凄い…」

 判定を担当している女性が驚いている。

 え?なんでだ…?


 …あ、そうだ。光と闇がほとんど手に入らない属性だと考えれば、光と闇を除けば六種類のみが一般人の限界なのか。


 三つとかにしておけばよかったか…?

 光と闇を使えるせいで、知らず知らずの内に常識がおかしくなっていることに危機感を覚える。良くないな、これは。


(うむ、まあとりあえず鑑定はごまかせたな。【完全隠蔽】はやっぱ神スキルだ)

 神だけにね。

 …

 ………


「…セグスト君、素晴らしいです。あなたには火、水、風、土、雷の適性があり、しかもどれもほとんど偏りがなく同じ程度の才能です。かといって才能が低いわけではなく平均以上は確実です。おめでとう!」

「そう…ですか、ありがとうございます…。」


 本来ならば喜べるのだろうが、知らず知らずの常識知らずになっていたことの衝撃には負ける。

 属性は元から知っているというか、自分で表示する属性を決めているからなぁ。


「…? では、これで属性判定は終了です。良き学園生活を」

「はい、ありがとうございました」


(これは、この学校で常識をすり合わせていかねばいつかやらかしそうだな…)


 衝撃が抜けきらぬまま属性判定室を出るセグストであった。


 ────────────────────────────────────────


(…さっきの子、5属性持ちだったのにやけに反応が薄かったような…。驚きすぎてってことなら分かるけど、そういう感じでもなかったし…。っと、いけない。次々やらなきゃ終わらないわよ、私)


 ────────────────────────────────────────



 属性判定室を出て、次に魔力量の判定だ。


 魔力量判定って必要なのかともちょっと思ったが、例外的な魔力の持ち主とかが混ざっていたら危険だし、必要だと思い直した。

 多分、魔力の性質とかも個々人で変わってくるんだろうしな。


 そう考えながら歩いていると、属性判定室からそう遠くない場所に「魔力判定室」と書いてある看板が置いてある部屋に到着した。


 中に入ると、またさっきのような行列が見えた。


(時間かかるよなぁ…)


 まあ、待つしか無いか。属性判定室と同じ様に魔力を図るためのブースはいっぱいあるし、これでも分散しているようだしな。


 また数分待っていると、自分の番が来た。


「次の者。名前と許可証を」

 今度は男性か。その横には人くらいの大きさがある水晶が設置されている。

 これで魔力を測るのだな。


「セグスト・リーベルです」

 そう言いながら許可証を渡す。


「うむ、少し待て」

 そして男性が書類を確認していく。


「よし、確認した。ではこれより魔力の量と性質を判定していく。この計測用の水晶に手を当てたまえ。その後に鑑定石で君を鑑定して魔力量が測定したものと誤差がないかを確認する」

「分かりました」

 そう答え手を当てる。


 すると、水晶の中の中心から波紋のようなものが発生して広がっていき、あるところでそれが広がらなくなる。


「ふむ、なるほど。魔力量は300程度といったところか。中々に多い。性質に危険なものも見られず、か。よし、では次に君を鑑定させてもらう」

「分かりました」


 そしてテーブルの上においてあった鑑定石を男性が持つ。

「では、手を」

 そう言われて手を鑑定石に当てる。そう言えば鑑定石は生まれた時以来だな。


「よし、では、鑑定」

 すると、しっかりと偽のステータスが表示される。


 <名前> セグスト・リーベル

 <種族> 人間

 <性別> 男

 <年齢> 13歳

 <スキル> 【魔力自動回復】【魔の才】【武の才】【鑑定】【アイテムボックス】【剣術】【身体強化】

 <能力値> HP: 250/250 MP: 300/300 STR:81 DEX:45 VIT:65 AGI:68 INT:70 MND:110 LUK:12

 <適性属性>火・水・風・土・雷


「! …これは素晴らしい。【魔力自動回復】と【アイテムボックス】が揃っている上にこの魔力量か…。国お抱えのアイテムボックス使いになるのはそう難しいことではないだろうな」

 ほう?


「国お抱えのアイテムボックス使い、ですか?」


「ああ、【アイテムボックス】を使える者自体は珍しいものの居るにはいる。だが、【アイテムボックス】が消費する魔力に己の魔力量が見合わず時間制限があるもの、容量が心許ないものが大半でな。【アイテムボックス】の運用に問題がない魔力量を持つものは、正直引く手数多と言える」


 まあ、それはそうか。『収納』も使っていて最高に便利だしな。

 国お抱えならば、王家などが所有する貴重品などの一時保管の機会とかもあるだろうし、他にも何らかに対しての物資の提供などにももってこいだ。


 商売なんかでも大いに優位に立てる才能だ。

 何しろ収納空間には時間がほとんど流れていないのだから、色々な商機を狙えるだろう。


「なるほど…勉強になります。ありがとうございます。」

「いや、問題ない。…収納空間の容量も問題ないのなら、【アイテムボックス】使いとして稼いでいくのも悪くはないだろうが、焦ることはない。まだ君はこの学園で何も学んでいないのだ。君ほどの才能の持ち主なら、様々な選択肢があるだろう」


(おっと、雰囲気は堅いが良い教師なのかも知れない。誠実に対応させてもらおう。)


「もちろんです。まだここでは何も学んでいませんし、ご助言の通り焦ることなくいろいろな可能性を探っていきたいと思っています。」

「そうか、それならいい。では魔力測定はこれにて終了だ。退出してくれ」

「はい、ありがとうございました。」


 そう言って魔力測定室を出る。


 さて、どんどん行こうか。

 今日中には魔法学園に近い場所にあるギルド支部へ向かい、冒険者登録をしておきたいのだ。今後資金繰りに利用させて貰う予定なので。


(予定表によると、次は制服と杖、教本の受け取りだな)


 杖はゴブリン魔法書に書いてあったような、「魔法を使う際にあるとなお良い」アレのことだろう。


 まあ無くても自分は全く問題ないが、普通だったら入学時点ではほとんどが魔法初心者なわけだし、補助のために杖を使うことはそうおかしなことでもないだろう。


 そんなことを考えながら少し早歩きし、看板に「入学時支給品の受け渡しはコチラ!」と書かれている受け渡しのためのブースのような場所に到着。

 ブースの後ろには備品室があるようだ。とりあえずブースに向かう。


 ここはさっきまでの測定と違って行列がどんどん捌けていく。


(まあ受け渡しだけだしな。)


 そしてあっという間に自分が先頭になる。


「はい次の方!制服のサイズを教えて下さい」

 事前に実家で測っていた自分に合う制服のサイズを伝える。ちなみにこれも予定表などと共に、制服のサイズ一覧表が送付されていた。


「Mサイズのものをお願いします」

「はいはい、Mですね。よっと、はい、どうぞ」


 女性が既にセットになっている杖と教本一式に、箱から取り出した予備を含む制服2着分をまとめて渡してくれる。


「どうも」

 そう言って離れる。


 離れた先の人目につかない場所で一応【結界術】を一瞬発動させ、幻惑結界を自分の周囲に構築して支給品一式をさっと収納。その後少し離れたところで結界を解除する。


(やはり『収納』は便利だ。このまま行けば生命線化確定だな。)

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