四年後(5歳)

 はい、1歳のセグストさんから代わりまして、5歳時点のセグストです。


 さて、自分はこの日を心待ちにしていたのたが、なぜだか分かるだろうか?

 なぜなら自分ルールとして設定した「5歳までは魔法を使わない」という縛りから開放される歳だからである。


 この日のために両親に頼んで「ゴブリンでも分かる魔法」という魔法書を購入してもらい、魔法の基本についての知識は詰め込んできた。


 どうやらこの「ゴブリンでも分かる魔法」はファブルアーリア魔法国のアウロラ魔法学園の教師が書き上げたものらしい。流石というべきか、素人の自分でもわかりやすい内容だった。


 この世界の本は非常に高価であることがほとんどで、この魔法書も例に漏れず非常に高価という訳ではないものの高価なので、余すことなく読ませてもらった。


 自分の内に秘める膨大な魔力を暴走でもさせてしまったら大惨事になると思ったので、そこらへんはしっかり学んだつもりだ。


 ちなみに、両親からは少し前に魔法の教師を雇うかどうかについて聞かれた。五歳の子供に意思決定をさせるのもなかなか異世界クオリティーなのだが。


 それに対して自分は必要ないと答えた。別にそこまで詰め込み教育をしてほしいわけではないし、今生では気の向くままにやりたいことをいっぱいやって、やりたくないことは必要なのであれば程々に、という心構えなのである。


 魔法の教師に今から教えを請うのも、将来魔法の学校で学んだりするのも大して変わらない。

 いや、変わらないは言いすぎかも知れないが、言っても多少のアドバンテージになるくらいか。その少々のアドバンテージのためにわざわざそこまですることもない、と考えた。


 そもそも神様からは色々ありがたい能力をもらっているわけだし、その能力に胡座をかくわけではないのだが、そこまでスパルタ的にやりたいというものでもない。


 さて、魔力訓練は引き続き継続できており、ステータスももちろん向上した。


 -本当のステータス-

 <名前> セグスト・リーベル

 <種族> 人間

 <性別> 男

 <年齢> 5歳

 <スキル> 【完全隠蔽】【成長促進】【魔力自動回復】【魔の才】【武の才】【鑑定】【全耐性】【言語理解】【オーバーチャージ】【結界術】【無詠唱】【魔力制御】

 <能力値> HP: 43/43 MP: 10500/10500 STR:21 DEX:20 VIT:17 AGI:17 INT:25 MND:55 LUK:8

 <適性属性> 火・水・風・土・雷・氷・光・闇・空間


 驚くべきことに新たなスキル【魔力制御】が発現していた。おそらくは日々の魔法訓練のおかげだろうが、またもや【魔の才】と【成長促進】の2つがその力を発揮してくれたのだと思う。神様由来のスキルはやはり別格らしい。

 それとMPもかなり増加しているし、それを除けばMNDも頭一つ抜けている。


 やっててよかったファンタジー流魔力訓練!といったところだ。

 それに合わせて偽のステータスも忘れず変更した。


 -偽のステータス-

 <名前> セグスト・リーベル

 <種族> 人間

 <性別> 男

 <年齢> 5歳

 <スキル> 【魔力自動回復】【魔の才】【武の才】【鑑定】

 <能力値> HP: 43/43 MP: 50/50 STR:21 DEX:20 VIT:17 AGI:17 INT:20 MND:30 LUK:8

 <適性属性>火・水・風・土・雷



【魔力制御】は表示しないことにした。こんなスキルが何もせず唐突に発現するわけ無いだろうし、そこを疑われるとマズイと考えたのと、スキルが後天的に増えるということの希少性がどれほどのものか認識できていないので、もし大事だったら面倒だったからだ。


「さぁて、待ちに待ったこの日が来たか…。前世でもなにかの間違いで急に魔法が使えたりしないかと考えていたものだが結局使えずじまいだったしな。前世と合わせて苦節25年、やっとこの日が…」


 今自分は、リーベル領で人目につかない場所を色々探した末に見つけた、小川の流れる静かな場所に来ている。魔物も出没しない場所なので、安全対策も大丈夫だと思う。少々リーベル家の邸宅から近いため不安要素は残るのだが。


 これでもリーベル子爵家の次男であり、自分の身に人質としての価値があるだろうことも理解している。

 一応リーベル子爵家は自分が見た限りでは自領の民から慕われているらしいので、胡乱な人間が、家から突発的に出てきた自分をタイミングよく捕まえる可能性は低いという方に賭けた。博打である。


「まあいいか、今はそんなことよりも魔法だ」

 気分を入れ替え、魔法を発動させるためにいつもやっている魔力訓練のときのように集中を始める。


 魔法を発動するための方法は数種類存在する。

 最もポピュラーで一般的な詠唱魔法に、魔法石を触媒とした触媒魔法、魔法陣を構築して魔法を発動させるものや精霊魔法など、これぞ魔法というラインナップだ。


「ゴブリンでも分かる魔法」はゴブリン(初心者)向けであるためかその4種類しか発動方法が記載されていなかったが、自分は種族特性による特殊な魔法、それに伴う特殊な発動方法があるのではないかと睨んでいる。ファンタジー作品の定番だからだ。


(ぜひ、竜またはドラゴン特有の魔法とかは存在していて欲しいところだ。竜が魔法に長けているというのはよくある話だからなぁ)


 さて、今回用いるのは詠唱魔法である。これぞ魔法というべきものだからだ。

 詠唱魔法の発動工程は大きく分けて、


 1. 魔法を発動するために必要な魔力を練る。

 2. そして、発動させたい魔法を強くイメージする。

 3. 最後に発動させたい魔法に適した詠唱を行う。


 の三段階となっている。まあこの概念はファンタジー作品が好きなら言わずと知れた馴染みの深いものだ。

 今回はザ・魔法と言えるファイアーボールを発動してみたい。魔法といえばこれだろう。


 いつもやっている魔力訓練で磨いた魔力制御で体内に魔力を練っていく。訓練のお陰で【魔力制御】も発現したくらいだし、魔力を練りすぎないように調整する。


 そして、次にイメージ。

 アニメ、漫画、ゲームなど、いくらでも魔法が絵や動画として見ることのできた世界の出身として、ここだけは自信がある。


 右腕を前にまっすぐ上げて手のひらを広げ、火球が手のひらの先に生成されるイメージでやってみる。

 魔力を右腕のあたりに意識して流していく。


 ゴブリン魔法書では、魔法用の杖があるとなお良いと書かれていたが、無いものはないのでスルー。


 魔力が右腕に収束し始め、魔法を発動させることが急に現実的になってきて魔力制御を失敗しそうになるが、慌てて集中し心を鎮める。


 そして最後は詠唱。

 今回はあのゴブリン魔法書に書かれていたものをそのまま使用する。イメージに合わせて詠唱を変更することもできるが、難易度は少々高いので、今回はナシ。

 ここには誰もいないのだ、人生で初めての詠唱くらい厨二心全開でやってやろうじゃないか!


「火よ!我が意思に従い火球と成りて敵を焼け!ファイアボールッ!!!」


 右腕に収束していた魔力が抜けていき、手のひら程の火球を構成したかと思えば、その火球が勢いよく宙空に飛び出していく。


「うわっ!?」


 魔力が抜けてから火球が飛び出すまでほんの一瞬のことで、流石に動揺してしまった。

 飛び出した火球は宙空を突き進み、ある程度の距離で消失する。


「…これが、本物の魔法か…。」


 正直、感無量だ。


 エリュシオンに転生して、一番楽しみにしていたことを無事に達成することができた、という思いと、自分が憧れていた本物の魔法を本当に自分の手で使うことができたという感動で胸が一杯になる。

 十数秒ほどそれに浸りボーっとしていたが、段々と達成感が込み上げてくる。


「ふふ…ははは……やった……!本当に魔法を使えた!!」


 この瞬間、ようやくこのエリュシオンに来れて良かったと純粋に初めて思うことができた。

 そして、おそらくこの感動も一生忘れることはないだろう。

 ついついしてしまったガッツポーズも御愛嬌というものだ。


「すごい…ねぇ、どうして魔法が使えるの!?」

「ッ!?」


 背後から聞こえてきた声に驚き瞬時に後ろに振り向く。

(嘘だろ…マジかよ……)


 ルーナだ。ルーナ・テルース。銀髪で緑の瞳を持つテルース家の長女で、自分と同い年の女の子。

 恐ろしいことに、自分から意識して遠ざけなければ高い確率で幼馴染になり得る存在であり、そうならないようルーナの兄オルクス共々積極的に関わらないように心に決めている相手だ。


 自分は前世で家族以外の女性と接したことがほとんどなく、小中学校ではかろうじて共学だったため最低限ではあるが女性と接する機会はあった。

 だが、高校はほぼ男子校のような環境で、大学もまた高校と同じような環境だった。


 そのような状態が数年続いたことによって、店員と客のような目的や話すべき話題が確定しているビジネスライク的な関係であれば問題なく対処できるものの、知り合い程度の関係になってくると、ちょうど良い話題というものが提供できず自分が無いのも相まって会話が続かず、結局対応ができなくなる。

 というか、これは性別関係なく家族と友人一人以外の全員に適用される。


 これも理由の一つだが、一歳の時に考えていたように自分は必要だと思う関係以外は面倒だから作りたくないのももちろんある。


 というか、そんなことはいい。今やるべきは自分が魔法を使っているところを見られたことへのフォローだ。


「いや、その…」


 駄目だ、今は女性への対応に迷っている場合ではない。

 今は、魔法の使用を誤魔化す、という確固たる目的があるではないか!


「えーっと、これはちがくて…」

「でも、魔法使ってるとこ、ちょっと前からちゃんと見てたよ?」


 さて困ったな、どう誤魔化したものか。

 困ったときは、とりあえず経験してきたファンタジー作品からお知恵を拝借するか。


 魔法陣はどう見てもどこにもないし、ならば触媒魔法という体ならどうだろうか?

 詠唱魔法だと知られなければなんとかなるか…?


 魔力を圧縮して火の魔法石を作り出せたりしないだろうか?

 そう思い鍛えた魔力制御で急ぎ試してみる。左手を握り拳にし、その拳の中に魔法石が生成されるようイメージし魔力を圧縮していく。


 すると、握り拳の中になにかの感触が生まれる。

 開いて見てみると、ほんのり赤い小さな石が生成されていた。


(おお、マジか!できるもんなのか!よし!)


 見たことはないが、おそらくこれが魔法石なのだろう。

 急ぎルーナに対して弁明を再開する。


「違うんだ、えっと、他の人には秘密にしてほしいんだけど、前にこの魔法石を拾ったんだ」


 そう言って先ほど生成した魔法石を見せる。


「気になってこれに少し魔力を込めてみたらさっきみたいなことになって…」

「ああ、そういうことなんだ! …ふふ、じゃあ、さっきの詠唱も意味なかったってことかぁ」

 なんかニヤニヤしてる…?


 ……あー。うわ、そこから見ていたのかよ…。迂闊すぎたな。

 初めての魔法に意識を向けすぎて警戒を怠っていたな。


 しかもこれだと、全く意味がないのに全力で詠唱と魔法名を叫んだ微笑ましい子供か何かになってしまうではないか。


(でもまあ実際に子供だし、いいか…)

 仕様がない、甘んじよう。


「うん、ちょっとテンション上がっちゃって」

「なんだ、びっくりした。セグスト君がそういう感じの子だって知らなかったなぁ」


 どうやらルーナの自分に対する印象が都合の悪い方向に傾き始めているな。万一にも好印象でもいたずらに抱かれようものなら面倒だ。


(これ以上はいけない、一応ルーナの鑑定だけしてさっさと家に戻るか)

 ルーナになにか厄介な能力があればまずいのでその確認だけはしておく。


 -ステータス-

 <名前> ルーナ・テルース

 <種族> 人間

 <性別> 女

 <年齢> 5歳

 <スキル> 【魔の才】【美形】

 <能力値> HP: 35/35 MP: 30/30 STR:15 DEX:14 VIT:12 AGI:14 INT:19 MND:25 LUK:3

 <適性属性>未確定


【魔の才】…か。

 神様由来の【魔の才】とどれくらい違うのだろうかが気になる。


(ていうか、【美形】って)


 確か、神様からスキルを選ぶときにも見たよな。物珍しさが強くて印象に残っている。

 そう言われてみればルーナは綺麗な顔立ちなのだが、この世界の人間って白人みたいに平均の顔面偏差値が高いからなぁ。普通より少し可愛い程度だし、プラシーボ効果かな。


 というか、美形だから【美形】が発現するのか、【美形】を持っているから美形なのか…。おそらく後者かな。

 いや、そんな鶏か卵か的なことはどうでもいい。


 適性属性が未確定なのはまだ属性が定まりきっていないからかな。

 あれ?じゃあ自分ってなんでもう既に属性が定まっているんだ?神様パワーか?

 それとも【成長促進】の効果か?


 まあ無いとは思うが、一応属性判定石には気をつけておくか。

 さて。


「あの、このことは秘密にしてて。父様と母様にバレたら絶対叱られちゃうし。じゃあ僕は帰るから!」

 そう言って全力で家の方向に向かって走り出す。


「あ!ちょっと!」

 なぜかルーナも追いかけてきて同じ様に走ってくる。

 そりゃそうか、戻るとしたらリーベル家になるのか!

 これはまずい!振り切らなければ!


(初めて使うけど、『転移』を解禁するかぁ)


 走りながら急いで魔力を体内に練り上げ、実家に近い場所をイメージをする。

 発動の瞬間は物陰に隠れるようにし、3段階目の詠唱は【無詠唱】で省略!


 一瞬で景色が変わり、見覚えのある場所に転移していた。


「成功か、助かった…」

 なんだか少し気持ち悪さを伴っているが、転移の副作用か何かだろうか?


 まあ、いい。色々あって疲れた。さっさと家に帰って休むか…。


 その後、セグストが感じていた気持ち悪さがだんだん強くなっていき、結局、急に魔法を使いすぎたことによる魔力暴走の、おそらく一歩手前の様になってしまい、発熱して寝込んだ。


 両親が呼んだ医者に5歳の自分が魔法を使ったことがバレるかもしれなかったが、なんとかしらを切って事なきを得た。


(本当に、色々あった日になったな…)


 その後よくよく考えてみればゴブリン魔法書には、「触媒魔法では一度触媒になった魔法石は砕け散る」と記述されていたのだが、焦っていたセグストはそれをすっかり忘れていた。

 つまりルーナに弁明した際に見せた、砕けていない魔法石は本来ありえないのだ。セグストはその事実に気づき戦々恐々としていたが、一方のルーナは触媒が砕けることをその時は知らないのだった。

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