一年後 (1歳)

 さて、急に一年後からで申し訳ないが、特に自分で自由に行動できるということもなかったため、省かせてもらった。


 あれから中々に色々あったし、普通の人生では経験しないだろうことも経験した。


 リーベル家にはアンナとヘレンと言う名のメイドがいるのだが、身の回りあんなことやこんなことの全てを世話してくれるため、中身が成人男性である事に申し訳なさを感じ、何とも居心地が悪かった。


 初めて外の世界を見た日には、感動と同時に驚きを覚えた。

 それはなぜか。


 上空を見ると前世の世界で月があった辺りに、何と月のような天体が2つと、その間に他2つの天体と比べて二回りほど小さい、剣で袈裟斬りを受けたように真っ二つに割れた天体があったからだ。


 月のような天体が地球よりも多く存在するとかいう展開は割と見かけることはあったが、真っ二つに割れた天体がある、という世界観や設定は少なくとも自分は知らなかったからだ。


 なお、2つの月は片方が前世の月と同じような光を放っているが、もう片方は光っておらず吸い込まれそうな黒い色をしている。

 そして割れている天体は銀色の輝きを放っている。


 うん、まあ、大概こういうのには伏線があったりするものだが、流石に情報の少ない今では全く見当がつかない。あの真ん中の天体がいつから割れていたのかなどは少し気になるが…。


 まずはあれから判明した家族構成やそれぞれの名前をば。


 リーベル家の家族構成は両親と長男、次男の自分。父親の名前は、ソール・リーベル。母親はテルース・リーベルで、長男で自分の兄がレムス・リーベルである。


 また、我がリーベル家と付き合いが深い家もある。それがテルース家である。

 テルース子爵家当主のバックス・テルース、そしてその妻のスアデラ・テルース。


 そして恐ろしいことに、このテルース家には長男オルクスと長女ルーナが居るのだが、長男は兄レムスと同い年で現在三歳、長女は自分と同い年で一歳であり、自分、うちの兄、オルクス、ルーナはもれなく全員が幼馴染グループとなる可能性がある。


というか、流れに身を任せるならほぼ確定的だ。父ソールとバックスの仲の良さを見ていればそう思うのも無理はない。


 自分が恐れているのは、この幼馴染グループと馴染み深い仲になってしまうことである。

 自分はかなり消極的で、人間関係も必要だと思うもの以外は最小で済ませたい人間であり、このようなグループに属してしまうことに対して面倒くささと恐れを抱いている。


 例えば、学校で同じクラスになった人間相手だったらどうだろうか?当然、ある程度普通に接する必要がある。あまり邪険にしていると自分の行動に支障が出る可能性があるからだ。


 例えば、ギルドなどの依頼でたまたまパーティーを組む事になったら?もちろん、依頼達成のためにしっかりと意思疎通をして協力関係を築く必要がある。


 では、幼馴染はどうだろうか?

 そう、先の2つの例と違い、必ずしも接する必要がないのだ。自分の行動に支障も出ないし、パーティーになり依頼を達成するわけでもない。


「人脈は力だ」って?

 それはもちろん理解しているが、地球と違ってエリュシオンでは別にそこまで能動的に人脈を作る必要はおそらくないだろう。やりたいことや成し遂げたいことは自分の身一つで大抵こなせてしまうだろうからだ。

 エリュシオンでは現状大きな目的もないしね。故に人脈を作る必要がない。


「せっかくの貴重な幼馴染候補を避けるとか、恋人とかほしくないのか」って?

 言いたいことは分からんでもないが、別に欲しくはないと答えさせてもらう。

 せっかくの異世界なんだ、余すことなく楽しむためにもそんな面倒そうなものにうつつを抜かしている時間なんて無い。


 そもそも前世でも死ぬまで恋人なんて居たことがなかったし、結婚願望も無かった。

 自分という味噌っかすみたいな人間に、彼女や恋人というのは分不相応でおこがましいとさえ思っていたくらいだ。


 あのまま死ぬことなく生きていれば、いずれまず間違いなくある意味での魔法使いになっていたことだろう。


 一応言っておくと性欲がないわけではないし、同性愛者というわけでもない。


 まあ、いつもの自分のように対人のときは消極的にしていれば、そんな面白みもないやつに関わってこようとは思わないだろう。


 流石に血の繋がった兄であるレムスに対しては、いずれリーベルの領主として無事に頑張ってもらうためにも普通に接しようと思うが。

 というか、助けを乞われれば積極的に協力する。


 両親に関しては、この環境を与えてくれているだけでも感謝しているので、恩を仇で返すような不義理はしたくないため無論普通に接する。


 さて、生後一年にも満たない体ではこの世界について学ぶための本を自分で選ぶことができず、母親か父親が読んで聞かせてくれる童話が世界についての主な勉強だったと言える。


 両親が語ってくれた童話は印象に残ったものだと、異世界らしくエンシェントドラゴンなる伝説の龍にまつわる童話や、この国ヤヌス王国についてなどだ。


 そして、中でも驚いたのが勇者についての童話である。このエリュシオンにも勇者が居るのかと驚いたものだ。


 転生モノでは勇者は転生者であるというのが定番ではあるが、転生をサポートしてくれたデメトル様は世界に転生者は一人しかいないとのことだったので、勇者が地球人だったという定番のオチは無いだろう。


 ということは、正真正銘この世界で生まれた人間が勇者になるわけだ。

 その勇者は500年以上前に誕生し、貴重な光属性を扱うことができたとされ、それを極めて同時期にディセンから誕生した魔王を討伐し、世界の危機を救った、というのが超ざっくりした説明になる。


 ちなみに世界地図を目にする機会が度々あったので、それを覚えることができた。大体以下のようになっている。簡略的なのは目をつぶっていただきたい。


https://kakuyomu.jp/users/xylitol0321/news/16818093088092397236


 驚くべきことに、すべての国が海に面している。これも月と並んでエリュシオンショックの1つだろう。

 また国一つ一つが地球のロシア並みに広い。世界全体で国が12ヶ国しかないのも驚きだ。


 ちなみに、魔王の生まれたディセンは左下の島国だ。勇者は湯の国(ユノ国)という地図中央の島国で生まれ、ディセン以外の大陸、国などをめぐり最終的にディセンに向かい魔王を討伐したと伝わっているようだ。


 特に湯の国の形状が現代日本と似ているのは、転生モノあるあるだと言える。あとはそのサイズも他の大陸と比較して分かるように、日本とは比べ物にならない大きさである。


 こういう見知らぬ世界地図を見たり、前世ではあり得なかったような童話を聞いたりしていると嫌でもワクワクしてくるし、早く魔法を使ってみたいと思わされる。


 だが子どものうちは魔力を制御することが難しいとされており、無理に魔力を制御したり魔法を使おうとしたりすると魔力暴走を起こしてしまい、最悪の場合死に至ることもある。


 そのため、大体10歳頃から魔法について学び始め、13歳になれば魔法を使用して良いことになっているらしい。その際に属性判定石というもので自分の属性を判定することになる。


 13歳未満で属性判定石を使用すると属性が定まりきっておらず、13歳未満で測った属性が13歳になってから変わるといったことが起きた事例もあり、属性がしっかり定まるのが大体13歳頃だと言われているそうだ。


 そしてそれは世界全体でも同じような認識である。大概の国は決まり事や法律と言った形でこれを遵守させているようだ。


 まあとはいえ、ここで自分は考えた。

 やはり転生モノでおなじみの、幼少期から魔法の訓練を行うことで魔力量や魔力制御が卓越したものになるというあれをやってみたいと。


 どうせ一回死んでいるのだし、暴走して死んでもトントンだろうと思い、密かに魔力制御の訓練を行い始めた。正直、今から13歳までなんて待っていられるものではない。


 魔法がある世界で魔法を使えない生活など、ファンタジー好きの自分には到底我慢できなかったのだ。


 この世界の家族に対して申し訳なく思うが、魔法訓練を始めようと思ったのは生まれてから数日程度しか経っていない頃だったし、両親や兄に対してはまだまだ他人というような意識があったという言い訳をさせて欲しい。


 流石に魔法の行使となると二の足を踏むところがあったので、5歳くらいまでは禁止しようと考えている。

 その代わり、それまではこの世界について学んでいくことにしようと思う。


 さて、当然体は子供なため、体に巡らせる魔力は10000MPの内のほんの少しずつである。だがそれでも日に日に魔力の巡りは良くなるばかりだし、今振り返ってみてやっていてよかったと染み染み思う。


 そのため、魔力暴走なんて全然起きないじゃないかと当時は思っていたが、これはおそらく【魔の才】と【成長促進】のおかげだったのではないかと踏んでいる。


(確かに訓練を始めようと思ったときも、これらのスキルがそれなりに補助してくれるのではないかと少し考えていたのは事実だが、こうも上手くいくとは)


 そして、今日に至るまで一年間この訓練を行い続けたことによりステータスが上昇した。


 -本当のステータス-

 <名前> セグスト・リーベル

 <種族> 人間

 <性別> 男

 <年齢> 1歳

 <スキル> 【完全隠蔽】【成長促進】【魔力自動回復】【魔の才】【武の才】【鑑定】【全耐性】【言語理解】【オーバーチャージ】【結界術】【無詠唱】

 <能力値> HP: 15/15 MP: 10050/10050 STR:5 DEX:15 VIT:5 AGI:5 INT:15 MND:10 LUK:5

 <属性適性> 火・水・風・土・雷・氷・光・闇・空間



 おそらく、MPが50も上昇しているのはこの訓練のおかげだったのではないだろうか。

 今の身体のことを鑑みて訓練で流していた魔力はほんの少しだったため、50という数値だったのだろうが、体が成長するにつれて流せる魔力が増えるとしたら、それに比例するようにMPも増加していくだろう。


 それに応じて偽のステータスを以下のようにした。

 -偽のステータス-

 <名前> セグスト・リーベル

 <種族> 人間

 <性別> 男

 <年齢> 1歳

 <スキル> 【魔力自動回復】【魔の才】【武の才】【鑑定】

 <能力値> HP: 15/15 MP: 25/25 STR:5 DEX:5 VIT:5 AGI:5 INT:5 MND:8 LUK:5

 <属性適性> 火・水・風・土・雷


 また、MPだけでなく数値化されない魔力制御の技術に関してもスムーズになっているのを実感している。魔力だけ大量にあっても、肝心の操作がうまくなければ宝の持ち腐れなんてものではない。こちらも真剣に訓練を続ける必要があるだろう。

 

(魔力についてはこんなところか)


 次は今後の予定について話そう。


 今日で1歳になったため、前世の法律で言うところの乳児の定義からは既に外れているが、体がまだまだ赤ん坊同然で大したことはできないため、とりあえずはこの国について色々学ぶところから始める。


 ご存知の通り、父は熱心に武術訓練をしようという心積りらしいので、それらの準備フェーズである基礎訓練は体の発達も考慮して大体七歳頃からになると想定できる。

 一旦はその年までこの国についていろいろな知識を付けていこうと思う。


(魔力訓練はひっそりと続ける予定だけど)


 10歳頃から本格的に武術の訓練が始まったら、それも【武の才】を頼りに身に付けたいと考えている。


 自分の魔法がいくら強力でもそれは武術訓練を怠る理由にはならない。''いざという時''が人生にはあるのを前世で学んだつもりだからだ。


(訓練で体を鍛えれば魔法の行使にも良い影響があるという展開も考えられるし)


 そしてその後一通り武術訓練が修了した後だが、あわよくば隣国のファブルアーリア魔法国でアウロラ魔法学園に入学したいと考えている。せっかく魔力が豊富でスキルもそれに特化させたのだ、魔法に関する知識を万全に身に付けたい。


 ファブルアーリア魔法国という名前なだけあって、この国は世界で最も魔法について盛んに研究されており、ヤヌスに魔法学校が無いことはないのだが、規模が比べ物にならないためぜひともこちらへ入学したい。


 魔法学園を無事卒業できれば、その後は冒険者の活動が活発な自由都市マルスへ赴き、経験を積んでから他の国に渡っていこうと考えている。


 先に自由都市マルスに行っても良かったのだが、やはり慎重な性格をしているため魔法の実力やその他諸々をしっかり身に付けてからにしたかった。


 もし両親が魔法学園入りを認めてくれなければ、ファブルアーリアは一旦置いておいてマルスの方へ向かおうと思っている。


 ひとまずはそんなところだろうか。

 リーベル家の嫡子というわけではないため呑気なものである。


 だが、人に遠慮してこんな完全にファンタジーの世界で自分のしたいことができない状況になるくらいなら、無責任だろうと転移でもなんでも使って逃げようと思っている。

 できればそうならないことを祈るが。


 そのためにもレムスのフォローはしっかりとやろうと思う。

 以上、1歳のセグストからでした。

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