一章

誕生

「おおっ!無事に生まれてくれたか!!」

「ええ、あなた。かわいい男の子です。」

「良かった、良かった…」


 見知らぬ人たちが自分の誕生を喜んでいるようだ。どちらも顔が整っておりいかにも異世界の人間という風貌だ。

 この人たちが両親ということだろうか。これは、自分の容姿がどうなるのか気になってきた。


「…この子、全然泣かないし、目ももう開いているぞ」

「でも、しっかり息はしているし大丈夫でしょう」


 確かに生まれたばかりの赤ん坊が泣きもせず目を開いていたらある意味不気味だろう。

 今更だが、演技をするべきだろうか。


「そうだな、何事もなくちゃんと生まれてきてくれただけでも感謝しなければな」

「そうね、あなた」


 どうやら演技はしなくてよさそうだ。


 さて、一段落したところで…、今更だが色々驚きの連続だったな。まさか、自分が転生することになるとは…


 まあそりゃあ、魔法とか死ぬまでに一回は使ってみたかったしなぁ。興味がまったくなかったって訳でもなかったし。


 あの時代のVRじゃあ、現実と見紛うほどのものは体験できなかったし、本当に魔法を使ってみたいと思ったら、異世界に行くことぐらいが一番マシな選択だったのかもしれないな。


 …転生してしまったものは仕方がないし、とりあえずは現状の把握に努めるか。


 まずは自分を鑑定してみるか。

 自分の手を眼の前に持っていき【鑑定】を発動する。

 すると脳内にステータスの情報が一気に流れ込んでくる。

 というか、やっぱり赤ん坊の体と生前の体の差がありすぎて違和感がすごいな。


 -ステータス-

 <名前> なし

 <種族> 人間

 <性別> 男

 <年齢> 0歳

 <スキル> 【完全隠蔽】【成長促進】【魔力自動回復】【魔の才】【武の才】【鑑定】【全耐性】【言語理解】【オーバーチャージ】【結界術】【無詠唱】

 <能力値> HP: 10/10 MP: 10000/10000 STR:1 DEX:10 VIT:1 AGI:1 INT:10 MND:5 LUK:5

 <適性属性> 火・水・風・土・雷・氷・光・闇・空間


(…うん、さすがのMPだ。他も明らかにやばい。これは間違いなく今すぐ隠したほうが良い。あと周囲に魔力を視ることができる何某かがいないことを祈る。そんなのそうそういてたまるか)


 ということで、【完全隠蔽】で本当のステータスを隠しつつ偽のステータスを作る。

 そして作ったステータスがこれだ。


 -ステータス-

 <名前> なし

 <種族> 人間

 <性別> 男

 <年齢> 0歳

 <スキル> 【魔力自動回復】【魔の才】【武の才】【鑑定】

 <能力値> HP: 10/10 MP: 20/20 STR:1 DEX:1 VIT:1 AGI:1 INT:1 MND:1 LUK:1

 <適性属性>火・水・風・土・雷


 スキルも生まれた直後で11個は多すぎる気がするから4個に減らす。というか一般的な人が持つスキルの数が分からないせいで基準が作れない。


 魔法の訓練をしてもらうためにも【魔力自動回復】【魔の才】を表示するようにしておくのは悪くないだろう。


【武の才】を表示したのは【魔の才】にも言えることだが、どう考えても後天的に生えてくるスキルじゃなさそうだからだ。


 今この時点で既に表示しておかないと今後ずっとこの2つを隠したままになってしまう恐れがあるため表示することにした。


【鑑定】も、これを隠したままだといざというとき絶対にボロが出るとわかっているので最初から出しておく。


【無詠唱】に関しては【鑑定】と同様にいつかボロが出そうだが、誤魔化せる範囲だと思ったので非表示のままだ。


 属性は基本属性4つと上位属性1つにとどめておいた。これぐらいならおそらくやり過ぎということもないだろう。


 こういうの、絶対に更新するのを忘れるやつだよなぁ…。転生モノのキャラはこういう偽のステータスの変更をしっかりしていたけど、よくやるなと今更思う。ステータスチェックを習慣づけるようにしよう。


「ほら、パパだぞ~、分かるか~?」

「あらあなた、まだこの子の名前を付けて無いですよ」


「おっと、そうだった。じゃあ事前に決めていた通り、お前はセグストだ。セグスト・リーベル」


 …驚いた。


 生前、自分は一つの本名と、ネットやゲームでは二つのハンドルネームを使っていた。


 本名はニュースで報道されたら一発で分かるような特徴的なものだった。姓は普通に読めるものでも見かけるものでも無いし、名はギリギリキラキラネームに片足突っ込んでいるんじゃないかという感じだった。

 故に正真正銘世界で一つだけの名前だったと言える。


 ハンドルネームは【XYLITOL】【CEGST】をそれぞれ使いまわしていた。


【XYLITOL】はシンプルなもので、キシリトールガムを食後によく噛んでいたから付けられた適当なものである。こちらも他と被ることがあまりなく好んで使っていた。


 肝心の、【CEGST】だが、これは自分が使うデスクトップPCに入っていたHDDとSSDがエクスプローラー上で表示される際に、ドライブ文字が上からそれぞれCドライブ、Eドライブ、Gドライブ、Sドライブ、Tドライブだったので、【CEGST】になった。


 また、これを日本語読みすると「セグスト」になるために、今父親から自分につけられた名前に驚いた。非常に運命的である。


 そうか、自分はこれからセグスト・リーベルか。前世に比べてやっぱり横文字の名前はかっこいいな。

 一応返事のつもりで初めて声を出してみる。


「あう」


 …そうだろうな。はあ、今は赤ん坊として存在していることを急に実感してきた。


「おお!喋ったぞ!」

「ええ、ええ。元気そうで何よりです」


 とても嬉しそうで何よりだ。なら声を出して良かったな。


「じゃあ、早速鑑定してみないか?」

「ええ、分かったわ」


 そう言って父が部屋を出ていく。


(なんだ?鑑定ができる人間が居るのか?まあおかしくはないか。【完全隠蔽】を持っていてよかった。大事になるところだった)


 ああそうだ、名付けてもらったし偽のステータスを変更しないと。危ない危ない。


 -ステータス-

 <名前> セグスト・リーベル

 <種族> 人間

 <性別> 男

 <年齢> 0歳

 <スキル> 【魔力自動回復】【魔の才】【武の才】【鑑定】

 <能力値> HP: 10/10 MP: 20/20 STR:1 DEX:1 VIT:1 AGI:1 INT:1 MND:1 LUK:1

 <適性属性>火・水・風・土・雷



 よし、これで問題ないだろう。


「持ってきたぞ~!」

(なんだ?何を持ってきた?)


 扉を開けて入ってきた父の手には占い師が持っていそうな水晶がある。

 なるほど、これは鑑定石とかそういうものだろう。


【完全隠蔽】の説明では鑑定石についてなんの言及もなかったが、神様がくれたスキルなのだからそこら辺もバッチリだと信じたい。


「さぁてご開帳!」


 テンション高いな、おい。まあ子供が生まれた直後ならそんな感じにもなるんだろうか。

 生前は20歳で普通の大学生だったし、彼女は愚か子供なんて当然いなかったからそういうのはあまり分からないが。


 父親が赤ん坊の自分の手を持って水晶に触れさせてから魔力を水晶に流したのか、水晶が唐突に光りだして驚く。


 そして水晶の前には、あの白い空間で10個のスキルを選んだときのような透明なディスプレイが表示されている。


 こちらからだと文字が逆になっていて分かりづらいが、無事に【完全隠蔽】が機能しているようだ。偽のステータスが表示されている。とりあえず一安心。デメトル様に感謝!


 あれ?というか、適性属性が表示されてなくないか?

 なんだ?鑑定って普通は適性属性を見られないのか?せっかく設定したのになぁ。

 神様由来の【鑑定】がすごいってことなのかな。


「これはまた、すごいな…」


(え?まさか、あれでもステータスの隠蔽が足りなかったか?)


 そう言われたら、よくよく考えると赤ん坊にしては優秀すぎるような気がしてきた。

 いやまあ、隠さなすぎて忌み子扱いされてしまうくらいじゃなければまあ大丈夫か。


「能力値はMPが突出している…。生まれてすぐの赤ん坊でこの数値は目を見張る物があるな…。しかもスキルを4つも持っているとは。【魔力自動回復】と【魔の才】、【武の才】と【鑑定】か…。MPの能力値とこのスキルを見るに、魔法使いとして優秀になれることは間違いないだろうな!」


「すごいわ、【魔力自動回復】と【魔の才】だけでもすごいのに、【武の才】と【鑑定】まで…。これだけのスキルを持っていればこの子の将来は安泰じゃないかしら!」


 この反応、普通の赤ん坊はスキルを1つ程度しか持っていないのか?最悪持っていないこともありそうだ。多くても2個くらいかな。

 まあ6つとかにしていなくてよかったと思うべきだろう。やり過ぎは良くないからな。


「こりゃあ、魔法と武術の教育はしっかりしてやるべきだろうな。ここまでの才能は、しっかり伸ばしてやりたい。魔法に関してはうちに教師となれるものがいないが、武術に関しては私が教えることができるしな!」


「ええ、私も大いに賛成です」               

「…あぅ」


 生まれた直後に速攻でスパルタ教育宣言を聞いてしまう赤ん坊の気持ち、これ如何に。

 やはり、この先は少しどころではなく、かなり頑張らないといけなさそうだ。

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