Case.69 飾り付けをする場合


「ふぃー! いやー宣伝はバッチリだったねー!」


 本部の机に腰掛けて、足をバタバタさせて喜ぶ日向。

 放課後になった俺たちは仮だった本部をしっかりとしたものにするべく、掃除と部屋の飾り付けをしていた。

 座ってねぇでお前も働け。


「先生に怒られましたけどね……」


 結局あの後捕まって、俺たち四人はこっぴどく叱られた。

 まぁ、怒られただけで何のペナルティもなかったので、それは良しとしよう。


「けど、どの部活にも負けない宣伝だったろ。これでアタシらが一番だ」

「ぅぅ、教室に戻った時のみんなの目が冷たかったです」

「そうか? アタシは特に変わらなかったけど」


 どうやら初月も徐々にクラスで浮いた存在になってきているらしい。

 彼女もまた、俺と同じくここに居場所を求めることになったわけだが、それは別として軽蔑されるのは普通に辛いよな。

 俺たち四人とも学校のはみ出し者になってきた。

 改めて考えたら、こんな奴らに失恋更生を依頼したい奴がいるのか……。


 と思っていたら、扉をノックする音が。


「おぉー! さっそく来たよ!」


 日向が嬉しそうに勢いよく扉を開けると、そこにいたのは氷水だった。


「……ビックリした。あぁ、これ、一応この教室を部室にするための書類ね」

「なーんだ。生徒カイチョーか」

「なんでそんなにガッカリしてるのよ」


 後ろから見ても分かるくらい日向はあからさまに肩を落とした。

 書類は初月が受け取った。

 書類関連をはじめ、すっかり書記の仕事を担っているが、ビックリするほど彼女の字は綺麗である。

 本人も特に問題なく、むしろ楽しそうに仕事しているので天職なのかもしれない。


「へー、綺麗に片付いたじゃない」

「でしょ〜! ここが失恋更生委員会の本部だよー! 広いでしょー!」


 間取りや設備自体は机の数が減ったくらいで、広さは普通の教室と何ら変わりはない。

 あぁ、そういえばここには教室後方にロッカーがあったな。

 他の教室は広さ確保と置き勉防止のために何年か前に取り外されたらしいけど、ここは使われてないお陰で残っていた。

 そこにはごちゃついていた道具やら器材やらを整理整頓して入れた。空きはまだありそうだから俺らの私物なんかも置けたりするな。


 そして、そのロッカー前には日向と火炎寺がどこからか貰ってきたベンチ二脚とローテーブルを設置。

 これで失恋更生依頼人の話を聞くスペースができた。

「本当はソファがいいんだけどねー」と日向がボヤいていたが、どこから持ってくるんだよそれは。


 教室前方は一段上がる教壇があるわけだが、その中央縁に付けるように教卓を配置。前に机九脚を上手く使って、歪な正方形を作った。

 日向曰く、それぞれの持ち場らしい。ボスの日向は教卓と真向かいの机だという。



「さてさて、あゆゆ手伝ってー」

「よし、任せろ」


 火炎寺に肩車された日向は最後の仕上げとして、教室の名前を記すはずの真っ白なネームプレートに旗のスペアを垂らす。


「ふっふっふっー、これで完成だー!」


 嫌でも目に入る顕示欲強めの看板。

 幅の関係上、端っこがナヨンと垂れているが、まぁ迷わずここに来れそうだ。


「いや、通行の邪魔だから。流石にこれは駄目よ」

「えー!?」


 氷水が即刻旗を取り上げた。

 文句タラタラの日向だったが、ネームプレートに紙は貼っていいと許可は貰った。

 氷水が生徒会室で調達した厚紙に、〝失恋更生委員会〟と文字を初月が書き、その周りをプリクラみたいに日向がデコり、火炎寺がネームプレートに貼り付けた。


「うん! まぁ、これでもいいでしょう! さてさて、じゃあ五人全員揃ってるわけだし、記念に写真でも撮りますか! はい、七海くんスマホで撮って」

「はいはい」


 俺は全体が入るように少し離れた場所から──


「七海くんどこ行くの? 内カメでいいじゃん」

「え? あ、あぁ、そうだな」

「はやくはやく!!」


 俺を先頭に、失恋更生委員会のメンバーが並ぶ。氷水も画面隅に入ってくれているみたいだ。


「撮るよー! はい、チーズ!」


 日向の合図で俺はシャッターを切る。

 ったく、俺に撮らせたのは後ろに並んで小顔効果でも狙ってたのかね。

 けどまぁ、みんな良い笑顔だった。




   ◇ ◇ ◇




「──失恋更生委員会か」


 明谷みょうだに駅にあるカフェチェーン店〝スナバ〟で日向たちを話題にしている三人組がいた。


「どーすんのー? ゆと──じゃなくて士導しどう様。あたしらの目的の邪魔になるんじゃない? 仄果ほのかもそう思うよね?」


 金髪サイドテールの女子生徒は、インヌタであげる用に購入したドリンクと一緒に自撮りしていた。

 彼女の持つ豊満な胸を見せつけるかのように、カッターシャツのボタンは二つ目まで開けている。カーディガンを腰に巻き付け、スカートの丈は短い。

 制服を着崩した彼女の格好は街中で見かければ目につく派手さがあった。


「う、うん。自分は士導様に付いていくだけだから、あぶぅっ!?」


 対して、仄果ほのかと呼ばれた女子生徒は地味だ。

 スカート丈は普通膝くらいだが、それよりも10㎝は長いし、胸元も少し曲線を描いているだけで、ほぼ垂直であった。

 彼女がドリンクを飲もうと持ったところで、ストローからアイスコーヒーが顔面に発射される。


「ちょ、仄果だいじょうぶ!?」

「うぅ、不幸体質がまた……けど、もう暑くなってきたしこれで涼めると考えればラッキーかな、えへへ……」

「いや、ベタつくっしょ」

「仄果、これを」


 士導様と呼ばれた生徒は仄果にハンカチを渡す。


「そのままだと風邪をひいてしまう。これを使うといい」

「あ、ありがとうございます……。けど、ハンカチが汚れてしまいます」

「気にしなくていいよ。仄果の笑顔が見れるなら、大したことないさ」

「ぁ、うっ……」


 微笑む士導に見惚れて、仄果は思わず固まってしまった。


「ほんっと昔から優しいんだから。女の子みんな惚れちゃうよ」

「ふふ、ありがとう。仄果は〝PUREピューレ〟の大切な仲間だからね。体調には気をつけてもらいたいんだ」


 拭き終わった仄果はハンカチを洗濯してから返そうとするが、士導はそれすらも気にしなくていいとした。


「さて、では今日の本題に入ろう。ボクたちの邪魔となる存在、失恋更生委員会を計画について」


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