Case.70 暇すぎる場合
「これは由々しき事態だよ……!」
本部にて。ポ○キーを煙草のように見立てて咥える日向は唸っていた。
「どうして誰も相談しに来ないのー!!」
閑古鳥が騒いでいた。
昨日の今日でいきなり依頼人、および失恋者が来るとは思えないが、日向の妄想では今頃行列ができていたらしい。
後ろのスペースでは初月と火炎寺がトランプで遊んでいるし、俺は割り当てられた席でネットサーフィンをしていた。
「待っても来ないなら、いつものように失恋臭を探して学内探検でも行ってきたらどうだ」
「もう行ったよ! けど、ぜーんぜん匂わないんだよねー。それよりもなんかみんな文化祭で告白成功してたり、イチャイチャばっかりしてるんだよ! くそぉ〜!」
なんか羨ましいみたいに聞こえるけど!?
でもまぁ日向の言うとおり、学内のカップル率が一気に高まった気がする。
幸せな人が多いのは良いことだろうが、うちの委員長はそうは思わない。
失恋更生したいのにそもそも失恋がないというフラストレーションが溜まり、珍しくイライラしていた。いや、ムカムカの方が表現はふさわしいか?
「まぁ、いずれにせよ、カップルが多いなら今後別れる数も多いというわけだ。気長に待てよ」
「うぅ、待てないよ~。早く浮気でもなんでもしないかな~……はっ!」
「しねぇよ?」
ある時に言っていた彼女を寝取ればいいじゃん的な目線を俺に向けるが、もちろんそんなことしないし、できない。
悪魔的考えの日向は「プーン!」と机に突っ伏して拗ねた。
「……そぅぃぇば、カップルが増ぇたのは恋のおまじないが広がったかららしぃですよ」
火炎寺に全敗していた初月がそう話を切り出した。
「おまじない? って、どんなものだ?」
「たしか……後夜祭のキャンプファィヤーで好きな男子の影を踏みながら告白すると成功するって……昔からそぅ言い伝ぇがぁると友達から聞きました」
そんな噂があったのか。
準備期間は死に物狂いで忙しかったし、本番も色々あったから知らなかったな。
「あーそういえばワタシも同じようなの聞いたかも〜。でも、たしか男子が炎を背に告白すると上手くいくだった気がする。こう、炎の神様の力がブワァーって得られる伝説があるんだって!」
「なんだ、そのファンタジー」
ただ男女それぞれに恋のおまじないの噂が広がっていたらしい。
それでカップルが増えたってことか?
「うーん、ならアタシもそこで告白してたら成功してたのかなー」
火炎寺は既に失恋更生をしている。今はもう再び告白して成功させるため、前に歩み続けている。
「な、なら今度何か燃やしましょぅ……!」
と、初月が何やら物騒なことを提案したが、そういうことじゃないだろ。
段々と日向に影響されてきているな。
すると扉をノック──「来た!!」
圧倒的な反射神経で日向は反応し、扉を開けに行く。
「きっと好きな人が文化祭で別の人とくっついたから失恋更生したいという依頼だよ! はいはーい!」
「七海いる?」
「また生徒カイチョーじゃん!!」
氷水だった。
本当に何回来るんだよ。もう立派な失恋更生委員会のメンバーじゃねぇか。
「って、俺? な、なんだよ……」
「なんでそんなに警戒してんの」
「いや、お前が俺を呼びに来るなんてもう補給しか考えられないだろ」
「違うわよ。もう学校ではしないって言ったでしょ。……タブン」
「多分ってか!? もっと
「あぁ、それは──」
「やいやい生徒カイチョー。生徒カイチョーがワタシたちの活動の邪魔をしてるんでしょ!」
「はぁ? 何の話よ?」
「とぼけたって無駄だよ! キャンプファイヤーでのおまじないの噂を流したのは生徒カイチョーでしょ!」
自分たちの邪魔をしているのは氷水だと、日向は疑っている。
ただ氷水は何のことか全く分かっていない。
とりあえず一から状況を説明した。
「──なるほどね。確かに私もその噂は聞いたことあるわ。だけど、私じゃないわよ。そもそもキャンプファイヤーは私が今年から始めたのよ。言い伝えや伝説があるわけないじゃない」
そういえばそうだったな。キャンプファイヤーは氷水のワガママで始まったものだ。
「まぁ、私としても盛り上がる一因になると思ったから特に口出しはしなかったけどね」
日向は「そっかー」と口を尖らせていた。
客足を奪うことになった噂を流した人物を突き止められそうになく、不満そうであった。
「って、そうじゃなくて七海行くわよ」
「行くって……え、どこに?」
「校舎裏。なんか分かんないけど、私と七海が呼ばれてるのよ」
「呼ばれてるって、誰に?」
「さぁ……?」
「さぁ??」
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