Case.65 風邪を引いた場合
日付が二日変わって月曜日。
俺は……風邪で寝込んでいた。
まぁ、当然である。
原因はもちろん海ではしゃいでいたこと。
制服あるいはクラスTシャツのまま海に飛び込んだ俺たちはその後、タオルも何もない、びしょ濡れの状態で家に帰ったからだ。
夏間近といえど、日が沈めば普通に寒かった。
その夜には高熱が出ていた。加えて俺は文化祭準備の疲れもあったんだと思う。
他のみんなも仲良く風邪を引いたらしいが、初月と火炎寺はすぐに回復し、今日は登校したらしい。
まだ俺は微熱だったので、念のためもう一日休んだ。二人からは労いのメッセージが届いていた。
……気付いたかもしれないが、文化祭があった次の月曜日も通常授業がある。なぜか振替休日はない。
これが自称進学校の大きな特徴だよな。
まぁ、この日は自称風邪も多くて登校生徒は少ないから、授業も大して進まない。
大いに休んでやろう……まぁ、しんどいから嬉しくもなんともないんだけど。
「コホッ……ぁーゲームできるほど元気はねぇか……」
昼頃にのそのそとベッドの中で起きて、暇つぶしに動画でも観ようかとしたところで、いきなり電話がかかってきた。
「……なんだよ」
『ふっふっふっー、七海くんはまだ風邪引いているみたいだねー。きっと暇なんだろうなぁと思ってたから電話してあげたんゴホッガハッ!!』
「お前の方が重症だろ!」
バカは風邪を引かないと言うが、あれは嘘だ。
現に電話越しに反例がいる。
『いやぁ、ところで何をしてたのー?』
「さっきまで寝てて、今からNewTUBEでも見ようかと思ってたんだよ」
『おー、暇じゃん』
「悪かったな、暇で」
『ちょっとさ、テレビ電話にしてみて』
「は? なんで……」
『いいからいいから!』
言われたとおりにテレビ電話にすると、画面にはピンク色のパジャマを着た日向が映り出す。
まだ熱がある彼女の顔もまた桃色に見えた。フィルターのせいかもしれない。
『えへへー、ワタシもさっき起きたばっかだよ〜』
日向も俺と同じくベッドで横になって寝ていた。
これじゃあまるで──
『なんだか添い寝してるみたいだね』
考えたことを口に出されて、恥ずかしくなって、スマホを伏せた。
『あー、真っ暗だよー!』
「た、倒れただけだよ」
『七海くん、顔赤くなってるね。もしかして照れてる?』
「熱のせいだ」
『あはは、ワタシとおそろいだね〜』
画面越しとはいえ、日向がこんなにも近くにいる。
ジーッとニヤニヤと俺のことを見ている。うーん、こっち見るな!
『ねぇねぇ、七海くん』
だが、まぁ俺たちにはこんな彼女のとびきりの笑顔が不可欠だ。
『これからもよろしくね♪』
「……こちらこそ」
さっさとお前も風邪を治して、俺たちを率いてもらわないとならない。
『文化祭終わりこそが失恋更生の本番だからね! これから忙しくなるよー!』
病み上がりに鞭打つような奴だが、それでも俺は好きでここにいるだろう。
『せっかくだしさ、何か新しいキャッチフレーズ使いたいな〜』
「キャッチフレーズ? あー、いつもお前が言ってるのでいいだろ」
『いやいや、せっかく仲間が増えたんだもん。新生失恋更生委員会として、新しいのがいいよ。なんか考えてよー』
「はぁ? あー、じゃあ、こういうのはどうだ?」
──失恋した人大歓迎
いついかなる時もどのような失恋も必ず更生をお約束
太鼓で沈んだ気持ちを叩き上げ
拡声器であなたの心に慰めの言葉を届け
この旗を目印に
しつこくあなたを応援する
そう、我等こそが──
「なんか長いしダサい」
「ええっ!? お前が何か考えろって言うからだろ!?」
「もう、七海くんだけには任せられないなー。またみんなで考えようね。ういちゃんとあゆゆと、もちろん生徒カイチョーも!」
日向はパァァと太陽のように笑った。
最後に決めるのは日向だ。
そんな一文はお前にくれてやるよ。
「それがワタシたち失恋更生委員会だからね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます