Case.64 みんなが揃った場合
『──あ! ひなたちゃん! 七海くん!』
海から上がってきた日向を迎えていると、拡声器を通した初月の声が聞こえた。
きっとここにいるはずだと連絡しておいた二人が追いついてやってきた。
『よかった……えっと……』
「ふっふっふっー、ういちゃん大丈夫だよ。七海くんがちゃーんと謝ってくれたので、許してあげたから!」
『それより……』
「何で濡れてんの??」
二人の疑問はもっともである。
というか、俺もそれについては同じこと思ってる。
「まぁまぁ〜、それについては別にいいんだよ〜。でもこれでようやく失恋更生委員会が揃ったね!」
俺は旗を、初月は拡声器を、そして──
「あゆゆは太鼓持ちかー! 似合うね〜」
本部にて転がっていたという、片手で持てる程度の太鼓を携えた火炎寺。
「まー、太鼓叩くのには力いるだろ。そこのヒョロガリじゃ務まらないしな」
うるせぇな。って言うのはまだ言えないや。
けれども、さっきの言葉に従い、こうして責任者も一緒に連れて来た。
もう一度、改めて二人にも謝らないと。
「火炎寺、あの時はすまなかった。もしお前が止めてくれなかったら日向がケガしていたところだった」
「女子供を守るのはアタシにとっては当たり前なんだよ。そんなお前は砂の城の大黒柱として埋めることで許してやるよ」
「怖っ!? でもすいませんしたー! ──初月さんも心配させてごめん」
『ううん。わたしも大丈夫です。七海くんとひなたちゃんが仲直りし、してくれただけでわたしは……うっ』
「ゆ、ユウキ!? てめぇごら」
「女の子泣かせるなんてサイテー!」
「ほんっとうにごめん!!」
俺は砂浜に埋まるくらいまで土下座した。
これは俺と日向の問題でありながら、結局みんなを巻き込んだものとなってしまった。いくつ頭を下げようとも足りやしない。
「うむうむ。みんな仲良くなってよかったよかった!」
「絶賛人柱になるとこですけど!?」
「ん……?」
俺が火炎寺に埋められそうになっている中、鼻をスンスンとする日向。
どうやら火炎寺の匂いが少し変わったことに気付いたようだ。
「あー……。そう、アタシはフラれたんだよ。けれどこれでクヨクヨなんてしないから。アタシの失恋更生はあいつから告白されることだ。アタシはアタシを励ますために、一番の女になるんだよ」
「わぁ……! いいね! ワタシもすっごく更生させる! これからもよろしくね、あゆゆ!」
「おうよ! って、びしょ濡れすぎだろ!?」
「ごめーん!」
「いいぞー!!」
びしょ濡れの日向から抱きつきに行って火炎寺の制服は濡れてしまったが、勢いよく抱き締め返した。
しかもそのまま離さずグルグルと日向を担ぎ回す。父娘かよ。
「さて、その辺にしてだな、そろそろ学校に戻らないと」
帰った頃には後夜祭のメインイベント、キャンプファイヤーが行われている。
例年は行われていなかったが、氷水の敏腕により今年初開催されたらしい。
開催させた理由はアニメみたいなことをしたかったからだと、何回目かの会議後に聞いた。なんと強欲な奴だろう。
『そうですね。きっと失恋がたくさん生まれてると思います』
「お、なら戻ろぜ委員長」
「おー……委員長。初めて委員長って呼ばれた。いいねその響き!」
火炎寺が呼んだ敬称を、どうやらお気に召した日向。
「早く指示を出せよ委員長」と、今日だけは彼女に良い気分になってもらおうと思って俺も続いて呼んだ。
「うむ!! じゃあ早速戻って失恋更生! ──と言いたいことだったけど〜」
「ん?」
「あゆゆも正式に入ったわけだし、七海くんも戻ってきてくれたことだし! 今日は打ち上げをしちゃおー!」
「は? 打ち上げって、ってちょ、おい! 引っ張るな! せめてスマホは置かせろぉ!」
俺は日向に手を引っ張られ、そのまま一緒に海に落ちた。スマホはギリギリ砂浜に投げた。
初めて出会ったあの日よりかは海はぬるくて、気持ちがいい。けど、風にさらされると寒いから、このまま浸かっていたい。
「ういちゃんもあゆゆも! はやく!」
『えぇ……!?』
「いいね〜アタシはもう濡れてるし、何よりおもしろそーじゃんか!」
「…………ゎゎ、っ!」
火炎寺と、彼女に肩を掴まれた初月は、二人も持ち物を砂浜に置き捨てると、海に飛び込んだ。
上がった水飛沫は俺たちに降り注ぐ。もうびしょ濡れだけど、後に戻れないほど濡れに濡れた。
海水を掛け合ったり、日向にラリアットされてまた頭から入水したり。その光景はただはしゃいでいる高校生だった。
今までの俺ならこんな馬鹿なことはしない。
でもな──
「あはは! 七海くん! 今、すっごく楽しいね!」
「あぁ、俺も楽しいよ、日向!」
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