Case.61 心当たりがある場合
11時からは文化祭で出たゴミを集積する係として働いていた。
今日が真夏日並みに蒸し暑いせいで、ゴミ回収場所は少し異臭がした。この後は昼食の予定だが、臭いのせいでちょっと食べる気が起きない。
適当な場所でなるべく綺麗な空気を吸っていたところ
「あ、周一。やっとおったわ!」
両親に見つかってしまった。
「何でここに……。文化祭について何も言ってなかったはずだろ!」
「はっはっはっ。そんなもん氷水さんところのお母様から聞いたに決まってるだろ」
父が高らかに笑った。
あー、恥ずかしっ。両親に学校での自分を見られるのが一番恥ずかしい。
思春期男子特有の羞恥を感じていたところで、先程までの沙希母との出来事を思い出す。
「な、なぁ……沙希母とは今日会ったのか?」
「会ったで。それがなんや」
「あー、なんか話した?」
「いんや、特にはー。校門ですれ違って挨拶したくらいよ」
よ、よかった……。沙希母は今のところ両親には何も言っていないようだ。
逆に愛する娘が「あなたの息子さんと付き合ってるんですよ」とは言いたくないのかもしれない。そのまま黙ってくれるのなら万々歳だ。
「けど、今日は目力が強かったな。目が見開いとったで」
めっちゃ気にはしてるぅぅ……!!
七海家と氷水家の両親同士は本当に仲が良い。
いつでも暴露するチャンスはあるわけだ。俺の命は常に握られてる。
「と・こ・ろ・で、日向ちゃんは? あんたはどうだっていいんだよー。日向ちゃんはどこよ?? ん??」
日向が家に泊まった次の日、あの夜何があったのかと両親からしつこく問いただされていた。
あれ以来、日向を偉く気に入った二人はキョロキョロとどこにいるか捜すが、それがとても悪目立ちしている。
俺はそれが嫌で適当に「模擬店で働いてるんじゃね」とはぐらかした。
「どうした周一。日向くんと何かあったのか?」
「別になんもねぇよ」
「……喧嘩でもしたか」
やけに今日の父は鋭い。
子供の変化に一番敏感なのは、やはり親だ。
氷水にも言われた通り、俺が態度に出過ぎているだけかもしれないが。
「──少し言い合いしたくらいだよ。そんな大それたことじゃねぇから」
「周一にとってはそうかもしれんが、日向くんにとってはそうじゃないかもしれないぞ。日向くんと面を向かって話をしたのか?」
話も何も、あいつはクラスで騒ぎを起こして──そういや、その原因を日向含め誰からも聞いていない。
俺は目の前で起こったことを収めたかった。
自分の邪魔をされたくなかったから、さらには問題も解決できる人としてクラスに評価されると思ったからだ……なんて自己中な考えが頭にはあった。
そういえば自分のことばっかりで、あの時あいつは何か訴えようとしていたのに、俺は耳を傾けようとしなかった。
「心当たりがあるようだな」
その場を見ていたかのように、父は話を進める。
「周一。喧嘩だって一つの会話だぞ。相手がいないと成り立たないからな。自分の中の日向くんと喧嘩して一人で完結させてないか? 彼女のことを分かったつもりでいるんじゃないか」
あいつは明るく元気で、いつも周りを振り回すやつだ。
でも、それは俺の知っているあいつ。
会ってまだ二ヶ月だ。会っていない時や、会う前までのことも、今あいつがどんな表情でいるのかを俺は知らない。
「……私たち家族ですら、家族のことを分かったつもりでいることがある。でも、今目の前にいる周一が考えてることくらいは分かってあげるつもりだ」
「……父さん」
「いつもはパパだろ」
「うるせぇ」
「はっはっはっ!! では、あとは若いものに任せるとして。父さんたちはお腹が空いたからご飯を食べに行こう。なぁ母さん」
「せやなー。じゃあね周一。あー、でも最後に一つだけ」
「何だよ」
「自分の役割はちゃんと果たしなさい。あと今日の髪型はええ感じちゃう」
「……二つあるじゃねぇかよ」
**
実行委員としての残された仕事は、13時から二人組で学内の警備にあたる見回りがあるくらい。
南校舎入口で相方を待ちながら、文化祭後にどう日向に話しかけるか考えていた。
……うん、まずは理由を聞いて、そして謝ろう。それが最適解だ。
「ごめん、遅れそうになった」
時間ぴったりに雲名が来た。彼氏の雨宮と文化祭を満喫し過ぎて忘れそうになったらしい。
正直なところ来ないものだと思っていた。俺たちの関係性や気まずさが邪魔して仕事を放棄するものだと。
来なかったら来なかったで一人で回ろうと思っていたが、来たから別にいいや。一時間気まずいツアーが始まるだけ。
「じゃあ、行くか」
「──あのさ、その前にちょっと言っておきたいことがあって」
「お、おぉ。なに?」
「あの日、七海と最近一緒にいた、あの子についてなんだけど」
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