Case.50 人助けをした場合
もう夕暮れ時だ。一体何時間あのスーパーにいたんだよ……。
帰宅途中、小さな公園のそばを通っていると、道路に面した入口で、何やら揉め事が起こっていた。
「おぉぃっ!! なにさらしてくれとんじゃ? おん? お前らのボールが兄貴の車を傷付けやがってよぉ!?」
「「うわぁぁぁぁん!!」」
「嘘つかないでください! これはゴムボールですよ。そんな引っ掻き傷ができるわけじゃないですか!」
中学生ぐらいの女の子とその弟妹であろう子供たち三人が、強面の男二人に脅されていた。
状況を見るに、車の傷を子供たちが遊んでいたボールのせいにして金を巻き上げようとしているんだろう。
大人のくせに情けねぇ──
「いいから金出せやぁ! 弁償しろよおらぁ!」
「は、払いません!」
「ふぅ……なら仕方ない、一緒に事務所来てもぶっ!?」
「あ、兄貴!?」
「おいおい、ここってそんなに治安悪かったっけ?」
とりあえず軽く小突くように、主に恫喝している男の鼻を殴った。
「てめぇ、何さらしてくれとるんじゃ!」
「おいお前ら。一昔前のダセー小芝居やってんじゃねぇぞ。アタシは今モヤモヤしてんだよ」
「イライラじゃねぇの!?」
「ぅるせぇな。これ以上なんか用があるなら──」とアタシが拳を鳴らすと、弟分が兄貴の肩を叩く。
「あ、兄貴! この女、あれっす! 百鬼炎獄っす!」
「え、マジ」
どうやら昔、アタシは既にこいつらをぶっ飛ばしたことがあるらしく、分かりやすく二人は青ざめる。
その後「「すいませんっしたー!」」とすぐに騙してたことを泣いて謝罪し、エンジン吹かせて逃げていった。
「おねーちゃんすごーい!」
「おねーちゃんカッコいいー!」
アタシのことを怖がらない小学生くらいの男女が足の周りでキャッキャしている。
お、おぉ……褒められるのは好きだから素直に嬉しいな。
「ありがとうございます。なんてお礼を言ったらいいか──」
「いや、いいよ。日常茶飯事だから」
「あんなのドラマでしか見ないですけど!?」
「まぁ、どこにも変な奴はいるこった。じゃあな、気ぃつけて帰れよ」
アタシはそのまま立ち去ろうとすると、小さい子たちが口を揃えて「おねーちゃん一緒に遊ぼー!」と言った。
「ちょっと、
「平気。ありがたいお誘いだけど、遠慮しておくよ」
「「え~……あ、お兄ちゃん!」」
ガッカリした二人だったが、すぐに興味は後ろからやって来た人物に移った。
「あぁ、どうも──って雪浦!?」
振り返るとそこには、自転車に跨った雪浦がいた。
と、間髪入れずに先ほど助けた女子中学生が抱きつきに行く。
「なっ……!?」
「お兄ちゃぁん! ぐすっ、あのね怖いことあったのぉ。だから結婚しよ?」
「しない。暑い」
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ雪浦……!? そ、そちらの女の子とはどういう関係で……!?」
「そんなの決まってるじゃなーい! もちろん愛して──」
「妹」
「もうお兄ちゃんったらー! 〝アイシテル〟ってブレーキランプちゃんとつけてよ!」
「付いてないけど」
どうやらアタシが助けたのは雪浦の妹たちだったようだ。
こんな偶然あるのかよ……って、距離感が近過ぎねぇか!?
「
「三葉でーす!」
「四郎でーす! あのねお兄ちゃん! さっきこのおねーちゃんが助けてくれたんだよ!」
小学生がそうアタシを褒めちぎるから、きちんと事情を雪浦に説明した。
「そうか。どうやら二美たちが世話になったみたいだな。ありがとう」
「お、おう……」
素直に感謝されて何だか照れくさいな。
てか、さっきから妹がベタベタしているけど、ガン無視なのか。雪浦のスルースキルってこれが原因なのか?
「と・こ・ろ・で……お兄ちゃんと知り合いみたいですけど、二人はどういう関係で?」
「「もしかしてお兄ちゃんの彼女ー!?」」
「……はぁ?」と、二美は顔が強張るけど、アタシは真っ向から否定した。
「ち、違うぞ! 友達じゃなくて、えっとなんだろうな。ライバルみたいな感じか?」
「最近、付き纏われている」
「ガーン!」
ア、アタシのアピールは本当に何も届いてないのかよ……。
落ち込んでいると二美の様子が変貌する。
「なっ、悪い女ですか!? 騙されないでお兄ちゃん! 女子高生なんて信じちゃダメなんだから!」
「来年は二美も女子高生だろ。それに恩人じゃないのか」
「うっ……そうだけど……けど、お兄ちゃんを狙うのは悪人なんだからー!」
「帰るぞ」
雪浦はどうでもよさそうにその場を後にしようとする。「あ、待ってよ〜」と弟妹達も後を追いかけていく。
せっかくまともに会話したのは初めてなのに、このままでいいのか……?
アタシは……くっ!
「雪浦!!」
呼びかけると全員が振り返る。そうか、全員雪浦だったな……。
「あのさ、もうすぐ文化祭だろ。ど、どうだ、もし良かったら文化祭一緒に回らないか。まだ、誰とも約束してなくてさ」
「……お断りさせてもらう」
「え、それは何で……」
「その日はバイトだ」
フラれた。
何かが変わることなく、雪浦は立ち去ろうと──
「ねぇねぇお兄ちゃん! 強いおねーちゃんも一緒に今日はご飯食べよーよ!」
「おねがーい」
幼い子供たちが無垢な願いを遠慮なくぶつけるが、今フラれたばかりだぞ!?
これで実家行くのめっちゃ気まずくないか!?
雪浦二美も「お姉さんを困らせてはダメでしょ~?」って、(来るなよ)圧を強くかけてくる。
「来るか?」
「え、え?」
「三葉と四郎が気に入ってるみたいだ。うちでご飯食べていけばいい」
「……い、いいのか!?」
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