Case.42 会議に参加する場合


 女子の実行委員に名乗りを挙げたのは、雲名奏音だった。


 委員長が聞いた「大丈夫なのか」は時間じゃなくて、相手が俺で「大丈夫なのか……?」という意味合いだ。

 どういうつもりなんだ、こいつ……!?

 俺だけじゃない。全員知っているわけだから当然みんな驚いている。


「あ。あーもしかして雨宮くんも実行委員になったってこと?」

「そう! 正解!! さっき連絡来たんだー。ってバレるの早すぎー! なんか理由が不純みたいに思われるじゃーん!」


 雲名と仲良い友達が正解を出したことで、みんな納得したし俺も納得した。

 多忙であっても実行委員に立候補するくらいの性格を雨宮はしている。

 RINEで(本来は授業中だが、金6は大体みんな触りがち)本人、あるいは雨宮と同じクラスの友達から連絡が来たんだろう。

 少しでも彼氏と一緒にいたい雲名なら立候補しても何らおかしくない。


 というわけで、文化祭実行委員は俺と雲名で決まった。

 その後は雲名が司会進行、俺が黒板にまとめる書記として、クラスの出し物の第一希望を『焼きそば』、第二に『お化け屋敷』と僅差で決まった。


 放課後にはさっそく実行委員として生徒会が取り仕切る会議に出席しなければならないので、日向たちにはグループRINEで『遅れる』とだけ伝え、視聴覚室の指定された席に雲名と横並びで座った。


 まだ、彼女とは何も話せていない。

 何か話した方がいいんだろうけど、わざわざ何を話せばいいのか分からない。

 向こうも気まずそうにして、目線を合わせることはしなかった。

 まぁ、当然である。


 そうこうしている内に俺らの一つ前の席、六組が位置する席に雨宮がやってきた。

 ああ、言ってなかったけど俺のクラスは七組だ。学年は全部で7クラス。


「憐〜! 私もちゃんと実行委員になったよー!」


 雨宮が来れば、雲名は前にいる彼氏にイチャイチャ甘えだす。

 さすがにみんながいる場で応えはしないが、彼女の機嫌を損ねないように雨宮は上手く返していた。

 もちろん俺の存在に気付き、いることに少々驚きを見せていたが、その後一瞥すらくれなかった。



「──お待たせしました。生徒会長の氷水沙希です。それでは最初の実行委員会議を始めます」


 数分後、生徒会長の氷水が大量の資料を持って現れ、会議が始まった。

 今日は実行委員としての仕事の説明と文化祭までの流れ、そしてクラスで決まった出し物の確認と抽選だ。

 出し物が被ったら抽選、第二以降まで外れた場合、また近日中に希望の提出を行わなければならない。

 雲名のくじ運は良くも悪くも普通だったため、俺たち二年七組は第二希望の『お化け屋敷』に決まった。



「──次は来週水曜日に同じ時間、ここでまた会議をしますのでよろしくお願いします。では解散」


 氷水の滞りない進行で会議が終わると、みんなさっさと帰って行く。

 雲名はもちろん雨宮とベッタリとくっついて部活に向かった。嫉妬はもうしてないからな……shit!


「意外ね。実行委員になるなんて」

「あ、ああ、成り行きでな……」


 内心唾を吐いた俺も今日の集合場所に行こうかと思ったら、氷水に呼び止められてしまった。


「みんな先に行ってて。追加でちょっと話したいことあるから」


「わかりましたー」と生徒会の面々は素直に指示に従い、荷物を持って出て行った。

 氷水は全員がいなくなったことを確認すると、扉の鍵を閉めた。


「──ん? なんで鍵閉めた?」

「そういえば昨日、初月さんから創部書類を受け取ったわ。部員と顧問が揃ったのね、よかったじゃない」


 俺の疑問は無視かよ。


「まぁ、な。一人は幽霊部員だし、一人はあの番長だけどな」

「そう。まぁ、私としては要監視の人物が一つにまとまって楽でいいんだけど」


 え、俺も監視対象なの? と思ったら停学喰らった前科持ちだったわ。


「そんなことを言いに、わざわざ俺を呼び止めたのか?」

「そんなわけないでしょ。──ん」

「ん……?」

「分からないの? 慰めて。ん」

「ん?」

「慰めてよ! 私これから一ヶ月間、激務なんだから! 政宗の声で! 私を慰めてぇ!!」

「はいぃぃい!? ここ学校だぞ、誰かに見られたら……って、だから鍵を閉めたのか」

「そうよ。視聴覚室だからカーテンもある。外から見られることはないわ」

「……拒否権はない感じすか」

「パンツ」

「ぐっ……分かったよ……」


 俺たちはお互いにデカい貸し借りをしている。

 氷水のこの変態性が他人にバレてはいけないし、俺たちが氷水にしでかしたことも公になってはいけない。

 歪で秘密な契約関係。


 俺は咳払いをして声を出す準備をする。

 そして、氷水の推しの声を意識して、低めのトーンで応援し始めた。


『──沙希ちゃん。大変だと思うけど応援しているよ。頑張ってね』


「きっとまた要求するからそれまでにクオリティ上げておいて」なんて言われて氷水から送られてきた動画。

 それを何度も繰り返し見たお陰でさらに進化したこの声真似を使い、彼女を適当に励ましていく。


「いい……! 凄くいい!! けど、なんか足りないわね」


 だが、どうやらご不満なようで。

 ヨダレを垂らしそうになったが、スッッッと吸い込んで戻す。汚ねぇ。


「じゃあ、どうしたらいいんだよ」

「うーん、そうね……ちょっと、後ろから抱きしめて」

「は……?」

「いいから、後ろから抱きしめて耳元で囁いて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る