Case.37 新部員を迎える場合


「顧問の件、引き受けてもらえてよかったですね」

「そうだな」


 次の日、俺と初月は顧問を老木ろうぼく先生に頼むことにした。

 名は体を表すように、もう高齢のおじいちゃん先生で、老木のようにしわっしわで水分がない人である。盆栽みたく動かず、授業中でも時々フリーズしていることがある。

 部活に積極的に関わることはないので、小規模の文化系団体は大抵この人にお願いしている。

 いつものことなので、先生も快くOKしてくれた。


「あとは新部員だけですね」

「まぁ、氷水みたいに名前を貸してくれるだけの幽霊部員でいいんだけどな」


 氷水は生徒会で忙しいから行動を共にすることはない。

 ぶっちゃけ、この際誰でもいいっちゃいいのだ。


「そういえば、結局氷水には初月さんがいたことはバレてないままなんだよな」

「はい……言い出そうかと思ったんですけど、も、もうこの罪は墓場まで背負っていくつもりです……」

「そ、そうだな……」


 まぁ、問題じゃ済まされないもんな……。知らない方が幸せってのもある。氷水には永遠に黙っておこう。

 俺も共に持っていく覚悟だ。ついポロリと言ってしまわないよう気をつけねば……まぁ一番言いそうなのはうちの委員長なんだけどな。

 そんなあいつは今ここにいない。なぜなら──


「それより問題は日向だろ」

「ひなたちゃん赤点取っちゃったらしいです。でも数学だけでしたって」


 あいつ計算とかできなさそうだもんなぁ……。二週間くらい補習らしいから、活動は早くてもそれ以降になる。

 けど、まぁそれまでのんびりできるし、それでいっか。

 一ヶ月後は文化祭だ。その前後は失恋大量発生で忙しくなるから、今のうちに体を休めないとな。


「じゃあ、今日はもう帰るか」

「そうですね」


 二人きりの近距離で周りがうるさくない(うるさい奴がいない)ならば、だいぶ初月の声がハッキリと聞き取れるようになった。



「──……なーなーみーくーん!!」


 あー……初月と静かに帰れると思ったのに。

 昇降口にいる俺たちのところまで、職員室前の廊下を全力疾走してきた日向。

 相変わらず元気でやかましいな。


「と、ういちゃ〜ん! ういちゃんも一緒にいたんだね!」

「ぅん……!」

「補習もう終わったのかよ」

「うん! 今日は初日だからまだちょっと軽かった! 内容はよくわからなかったけど」

「もうダメじゃねぇか」

「それよりも! 良いニュースと朗報があるよ! どっちから聞きたい〜?」


 それ選ぶ必要ある? 

 とりあえず良いニュースを選んだ。


「良いニュースは〜、補習でね、失恋センサーが反応したんだよ!」

「あ、そう」

「反応薄っ!」

「そりゃそうだろ。お前は補習でいないんだから、失恋者がいたところで俺ら活動できないじゃん」

「たーしかに」

「てか人の失恋を良いニュースと呼ぶなよ。で、朗報は」

「そうそう! なんと! その人が失恋更生委員会に入ってくれるんだよ! これで部員問題は解決だね!」


 失恋したのにうちに入るのか。

 まぁ、俺も初月も失恋したのちにここにいるから境遇は一緒か。日向に強引に誘われただろうから初月みたいな大人しい子なのかな。

 つーか、勧誘じゃなくて補習しろ。


「んで、勧誘した人はどこにいるんだよ」

「あ、置いてきちゃった」

「だろうな!?」

「ついてきてるからもうすぐ来る……あ、こっちこっち! ふっふふ〜ん♪ じゃあ紹介するねー、新メンバーのあゆゆでーす!」


 また勝手にあだ名を付けて……一体どこのアイドルだ。


 ……だが、やってきたのは俺らの予想していた人とは大きく違う、想像しようもない人物だった。


 踏みしめる足取りに覇気を感じる。

 男子と引けを取らない身長。高めに括ったポニーテール。つり目で凛とした目から放たれる眼光は見る者全てを震え上がらせる。


「ほわぁぁー……んあー、火炎寺かえんじ歩美あゆみ。今日からよろしくな」


 大きなあくびをしながら現れた彼女は……この学校の頂点に君臨する女番長だ。


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