Case.36 活動再開する場合
「よぉし! これで失恋更生委員会は活動再開だねー!」
「ぅぐっ……!?」
日向は初月の手を取って一緒にバンザイした。
いつも通りの勢いに、初月の肩は外れそうになっているが。
「いえ、残念だけど校内での活動は禁止のままよ」
「えっ!? なんで!?」
「校則で決まっているのよ。校内活動が許されているのは公認団体のみ。つまり部活ではない失恋更生委員会は最初から活動できないのよ」
「せこい!」
「はっはー! 何とでも言いなさい!!」
もう何も失うものなくなって、氷水のテンションがおかしな方向に吹っ切れてやがる。
16年も幼馴染なのに、今まで見たことない氷水ばかり見る。本当にあの規律正しい
「これは私一人ではどーしようもない規則ですから。解散は取り消してあげる。ただ、活動するならその辺の公園で戯れてなさい」
氷水ならなんとかなりそうだが。事実、私利私欲で校則を捻じ曲げてきたし。
「もし校内活動がしたければ部として認められることね。まず部員が五名以上いること。そして、顧問になってくれる先生の同意を得る必要があるわ」
「ほぉほぉ。つまり、委員はあと一人必要ってことかー」
日向日向、初月ユウキ、それと俺と……
「──どうしてみんなしてこっちを見てるの。まさか私!? 入部するわけないじゃない!?」
「だって、生徒カイチョーはみんなからの信頼も熱いから応援する人としてはもってこいの人物だもん! それと権力」
二つ目の理由がいけすかねぇ!
「私は推し活で忙しいの。あと生徒会活動も」
「生徒会は二の次かよ」
「とにかく私が入るわけ──」
「ういちゃん」
日向の指示で、初月は申し訳なさそうにスマホを印籠のように見せつける。
流れる動画には、言葉責めに狂喜乱舞しているアラレもない氷水の姿が。
このデータがある限り、俺らには逆らえないというわけだ……って、映り込んでる俺も同じじゃね!?
「うぐぐ……分かったわよ。名前だけなら貸してあげるわよ」
「やった!」
「その代わり、私からも条件があるわ」
日向たちが喜んだのも束の間、氷水はすかさず言葉を放つ。
いつの間にか夕日が沈む時間となっていた。
何度頬を赤く染めたのか、彼女は俺の目の前にやって来る。
「七海」
「な、なんだよ……」
「……お願いします! これからも時々政宗の声で私を励ましてもらえないでしょうか!!」
「……はぁ!?」
「七海のその声真似は逸材だと思うの。声質も声色も政宗本人のと言っても過言ではないわ。その声でぜひ私を励まして慰めてほしいの。普段からその声で接してもらうと生活に支障をきたすから私が求めた時だけで構わない。そうね、とりあえずは毎朝の活力として目覚ましに設定したいから『沙希、おはよう』と言ってもらうとこからで構わないから」
「まてまてまて!! ちょ、そんなことしねぇよ!」
早口で訳わかんないことを言うな!
どうして俺が幼馴染の腐れ縁にそんな甘い言葉を定期的にかけ続けなければいけないんだ!
それに俺の声を目覚ましに採用してみろよ。沙希母に聞かれでもしたら真っ先に抹殺されるんだよ!? 社会的に!?
たとえ声優に声合わせていようとさ、バレたら終わるよ色々と!?
「まー、それくらいいいんじゃない? それが生徒カイチョーの失恋更生だと思えば。ね、ういちゃん」
「ぇ……!? ──そぅ、だね……生徒会長さんが喜んでくれるなら良ぃことだと思ぅよ」
「初月さんもぉ!? 別にあの動画で充分に──」
「私のパンツを盗んだ件、不問にしてあげても──」
「ありがたく引き受けさせていただきます!!」
こうして、失恋更生委員会の消滅は免れ、さらには生徒会長の後ろ盾を得ることに成功した。
あとは条件どおり、顧問ともう一人の部員を確保していくだけだ。
ただ、どうして俺だけ弱みが増えていくのかね。
しかも日向のやったことを俺が肩代わりすることになってんだ!?
そんな張本人はグッと親指を立ててムフッとしてるのだった。
覚えてろよ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます