Case.30 女の子と二人きりで一晩過ごす場合
「わぁ、これ七海くんですか? かわいいですね~」
「でしょぉ? 今ではあんな残念な感じになってるけど。でもね、昔から誰よりも人のことを考えていて、優しい子なのよ」
「はい! それはワタシも思います!」
「──なに家族総出で俺の部屋漁ってんの⁉︎」
すぐに風呂から飛び出した俺は、急いでスウェットに着替えてから自分の部屋へと駆け込んだ。
「あらやだ。日向ちゃんも家族扱いだわ」
「わーお、七海くん大胆なプロポーズだね〜」
「うるせぇ!」
なんで今日だけで親の前で二度告白しないといけないんだよ!
「ま、冗談はさておき」
冗談で済ますな母親よ。
「周一の部屋に日向ちゃん用のお布団敷いておいたから」
「わーありがとうございま──」
「「えぇ!?」」
俺のベッドと並んで、布団が床に敷かれている。
俺が準備しましたと言わんばかりに、父がグッと親指を立て誇らしげでいる。うぜぇ。
「姉ちゃんの部屋とかリビングじゃなくて!?」
「なぁに言ってんの! 日向ちゃんを一人寂しく寝かせんの!? お泊まりするからには怪談でしょ。枕投げでしょ。恋バナでしょ!」
「修学旅行かよ」
「それとうちらはホテル取ったから後は二人でごゆっくり〜」
「はぁ!? 本当に取ってんの!?」
「年子。一緒に枕投げしよーねー♡」
「ねー♡」
「「はっはっはっ〜」」と笑いながら、両親は速攻で家から出て行った。
なにこの急展開!?
俺の人生ラブコメだっけ!?
「わー、ほんとに二人きりになっちゃったね、七海くん。さてさてーなにしてくるのかなー?」
「何もしねぇよ。するわけないだろ。とっとと寝るぞ」
「いやいや寝ちゃダメでしょ。ういちゃん取り残されてるのに」
「……んぐゃあ!?」
「え、忘れてたの。もー困ったなー七海くんったら」
……そうだったぁぁ!! ボケまくる両親のせいですっかり忘れてたぁぁ!
急ぎRINEを確認すると、あぁめっちゃ通知溜まってる……日向だけが返事している中、俺は未読無視してたのかよ。
すまん。本当にすまん。
俺は氷水の家の方向に向かって、流れるように土下座した。
「まだバレてないみたいだけど、ワタシがお風呂上がってから返信ないんだよねー。この感じだと充電切れたか寝落ちしたのかなー?」
時間は午後九時を過ぎたところ。
日向が家に来てから数時間叫び続けた気がする……。
「──ねぇねぇ七海くんさ」
「なんだよ……って、え?」
正座する俺の名前を呼びながら、迫る日向……ちょ、顔近っ!?
風呂上がりだからか、とてもいい匂いする……あれ、今日は同じシャンプー使っていたはずだよな!?
……もしかしてだけど、ナニかされるのは俺の方なの!?
「スマブラ持ってるのー!?」
「……は?」
「スマブラ! 大乱戦スマイルブラザーズ! 七海くんの部屋にテレビとシュワッチがあるもん! 一緒にやろーよ!」
「あ、うん」
小さい頃から暇つぶしするならと、ずっと遊んできたゲーム。
PC、スマホ、コンシューマーにアーケードゲームと人生で一番お金を使ったのはゲームである。
といっても重課金者というわけではなく、ただ他の趣味もなかったからゲームをしてただけ。ストーリークリアぐらいするが、裏ボス倒したりフルコンプは目指したりはしない程度だ。
「七海くん追加コンテンツのキャラいないじゃん! ワタシはショーカー使うのにー」
久しく触れていなかったため、それらは入れてはいない。
「よし! 課金しよ! 今すぐ課金しよ! プリペイドを今すぐ買ってくるんだー!」
「なんでだよ!」
だが、その後いい感じに言いくるめられてコンビニまでダッシュで買いに行くことになった。
──すまん……初月さん……。俺たち夜通しゲームすることになったわ。あの阿呆のせいで……!
**
購入後、俺と日向はベッドを背もたれに、白熱した戦いを繰り広げていた。
熱中し過ぎて初月のことはつい忘れてしまっていた。さっきの謝罪はどこ行った。
「お前意外と強いな!」
「まぁ昔からやってたからねー。そういう七海くんこそ弱いんじゃない? やっぱり友達いなかったから相手がいなかったのかな??」
「うるせぇ!」
そういや、今思い返せばテスト期間中なんだよな。典型的なダメ学生じゃん。
その後、何戦したのかは覚えていないけど、深夜二時をまわった頃だった。
「そろそろ寝るか。初月さんからも氷水からも連絡はないから捕まってないと信じて……隠れたまま寝落ちしたってとこかな……。まぁ学校始まるまでには何とかして助けに──」
トン、と軽いなにかが肩に寄りかかった。
日向だ。彼女は寝落ちしてしまい、俺の肩に寄りかかったわけだ。
──だからなんだよ、このラブコメ展開は……!?
いい匂いするは、ああ、言ったなそれは。
軽いんだけど、重心は全て俺に寄りかかっているから、少しでも動けば崩れ落ちてしまいそうだ。別に見捨てて動けばいいってのに、てか起こせばいいのに、それらの選択肢をなぜか俺は選ばなかった。
きっと、長年憧れていたシチュエーションを捨てるには惜しいと思ったからだ。
日向は日頃はやかましいが、黙っていれば超絶美少女といっても過言ではない。もうずっと寝ててくれ。
「んにゃんにゃ……」
「な、何寝言言って──くっ……!?」
日向に目線を向ければ、服の隙間から胸の谷間が見えてしまった。
あぁ、意外とこいつ胸あるんだなぁ……とか思ってる場合じゃなく!!
「んっ、んん……」
日向の寝息がまるで誘っているかのようだ……けどもこんなやつに俺が落ちてたまるか! 発情してやるものか!!
そうこう抗っているうちに、俺は──
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