Case.29 女の子が家に泊まる場合


「日向ちゃんごめんねぇ〜騒がしくて」


 おまえだよ一番うるさいのは。


「もっと早く連絡くれれば豪華なものをお出ししたのに。ったく、周一ったら大事なことはいっつも連絡してこーへんねんから。さ、食べて食べて!」


 本日の夜ご飯は米、味噌汁、それに野菜炒めと煮物。全体的に茶色だが、まぁこれで育ってきた身としては口にまでは出さないが全部美味しい。


「んー! おいしー!」


 日向も気に入ってくれたようで、俺より食べていた。


「ほんと可愛いわ〜日向ちゃん」

「いえいえおかあさまの方こそ美しいですよ」

「できる! この子できるわ! ほんと周一も見習いーや。こいつ、お姉ちゃんと違って出来損ないだから〜」


 息子のことをこいつって言った?? それは日本人らしい謙虚さではなく、ただのディスりだからなぁ!?


「へー、七海くんってお姉さんいたんだ」

「ん、まぁ……五つ離れてるし、そんなに仲良かったわけじゃないけど」

「逆に年齢近い方が仲悪いイメージがあるけどなー」

「別に仲悪いわけじゃねぇよ。仲良くはないってだけだ」


 お互い好きとか嫌いとかはない。ただ無関心なだけだ。

 現在、姉は大学の近くに下宿しているからほとんど顔を合わせない。どの学部に行っているかは大学四年生となった今でも知らない。


「そうだなぁ。お父さんとお母さんは娘の方ばかり可愛がってたからな。息子のお前にはあまり構ってられなかった」

「おいそれ子供前にして言うことか!? 泣くぞ!」

「だからこうして今は大いに祝福してるのだ! 凄いぞ周一! やったな周一!」

「やめろ!」



   **



 騒がしい食事後、定時で直帰した父が洗っておいたという風呂に日向が入ることに。

 風呂に入るとか、本当に泊まる気だな……。女子どころか家に誰か泊めること自体初めてなんだが。

 こういう時どうすればいいか分かんないな。てか、何かを忘れているような……怒涛のボケ倒しのせいで記憶が……


「周一」


 真剣な面持ちでダイニングテーブルに座る父が俺の名を呼ぶ。

 隣には母まで同じ表情でいる。


「なんだよ」

「改めて聞くが、日向くんとはどういう関係性なのかな?」

「どういうって、ただの部活仲間だよ」

「なんや周一。部活なんて入ってたか?」


 当然、失恋更生委員会のことについては何も言ってないわけで。

 適当にボランティア委員会と言っておいた。まぁ、大きく間違ってるわけではないし。


「そうか。ボランティア委員会の子なんだな。それで、周一は日向くんとこれなのか?」


 小指を突き出す父親。

「違ぇよ」と当然否定する。


「周一が、あんな可愛い子と巡り会うなんて、沙希ちゃん以外ないと思ってたけど、いつのまにか大人になって……!」

「だから違うって! 別にそういう関係じゃないし、そういうことも思ってねぇから!」

「覗きなさい」

「は?」

「今、お風呂回だよ。周一、日向くんの風呂を覗きなさい!!」

「何言ってんの!?」

「いいよな母さん」

「ええ、もちろん」

「両親二人して何言ってんだ! 覗きは普通に犯罪だろ!」

「何を言うか周一。し○かちゃんだって、のび○くんによくお風呂を覗かれているじゃないか! それと同じようなものだよ、なぁ母さん」

「そうね、四十年以上続く伝統芸よ」

「もう今では放送されてないの知ってる!? 現代ではアウトなんだよ、価値観をアップデートしろよ!」


 昭和に取り残された親め、子供に罪を背負わせるつもりか!

 ただ安心したことに警察が呼ばれることはなかった。

「お風呂ありがとうございましたー!」と、パジャマ姿になった日向がかなり早めに出てきた。

 ま、普通は人の家で長風呂しないよな。

 ちなみにパジャマは、姉が中学生ぐらいの時に使っていたものが残っていたのでそれを貸した。


「日向ちゃん、ありがとね。この子馬鹿だから迷惑かけてるでしょ。前も問題起こしたかなんかで停学してたのよ~」


 それは日向もなんだけどな。


「七海くんは旗持ちという役割を見事に果たしてますよ!」

「旗持ちかー。おぉ、よく分からんがやったな周一!」

「やったね周一!」

「うるせぇよ」


 旗持ちの役割なんてただ旗を持って宣伝するだけだよ。

 あとあれか? 旗で殴って止めたりすることも含まれるか。ただの暴行だけど。

 高校生はまだ子供だから許される、なんて甘い考えは通用すると思うなよという明谷駅の警備員の言葉が身に沁みるぜ……。ん? やっぱりなんか今もまだ刺さってくるな……。


 とりあえず両親にお前も風呂に入るよう言われたので、俺も続いてお風呂へ……別に「グヘヘ、おなごの残り湯だぁー! とかは思ってないし」

「なんだー、残念。意外とそこはまともなんだね七海くん」

「俺の心を勝手に読むな!」

「えー、口に出てたよ」


 思ってたことをついポロリと言う癖でもあるのか俺は……。

 風呂に浸かっていたところをドア開けて入ってきた日向。


「つーか、お前が覗くのかよ!?」


 入浴剤のお陰で大事なとこは見られてはいない。ポロリはないぞ!



「日向ちゃーん。周一のアルバムでも見るー? 風呂から上がる前に決着つけるわよ」

「はーい!」

「やめろ!!」

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