Case.28 親に挨拶する場合
「──いいか。大人しくしとけよ。初月さんが出てこれたらすぐに帰すからな」
「そだね。救出作戦も考えないと!」
「お前楽しんでないか?」
「いやー、いつ脱出するか分かんないよねー。もしかしたらこのまま泊まっちゃったりして〜」
「そうだな。結構長期戦に……ん? なんて?」
「え? 今日七海くんの家に泊まるよ」
「確定なの!? そんなことさせねぇけど!?」
男子の家に泊まることに躊躇とかないのか。
当たり前のように言いやがって。
「さ、夜通しゲームだー!」
「楽しむ気満々かよ!? 明日も学校あるだろ! 日向は大人しく家に帰っとけ!」
「ワタシは失恋更生委員会の委員長だよ! 大事な仲間を見捨てて帰れないよ!」
「さっき普通に置いてったじゃねぇか! 初月さんは俺が何とかするから。それに、そもそも俺の家にいきなり泊まるなんて親が許さないかもしれないから!」
「じゃあ今すぐにアポ取ろう、そうしよう」
「いや……それは……」
**
「はぁ? お泊まり〜? ……もちろん、オッケーに決まっとるやーん!」
絶対、許可するから嫌だったんだよ……。
「ほんで泊まる子はどこおるん? 外で待たせとんかいな」と母が言うので、渋々日向を招き入れた。
「日向日向です! 周一くんにはいつもお世話になったり、お世話してます! よろしくお願いします!」
待機していた日向は、玄関の扉を勢いよく開けながら挨拶した。
「……お父さん。お父さぁぁぁんん!!!! 大変だわぁ! 周一がこんな可愛い子を連れて帰ってきたわ!」
「なんだとぉ!? とうとう周一にもできたか!」
「だぁぁい!」
「七海くん七海くん、どうして自分のほっぺた殴ったの? やっぱドM?」
「だから、嫌だったんだよ! うちの両親はこういうの空気読まずに突っかかってくるから! あとドMじゃねぇよ!」
俺の両親、
父である月彦は空気を読まずパーソナルスペースにズカズカと入ってくる。頭頂部の寂しさは、俺も将来こうなるのかと不安になる。
母の年子もテンプレ関西おばちゃんらしく、ズケズケと言ってくる。毛量多めなので俺の将来まだ希望は持てる。
こいつら……マジで親子であっても侵入してはいけない壁をもろともせずに、進撃してくるからな。
俺が高校デビューした時も、「あんた茶色全然似合ってへんな!」って一蹴されたし、部屋からエロ本見つかった時は「そーかそか! お前も性癖それだったか! お父さんと同じだぞ!」と、大声で同じ本を出してきた時はマジでビビった。
小学生の頃、面白い両親だねって授業参観ある度に言われたんだぞ、やめろよ!
「
「ちょ、お、オカン! やめろよ!」
「あぁ? オカンってなんやねん? いっつもママって呼んでるくせに」
「やめろぉぉおお!!」
「えぇ七海くん。お母さんのことをママって呼んでるんだ〜」
ぐぬぬぬぬ……! またもや弱みを握られたぁ……!
余計なことを言わせないようにしなければ!
それだけじゃない。日向からも余計なこと言わないよう口止めしないと……!
「
「やめろ! なんもねぇよ!」
年頃の女子にそういうこと聞くな! セクハラ親父め!!
「まー、たしかに七海くんの言うとおり何もないですねー。けど、今晩もし泊まっちゃったりしたら! もしかしたら何かされるかもしれません!」
「まぁ!」「なんと!」
「お父さん! 赤飯よ! 赤飯を炊かへんと!」
「よぉし! 周一のためにパパが薬局であれを買いに行ってやろう! お父さんオススメのがあるんだ! 俺の息子の息子だ、Lでいいな?」
「一旦落ち着け!?」
まだ玄関先だぞ! これが一晩中ずっと続くの!?
「周一、安心しなさい。希望するならお父さんたち今日は家から出て行くから」
「ねぇねぇお父さん、私駅前のホテルにずっと泊まってみたかったのよ〜」
「それはいい! 今すぐ予約しよう!」
「いやいいからそんな気遣い! いてくれた方が助かるから!」
「おとうさん、おかあさん。周一くんはどうやらワタシを襲うので止めて欲しいそうです」
「そういうわけじゃねぇガッ!?」
いつの間にか母は俺の背中にまわっており、チョークスリーパーをかけてくる!
「安心して日向ちゃん! 私がこうして周一を封じておくわ! 今のうちに卒業アルバムを見るのよ!」
息子の弱み図鑑を軽々と見せようとするな!
「日向くん。その、もう一回お義父さんと呼んでもらっていいかな」
うぉい! お前は性癖を見せびらかすな!!
そんなこんなで、注意すべきは日向ではなく、両親であったと改めて思った。
つーか、あの日向ですら少し押されてたぞ。
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