Case.26 かくれんぼする場合


 ──みなさん、こんにちは。

 初月ユウキです。


 一週間前、失恋していたわたしは失恋更生委員会に心を救ってもらいました。

 わたしもみんなのように、失恋して辛い思いをしている人のお役に立ちたい。

 何よりみんなに恩返しがしたい。

 失恋更生委員会となったわたしの一つ目のお仕事は、氷水沙希さんのお家にお邪魔して、失恋の原因を探ることでした。でしたけど……


 わたしは今、氷水さんのベッドの下で這いつくばっています。

 ど、どうしてこうなっちゃったんだろ……。

 それは、ほんの数分前に遡ります……



   ◇ ◇ ◇



「ういちゃん! さっそく生徒カイチョーの失恋をさがそー!」


 トイレに行くと嘘をつき、氷水の寝室に侵入した日向と初月。

(これ、家には入れてもらってるけど、お部屋に入ることは許されていないから不法侵入だよね……)と初月は思っていたが、もう考えないようにした。

 日向も行く時に言っていた。


「好意を恋していると自覚する。心痛を失恋だと認識する。自分の意識次第で気持ちの名前は変わるんだよ。だからね、ういちゃん……バレなきゃ問題にはならないんだよ……!」


 けれど、そういう問題ではない。

 善意からの問いかけと罪悪感に耐えられるかが問題なのである。



「うーん、面白くない部屋だね。でも、こういう部屋こそ隠してるものはきっとエグいよ!」


 日向はエグいセリフを笑顔で言った。

 氷水の寝室は彼女のイメージらしくシンプルだった。余計なものは置かず、壁とベッドに挟まれて置かれた本棚には参考書のみ。


「生徒カイチョーからはキツイ失恋臭がしたからね。てか、ここも失恋残香がキツイ! きっとどこかに失恋相手が誰だか分かる証拠があるはず!」

「ど、どうしてですか……?」

「失恋臭はね、好きだった人のことを想う時に出るの。部屋に残ってるってことは、相手を夢見たか、相手との思い出の物を見て思い出したか。はたまた相手の写真でも見て思ったか! あと〜」

「結構あるんですね、発生条件って……」

「まぁ人それぞれですから〜。さてとっ! 大体こういう時の隠し場所といえば……ベッド下! クローゼット! 机の引き出し! じゃあ手分けして探そっか。ワタシはクローゼット探すから他お願い!」


 日向は臆せずにあちこちを開ける。

 ひとまず初月もベッド下を覗いてみるが、物は何もない。掃除が行き届いていて埃すらない。

 けれど、奥に毛玉みたいなのを見つけた。

 何かの証拠になり得るかもと、それを掴み取るためベッド下に手を伸ばすと、


「うぉー!?」

「ぴゃっ!? ぅっ……ぃたぃ……」


 いきなり日向が叫んだ。

 その声に初月は驚き、ベッドの角に後頭部をぶつける。


「みてぇー! ういちゃん、生徒カイチョーのブラジャー! デカイよ! 大玉メロン袋だー! パンツもセクシー!」

「うぅ、ひ、ひなたちゃん……! ダメだよぉ、勝手に人の下着を漁ったら……!」

「もうここに勝手に入った時点で何しても同じだよ」

「つ、罪を重ねちゃダメだよ……!」


 わちゃわちゃとしながら潜入調査に夢中になっていると、誰かが帰ってきた音がした。


「まずい! 生徒カイチョーが帰ってきたのかも!」

「えぇ!?」


 沙希母と七海の声も聞こえてきたことから、氷水沙希が帰ってきたことが確信に変わる。


「ど、どうしよ……!」

「逃げるよういちゃん!」


 と、日向はさっさとピョーンと窓から跳び降りた。

「ここ二階だよ!?」と言う間もなく日向は無事地面に着地する。

 初月も追いかけて逃げようとするも……できなかった。

 彼女は高所恐怖症だった。

 ロープもなしに、自分の身長より高いところから飛び降りるのは無理だ。

 でも、そうこうしている内に階段を上る足音と話し声。


「あわわっ、どど、どうしよう……!?」


 パニックの末、初月の辿り着いた結末が……


 ……ベッド下に隠れたことだった。

 細身の初月だからこそ窮屈な場所に潜り込めたのだ。


 一階で日向と合流した七海も家から出て行ってしまい、一人取り残されてしまった。

 持っていたスマホで連絡は取れるが、外の様子が分かりづらいため、初月は出るタイミングを完全に失ってしまった。

 さらには、七海が帰宅後、結局氷水はメロンを食べずにずっと自室に留まっているため、下手に動くと物音でバレてしまう。息を押し殺して、ただただ潜んでいた。

 もし見つかれば、確実に警察に通報される。

 そうなってしまったら、逮捕は免れない……!

 家族を悲しませることになり、失恋更生委員会もこれが原因で破滅……!!


(あれ、わたしがここにいるのは委員会の活動で……ダメダメ! 他のせいにしちゃダメだよぉ! とにかく隠れ続けないと……!)


 見つけるも隠れるもどちらにしろ怖すぎる、恐怖のかくれんぼが始まってしまった。

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