Case.24 幼馴染を呼び止める場合


「よ、よぉ……どうして氷水がここに……?」

「私の家だからよ。何言ってんの?」

「あ、あーそうだよな! ははっ……生徒会の仕事はどうしたんだよぉ〜?」

「何そのテンション?」

「い、いやいつも通りだけど?」

「停学して頭おかしくなったか」


 仕方ねぇだろ、今お前の部屋に日向と初月が忍び込んでいて、逃げるための時間を稼がないといけないんだから……!

 とか言えるわけもなく、ただヘラヘラと笑って過ごした。

 我ながら情けねぇ……。


「今日の分は終わらせたわよ、先週にはね。テスト期間だし、なるべく私も生徒会のみんなも仕事させないようにしているの」

「おー、そうかそうか。さすが生徒会長だな。えっとー、それでだな」

「七海こそどうしてここに?」


 怪訝そうな表情の氷水。当然の反応。

 話題を変えたいと思ったが、それよりも先に答えづらい質問をされてしまう。


「周一くんたちがね、美味しいメロンを届けに来てくれたのよ」

「たち?」


 さすが秀才の生徒会長。言葉一つすら逃さない。

「あ、あぁ……! 日向とかも一緒に来てさ! あー、あいつは今トイレな!」と沙希母についた嘘を唱えるが、「ふーん……」と氷水はトイレを見る。

 で、電気付いてないし、何のリアクションもしてこないし、間違いなく疑ってるよな。や、ヤバい……。


「沙希ちゃんも周一くんやお友達と一緒にメロン食べない?」


 ナイス沙希母!!

 きっとここの会話は二階にいる日向たちにも聞こえているはず。

 一度、氷水をリビングに連れてくれば日向たちがトイレから戻ってきたとして何事もなく合流できるはず!


「そうだな! メロン食べようぜ!!」

「いい。部屋で勉強してる」


 完全スルーで氷水は階段を上り始める。

 マズイ! このままじゃ部屋で鉢合わせてしまう!!


「ちょ、ちょっと待て!」

「なに?」


 氷水は階段の踊り場で止まり、振り返る。

 というよりも俺のこと見下してる。


「いやぁ、沙希母もこう言ってるんだし、メロン一緒に食べようぜ。ほ、ほら、こんな悲しい顔を母にさせたらダメだろ」


 ショボーンとしている沙希母。

 大好きな一人娘とメロンを食べる時間が共有できなくて寂しいよな。

 氷水は人の痛みが分かる子だ。


「たしかにね」

「だろ……!」

「じゃあ、後でいただくよ。どうしても今すぐに片付けておきたい課題あるし。20分くらいしたら下りてくるから」

「ちょっ……!」

「分かったわ沙希ちゃん。後で一緒に食べましょう」


 沙希母も折れた!

 氷水はそのまま階段を上っていく。

 こんな想像しうる事態に何の対策もしてなかった俺たちが悪い、てか当たり前に悪いけども、なんとかして食い止めないと! 

 


「ひ、氷水! 俺に勉強教えてくれよ!」

「はぁ?」


 俺も階段の踊り場まで駆け上ると、氷水は自室の扉に手をかけたところだった。


「その、お前頭いいだろ。いっつも俺平均点ぐらいでさ。数学に関しては赤点ギリギリなんだよな。だから勉強教えてくれると……」

「私、七海に教えてるほど暇じゃないの。もうテストはすぐよ。まぁ、私がいつも使ってる参考書くらいなら貸すけど」


 それも取りに行くとして、氷水はドアノブに手をかける。


 ヤバい! 考えろ俺……!

 俺に何ができる……氷水が部屋に入らないためには、氷水がこっちを振り向いてくれるためには!

 考えろ……考えぬけぇ!!



 ──うわぁ、考えついたー。

 だけど、絶対したくないぃ!!


 くっ……! だが仕方ない……! 

 恥を捨てろ……!

 俺に捨てる恥は、もうないだろぉ!!

 最終手段だ!!



「氷水沙希! 好きだ! お前のことが! だから俺と付き合ってくれぇ!」

「え、絶対無理」

「ぐふっ!!」


 なんかめちゃくちゃ傷付いた……なんでっ……!?

 そんな俺に構うことなく、無情にも彼女は扉を開ける。

 あぁ、終わっ──


「周一くん。沙希ちゃんのこと……」


 ん……? ──……ぁぁぁああああああああああああああ!?

 そうだ、沙希母の前で告白してフラレたのかぁぁ!

 結果はそりゃそうなんだけど、いつも以上に恥ずかしいぃ!


「こ、これはですねぇ!?」


 どう言い訳しようかと嘆いていると、沙希母は俺の正面にやってきては、肩を強めに掴む。


「なんだ周一くんも他と同じだったの。ダメよ。沙希ちゃんは私の可愛い可愛い一人娘なんだから。沙希ちゃんに男の毒牙をかけるわけにはいかないの。それは幼馴染であってもね」

「す、すみません、冗談です、ははっ」

「冗談で告白したの? 沙希ちゃんに?」

「……いえっ、本気でしたけど、ぼ、ぼくなんかが釣り合わないことを分かった上で告白した冗談といいますか、あはは……」


 怖ぇぇぇ! 今まで見たことないんだけどこの沙希母!?

 耳元で脅すのすげぇ怖い!! 糸目が開眼してるしっ!! そして、それでも笑顔なままの沙希母に鳥肌が止まらなすぎて鳥になりそぉ!?


 これ、殺される……?

 今からでも入れる養鶏場ってありますかぁ!?



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