Case.22 貸しを作らせようとする場合
「とりあえず、七海くんは生徒カイチョーとは家がお隣同士で、出入りできるんだね」
「そんな年パスじゃねぇんだからさ。まぁ、なんだ。お土産渡すとか、そういった用事とかではたまにな。最近はあんま行ってないけど──」
「潜入調査」
「は?」
「生徒カイチョーの部屋に潜入調査しよう! そこで弱みを見つけて、ワタシたちが活動できるように脅す! どう?」
「どう? じゃねぇよ! 何言ってんの?」
「いい? 七海くん。世の中に完璧な人なんていないんだよ。隠すのが上手なだけ。そして隠すのが上手い人ほどその中身はヤバいんだよ……!」
すっげー悪い顔で目をキラキラ輝かせてる。
「ういちゃんもそれでいいよね!」
トリノ風ドリアを食べて「……ぁっ……」と猫舌な初月は、日向から唐突に振られては反射的に二度頷く。
「じゃあ明日! 七海くん家に集合ねー!」
「勝手に決めやがった!? あと俺の家知らないだろ!? お会計します!!」
もう店長が出てきてしまったので、急いで熱々のドリアを平らげて、三人で店を後にした。
もうこの店出禁かな……。くそっ、安くて美味い最高の店なのに……!
**
翌朝、日向から『今日は重大ミッションだからね!』と、グループRINEで鼻水垂れたアホ面の犬のスタンプと共に送られていた。
初月も加入したことで、失恋更生委員会のRINEグループをあのファミレスにて作ったわけだけど、やたらと日向がうるさくてしつこい。文面でくらい静かにしろ。
そういやグループといえば、誰かの手によってクラスのグループから退会させられてたな……。
まぁ、そうなるかもと思ってたけど、案外露骨にする奴がいるよな。こう直接的過ぎるというかなんというか……
「──そこ、廊下を走らないで」「あなたたち制服着崩し過ぎです」「いちゃつかないで、不純異性交遊です」「あなたは歯をしっかり磨きなさい……」
一人登校し、スマホを触りながら廊下を歩いていると、朝からやたらと怒っているやつがいた。そのせいで学内の空気が重い。
こんなにも生徒に注意できるような人は教師、あるいは──
「七海周一、スマホをしまいなさい」
氷水沙希。生徒会長しかいない。
今日はやけに厳しいな。規律正しいものの、基本は誰にでも優しい氷水が、ところ構わず注意するなんて。
休み時間にスマホを触っていても問題ないし、そもそも持ち込みを可能にしたのは氷水本人だ。
「なんですかその目は。適当に理由付けて退学にでもしましょうか?」
「怖っ!? 鬼かお前!?」
俺は幼馴染だから特別に厳しいかと思ったが、どうやら対象は全生徒に先生まで。
この日の氷水は人が変わったようだった。八つ当たりかのように目に付く人々を注意していた。
迎えた昼休み。
氷水のその変貌ぶりに、学内の話題はそれで持ちきりだった。
もちろんあの女も興味津々だ。
「七海くん七海くん! すごいよすごいよ! ちょー匂うよ!!」
俺のことじゃないからな。
「生徒カイチョーから失恋の匂いがする! それもかなり強力な匂い! マシュマロの匂いがする!」
マシュマロの匂いって何?
なんで失恋センサーの例えは匂いがよく分からないものなんだよ。
「あいつが失恋? フるなら分かるけどフラれるなんてことはあるのか?」
「え〜、まだ七海くんはワタシのセンサー疑ってるの? ワタシが言うんだから絶対だよ! ね! ういちゃん!」
ちょうど食堂(本部は没収されているので)に来たばかりの初月に話を振るな。
何の話か分かんなくてとりあえず首を縦に振るしかなくなってるから。
「これは、放課後が楽しみですなー。ふっふっふっー!」
「まさか俺みたく、氷水が失恋した原因を知れば、弱みを握れると思ってないよな」
「え? 違うの?」
「それだと失恋更生委員会の目的とブレないか?」
「んー、確かにー。でもまだ若いね〜七海く〜ん、社会はとても理不尽なんだよぉ〜。まずワタシたちが存在しなきゃ目的も何も果たせないじゃないかー」
ニヤニヤとしながら俺に肩を回す。
不甲斐にもいい匂いがした……あ、こいつが食べているカツカレーの匂いのことだからな??
「それに生徒カイチョーが失恋してるなら! その悩みを知り! 励まし! 更生させるのがワタシたちの仕事! 弱みを握るんじゃなくて、失恋更生してワタシたちへの貸しを作らせよう! そうしよう!」
外道でしかないなこの女。
とにもかくにも俺たちの居場所を確保するために、氷水沙希宅潜入作戦が始まった。
「……って、具体的にどうすんだよ。カッコよく言ってるけど、ただの不法侵入だぞ」
「それはー……七海くんがいい感じに考えて! おさなじみでしょ!」
「幼馴染関係ねぇよ!!」
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