Case.21 解散させられた場合


 テスト初日の一週間前からテストが終わるその日まで、勉学に集中するために部活は中止となる。

 その期間が始まったのは一昨日の月曜から。俺たちが停学している間のことである。

 さっきの宣伝中もやたらと帰宅する生徒がいるなぁと思っていたが、そういうことだったのか。


 ただ活動内容と目的(大会が近いためとか)を書いて提出し、学校側が承諾すれば、一部だが活動はできる。

 が、そもそも俺たちの存在は未認可なので、提出云々とかではない。


 失恋更生委員会は解散──


 俺の居場所はこれにて消失したわけだ。

 今は駅から少し歩いたところにあるイタリアンファミリーレストラン〝サイゼリア〟に日向と初月と来ている。ん? ヤ? ア? どっちでもいいや。



『ごめんなさい……わたしが拡声器を使ってしまったから……』


 店内が騒がしくてもさすがに拡声器は使えないので、初月はスマホに文章を打ち込んで見せる。


「そんなことねーよ。元々うるさかったわけだし、主に日向が」

「そーそー、元々うざがられたからねー。主に七海くんが」

「うざいって何!?」


 テスト勉強と言えば、友達みんなとファミレスでするのが定番のイメージだが、この近くには友出居高校をはじめ複数の高校があって学生も多いので、店でのテスト勉強は禁止にしているところも多い。

 まぁ俺たちは別に勉強ではなく、作戦会議という名の駄弁りに来ているだけだから追い出されはしない。

 いや勉強しろよ俺たち。


「で、これからどうするんだ日向」


 勉強が正解です。

 けれども失恋更生委員会を引っ張っていくのは日向だ。

 テスト期間であろうともこいつの指示に従うし、従わざるを得ない。

 別に勉強が嫌いだからという理由ではない、決して。


「んー、そうだな〜」


 キッズメニューの表紙にある激ムズまちがいさがしを7つ目まで見つけた日向は言った。


「なんか生徒カイチョーの弱み握れたりしないかなー」

「最低な解答!?」

「だって活動しちゃダメって勝手に決められたんだよ! そんなのおかしいもん! 理不尽だー!」

「こっちは理不尽で委員会入れられたけど!?」


「あのぉ、他のお客様のご迷惑となるので……」と店員に注意されてしまい、「あ、すみません」と謝罪して一同一度黙る。

 騒がしい店内を凌駕するほど、うるさかったみたいだ。

 声量には気を付けてもう一度話し始める。


「……だからこそ生徒カイチョーの弱点を突きつけて活動を認めてもらうの……!」

「そんなことであいつが認めるか? 昔から決めたことは譲らない、頑固な奴だからなぁ……」

「七海くん。そういえばさっきから思ってたんだけどさ、もしかして生徒カイチョーと知り合いだったりするー?」

「えっっ……!? ま、まぁ、知り合いっつーか……幼馴染なんだよ俺たち……」

「お〜! おさなじみ!」

「幼馴染な」

「てことは、七海くんは小さい頃からフラレてきたんだねぇー」

「フラれてねぇし!? 別に好きにもなったことねぇよ!」


「……トリノ風ドリア二つと半熟卵付き一つです」と店員が料理を三つ置いて、俺だけを睨みつける。

「すみません」と勢いで立った俺は静かに座る。


「……いいか日向。幼馴染は意外とそういう関係にならないもんだよ。家族に近い感じだから」

「えー、こそいつも一緒にいるから好きになっちゃうと思うけどなー」

「そんなの人によりけりだろ。……といっても、まぁ、そもそもそんなに付き合いもないけどな」

「んー、どゆことー?」



 ──七海家と氷水家は家が隣同士なこともあって、俺が物心がつく前から家族ぐるみで付き合いがあった。


「──こら男子! ちゃんと掃除して!」


 氷水沙希は出逢った頃から今と変わらず、委員長キャラ。

 小学生の時も、男子複数人が相手でも屈せず、ルールを守り自分の正義を貫いてきた。

 男子に立ち向かう氷水に女子からは支持を得ていたが、男子からは──めちゃくちゃモテていた。

 だって可愛いから。

 よく幼馴染で羨ましいと言われたものだよ。

 まぁ、俺に対しては今と同じく氷水の態度はかなり冷たいから、別に誇らしいとも思ったこと一度もないけどな。


 彼女は今も昔もずっと完璧美少女。

 高嶺の花みたいな存在だ。


 毎週誰かしらが告白しに行くほど、当然のようにモテるが、当の本人には自身の恋愛には興味がないらしい。

 どんなハイスペックなイケメンだろうと、今までされた告白は全てフッてきた。可能性が残っている男はもう雨宮ぐらいだろうか。あいつ雲名カノジョいるけど。


 氷水沙希はフラれる人間ではなく、フる側の人間。

 そんな彼女につけられた二つ名は──〝不溶ふよう女帝じょてい

 誰も彼女の心を溶かすことはできない。




「──いい、ういちゃん? ああやっていきなり回想に入る人って痛いから気を付けないとダメだよ?」

『な、なるほど……!』

「お前が聞いてきたんだろうがっ!?」


「お客様〜?」とまた俺にだけ店員がガンを飛ばすので、頭を直角に下げて謝罪したのだった。

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