3章 《氷水沙希》

Case.20 逆風が吹く場合



「日向日向さん、七海周一。あなたたちの悪名は生徒会にまで轟いています。停学を受けた上で、こんな蛮行に及ぶとはまた停学にでもなりたいのですか?」


 氷水沙希──昨年、高校一年生ながらにして生徒会長に抜擢、以来数々の改革を行なってきた。

 やはり彼女の名を知らしめたものとして代表的なのは、教師の不祥事を暴いたことだろう。

 就任直後に起きたあの事件をキッカケに、支持率を急速に上げたといっても過言ではない。


 今後、史上初の二期連続生徒会長として選ばれることは間違いなし。

 生徒会が絶対的権力を持つことはフィクションの世界でしかないが、氷水の場合は圧倒的支持率と教師からの信頼によって、犯罪でも彼女ならば罷り通るとされている。

 類稀なる美貌と優秀な成績。既に名門大学の推薦を貰っているだとかの噂まである。


「ほぇ〜、あの人が生徒カイチョーなんだぁ〜」

「ひなたちゃん、七海くん。どうしましょう……」

「どうしようも何もここは従うしかないだろ。こいつには教師でも逆らえないんだから」

「ねーねー七海くん、大変だよ」

「あぁそうだな。目をつけられちゃマズいぞ」

「生徒カイチョーって──おっぱいデカいね……!」

「言うてる場合か!」


 だがしかし、日向の言う通りである。

 キッチリと着こなした制服が歪むほどの代物だ。

 中学生になってからの成長は著しくて……


「何コソコソと話しているのですか。許可なく話すことは認めませんよ。特に七海」

「何で俺だけ!?」

「七海くん、ドンマイ⭐︎」


 日向が俺の肩を叩いてグッと親指立てる。

 励ます体をとった煽りだろこれ。


「それよりも初月ユウキさん」

「ふぇっ、ふぇ!? わたしのことを知っているんですか……!?」

「当然です。全校生徒の顔と名前くらい覚えています」

「生徒カイチョーすごーい!!」

「当然です。生徒会長ですから。って、話の腰を折らないでください。なぜ被害者である初月さんが彼らと共にいるのですか? まさか、また何か弱みを!?」

『ち、違います……! むしろ逆です! わたしは二人に心を助けてもらったんです』

「……詳しく聞きましょうか」


 では、氷水は常に厳格かというと、そうではない。

 スマホの持ち込み禁止を緩和させたのも彼女だし、公序良俗に違反しない程度で制服アレンジを認めるようになったのも彼女の公約によるものだ。

 生徒の声を何よりも大事にしている氷水。

 今も初月が加入することとなった経緯を真剣に聞いている。


「──なるほど。そういうことでしたか。事情は把握しました」

『はい……! だからわたしはもう失恋更生委員会の一員です……!』


 初月は拡声器を用いて、オドオドと堂々に加入宣言をする。

「ういちゃぁん!」と日向は歓喜している。俺もしてる。


「感動的なところ申し訳ないですけど、校則違反なので三人には反省文を書いてもらいます」

「『「……えぇぇっ!?」』」

「またぁ!?」


 なかなか前回の反省文の提出が認められなかった日向は高く手を挙げ、抗議し始める。


「はい! 生徒カイチョー!」

「はい、日向さん」

「ワタシたちは失恋更生委員会として、真っ当な活動をしているだけであります!」

「で?」


 なんと冷酷な一文字なんだ……破壊力が強すぎる余り、辺り一帯が凍りついたのかと思ったぞ……!


「みんなの失恋を更生させる……! これは立派なボランティア活動! ただ部活をしているだけだよ!」


 けれども日向も負けていない。

 太陽の如く燦々と輝く笑顔と自信たっぷりの態度は氷水の心を溶かすかもしれない……!


「部活、そうですか……。まず、テスト期間中なので活動禁止ですが」

「ガーン!!」


 日向があっさり破れた!?


「第一、あなたたちの団体は部活として認められていません。未公認団体の学内活動は全面禁止です。また、学校の空き教室を私物化し、私物を不法投棄していることが生徒会の調査で分かりました」

「ち、違うもん! ちゃんと許可もらったもん!」

「書面に残っていなければ、認めるものも認められないのですよ。あと、騒音の元となる拡声器の無断使用も禁止です」

『はぅ……』

「私は甘いつもりですが、容赦はしませんよ」


 そして、氷水は俺たちが一番恐れていたことを言い放つ。


「改めて通告します。校則に則り、あなたたち失恋更生委員会は活動禁止。ただちに解散することを命じます」

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