Case.19 新しい風が吹く場合


「失恋した人! 恋が叶わない人! めっきりモテない人も! ワタシたちが全力で励ますよー! 失恋更生委員会をよろしくおねがいしまーす!」


 放課後になれば、校門入ってすぐの広場兼ロータリーで、俺たちはいつも通りの宣伝活動をしていた。

 停学になった騒動は効果覿面。知名度は抜群に上がった。

 帰宅する生徒は皆、俺たちの前を通り過ぎては振り向くようになった……が、それは無視から軽蔑になっただけ。

 でも、どこかの誰かが言っていた。

 好きの反対は無関心だと。


「いい? 七海くん。こんなのでめげちゃダメだよ。好きの反対は無関心だから。だから全然オッケー!」


 言ったのこいつだったわ。


 日向はどんな状況に置かれても前向きだ。

 けれども見事、厄介者となった俺たちには逆風しか吹いていない。


「うーん、なかなか失恋の匂いしないなー」


 そう簡単に失恋が起きるわけでもないし、あったとしてもこんな俺たちに相談しようとする変わり者はいない。


 ──そんな中、新しい風が吹き出す。


『……失恋更生したい方いらっしゃいませんか! わたしたち失恋更生委員会が全力で更生させますっ……!』


「あ! ういちゃん!」


 学校に入って正面に建つ南校舎の昇降口から、初月が拡声器を使って宣伝してくれた。

 それからちょこちょこと走ってこちらへとやって来た。


「もしかしてういちゃん…………拡声器返しに来てくれたの? 別にいいのに〜拡声器もスペアいっぱいあるからさ〜」

「いや、そうじゃねぇだろこの流れは! ……でも、いいのか初月さん。俺たち嫌われ者になったし、一緒にいたら初月さんも──」

『心のままに、好きなことをしたいって思ったんです。わたしがここにいたら、せっかくお二人が守ってくれたわたしの関係性は壊れてしまうかもしれません……。でも、それでも、こんなわたしでも誰かを励ますことができるなら応援したい……! そして、失恋更生委員会のみなさんのお役に立ちたい、日向さんと七海くんを応援したいです……!』

「う、ういちゃーん!!」

「うっ……」


 日向がフライングハグすると、初月の鈍い生声が聞こえた。

 日向のメチャクチャな動きにいきなり洗礼を受けたようだが、それでも初月は嬉しそうだ。


『日向さん。七海くん。これからよろしくお願いします……!』

「あぁ、よろしくな」

「よろしくー!! って、まだ拡声器は手放さないんだねー」

『ま、まだ、大きな声は出せないので……』

「そうか。まぁ、ゆっくりやっていこうぜ」


 初月はいつもみたく、恥ずかしそうに二度頷いた。


「じゃあ〜、ワタシのことはひなたちゃんって呼んでよ! いつか生で聴けるの楽しみだなぁ〜」

『う、うん。頑張るね、ひなたちゃん』

「そして、これからも拡声器持ちとしてよろしく!」


 ひなたちゃんっていきなり強引な……。

 って、もう流されて呼んじゃってるし。

 けど、初月にはそんな日向と案外相性はいいのかもな。



「よーし! これで失恋更生委員会も三人目! もっともっとメンバー増やして、もっともーっとたくさん失恋更生させるぞー! えいえい──」


「──そんなことはさせません。日向日向さん」


「おー!」を、遮る新たな登場人物。


「ん? だれー?」

「げぇっ!?」


 日向は知らないようだが、俺はこいつのことをよく知っている。というか、知らない奴の方が珍しい。

 大和撫子の代名詞といっても過言ではないほどに、美しい彼女は黒髪ロングがよく似合う。

 お世辞じゃない。この学校にいるやつなら誰もが尊敬し、敬い、憧れる存在。


「ひ、氷水ひすい沙希さき……!」


 この友出居高校に君臨する生徒会長。

 ──そして、俺の幼馴染だ。

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