Case.18 正直にいる場合
「なんでだ!?」
「そりゃー、こうなるよねぇ〜」
久々の学校、の昼休み。本部にて。
一週間休めてラッキー! なわけはなく、反省文の提出やら必要以上の課題やらで忙しかった。
そしてめちゃくちゃ両親にも怒られた。
血縁に土下座するなんて今までもこれからもないと思っていたのに……。
にしても日向は反省を知らないのかケロッとしている。
主犯は俺だとしても真の黒幕はこいつだろ。
停学中も毎日毎日しつこく
文面も声も〝!〟が多用されまくってたから、さぞ楽しい一週間を過ごしたんだろうな。
当然クラスでは今まで以上に浮いたわけで。もはや空まで飛べそう。
あそこにいた部員たちによって、クラスや学年だけでなく全校生徒にまで俺の悪行は広められていた。
暴力を振るったとか、初月の弱みを握って脅していたとか、金を巻き上げているだとか……いや尾ひれ付きすぎぃ!
虚実混じった噂がここまで広がると、さすがに戻る場所は完全になくなったか。
けれど、一人の女の子を守ることはできたのかなと。そう自己満足した。
とかなんとか思っていると、一人の訪問者が。
言わずもがな、初月だった。
「ういちゃん! ういちゃんは停学にならなくてよかったねー」
日向の言うように、初月も部活動を妨げたことになるはずだが、雨宮をはじめとした生徒たちの弁明により不問とされた。
それに加え、初月も利用されただけの被害者として彼女を責める者は誰もおらず、むしろ最後の一喝で俺たちを黙らせた立役者としてクラスの関係性は良くなったという。
全ては丸く収まったはずだ。
ところが初月は俺たちを見るやいなや、涙をボロボロと流し始めてしまった。
「う、初月さん!?」
「ういちゃん!? まさかまたフラれたぁ!? そんな時はワタシたちにお任せを! 失恋更生三三七拍子ー!」
「……ごめんなさい……!!」
初月は止まらない涙を手で拭いながら謝った。
「わたしのせいで、お二人が停学になっちゃって……ずっと、謝まりたかったですけど……」
「あー、そういやワタシたち連絡先交換してなかったね〜」
「出会って三日目には停学になったからな。初月さんもちゃんと本部に来てくれたから連絡取る必要なかったし」
俺たちの現状は分からずじまいだったから、今日まで一人自分を責め続けていただろう。
……そこまでは考えが及ばなかった。
「ううん、ういちゃんのせいじゃないよ。勝手に盛り上がって余計なことを言った七海くんのせいだから」
「おい」
全責任俺に押し付ける気か!
まぁ、完全に否定しがたいんだけどさ……。
「わたしが罰を受けるべきだったんです……。傷付くべきでした……! それなのにわたしじゃなくて二人が傷付いて、そんなわたしは、可哀想だね、でも勇気を出して言ったよね、ってみんなから励まされて。……それなのに、二人が本当は優しい人だって言っても信じてもらえなくて。わたしには気持ちを伝える力が何もないんだって……!」
「ういちゃん……」
「わたしは、励ましてもらえるような権利なんてないのに……!」
「──そんなこと言うなよ」
「……え?」
「権利がないだとか、罰を受けるべきはわたしだとか、そんなこと言うなよ。傷付いていい人間なんているわけないだろ! ……だから傷付こうとか、そんなこと思わなくていいんだよ」
「七海くん……でも、それなら尚更、二人が傷付くことは……」
「傷は分かち合うものだよ、ういちゃん。悲しい時、苦しい時、そして失恋した時──ワタシたちはそんな人たちの話を聞いて、寄り添って、そして励ますんだ。ういちゃんが傷付くなら、ワタシたちも一緒に傷付く。ナイフでお腹を刺されようとも、七海くんが前を、ワタシが後ろから一緒に受けてあげる」
「日向……致命傷俺しか負ってないんだけど!?」
「だから大丈夫!」
「何が!? 傷付いたの俺だけだよ!?」
日向はえっへんとふんぞり返った。
「そんな、わたしなんかのために……」
「……俺たちはあの時にやりたいことを、好きなことをやっただけだ。だから別に、好きになってはいけない人を好きになったって、いいじゃないか。心のままに好きでいようぜ」
「……心のままに、好きで……」
「そうそう!」と、日向はグッと指を立てた。
たとえ口に出して相手に伝わらなくても。
自分の想いに正直でいられたらいい。
それができるのは初月本人だけだ。
俺たちは応援することしかできない。
初月は最後に、深々と頭を下げた。
次に顔を上げた時、目は腫れていたが、表情は晴れ渡っていた。
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