Case.14 秘密兵器を取り出した場合
翌日。
告白は放課後に行われる。
だが、どうしてか朝から俺が緊張していた。
結果も分かっているし、そもそも俺が告白するわけでもないというのに。
「なんで七海くんが緊張してるの?」
「わ、分かんねぇよ! けど、フラれるんだ。一日だけど今日のために頑張ったのに、フラれるのは決まってるんだ。あまりいい気はしないだろ」
「ふーん。七海くんは優しいね」
優しいってもんじゃない。
ただ勝手に自分と重ねてただけだ。
「あ、ういちゃん! やっほー!」
本部にやってきた初月と合流。
入口で立ち尽くす彼女は、これから訪れる失恋に怯え、小さな身体は小刻みに震え、呼吸も浅かった。
「だ、大丈夫か?」
思わず心配の声をかけたが、初月は「だいじょうぶ、です……」と頷いた。
けど、それでも見ていられない。
「日向、今日はさすがにやめた方が……」
「んー? なんで?」
「なんでって、見れば分かるだろ……!」
「んー。ういちゃんはどうしたい? 今日行けそう?」
「無理だろ。あんなすぐにでも倒れそうな──」
「七海くんには聞いてないよ」
……っ、確かにそうだけど、それでも本人の意思関係なく、危険だと思ったら周りが止めないといけないだろ。
「……ぃ、いけます……」
だが、初月がそう答えたことで体育館へと向かわざるを得なくなった。
「よーし! ういちゃん応援してるからね! レッツゴー!」
日向は初月と手を繋いで、本部を出て行った。
不安しかないが、俺も仕方なくついて行くしかない。
**
初月の意中の相手、
一年からスタメン入り。中学生の時には弱小校だったバスケ部を県大会準優勝まで導くという実績と実力とカリスマの持ち主。
スポーツ推薦があったようだが、両親に負担をかけさせたくないとして家から通える公立高校にしたというが、まぁ、ここも公立の割にはスポーツ強い方ではあるからな。
今の世代だと上手くいけば全国を狙ってもおかしくないらしい。友出居高校創立初の奇跡の世代なわけだ。
この高校、歴史浅いけど。
「で、日向。雨宮が一人になるタイミングを狙うわけだけど、こいつにそんな時はくるのか? クラスでも部活でも頼りにされる人気者だからなぁ。恋人もいるし、なかなか──」
「え? 告白するのは今だよ?」
「あーそうか。今告白するのか……いまぁ!?」
鳩が豆バズーカを喰らった気持ちになった。
「そんな作戦は聞いていないぞ!? いや、そもそも作戦の具体内容って何? つーか、まず作戦ってあるのか!?」
「も〜うるさいなぁ〜。今日は七海くんの出番はないんだし黙ってて!」
「むぐっ!?」
日向が人差し指を立てて、俺の口元に強く当てる。
ちょっ、指にキ──
「はいこれ。ういちゃんに」
「……ぅ、ぅん…………」
はいはい、指に唇が当たっただけで今時の女子高生は気にしないよな。お、俺もそんなだしぃ?
日向は初月に二つ持っている紙袋の内一つを渡す。
中身は分からないが、どちらもかなりの重さがありそうだ。
「さ、ういちゃん。言われたとおりに最高の舞台を用意したよ! あそこから想いの丈をぶつけるんだ!」
日向が指差したのは、どこの体育館にもある前方のステージ。
用意したって言っているが、ただ部活中にステージから告白してもらうだけだ。
「って待て待て! さすがに難易度高すぎるだろ!」
「もう、ういちゃん行ったけど」
「えぇ!?」
初月は体育館に入ると、目立たないよう壁沿いを通ってからステージの中央に立つ。
が、もう当然ながら目立っている。
普段見慣れない女子、しかも今日の体育館使用は男子バスケ部と男子バレー部と、制服姿の女子高生は完全に場違いであった。
一人気付くと、それにつられて一人、また一人と注目していき、いつしか体育館中の目を初月が集めていた。雨宮もその一人だ。
「こ、こんな状況で告白できるわけないだろ。声も届かないんじゃ……」
「大丈夫だよ。言葉にさえ出せば相手に届くように、ういちゃんには秘密兵器を渡したからね」
「昨日も言ってたよな、それ。な、何なんだ秘密兵器ってのは……」
「ふっふっふっ……あれだよ!」
初月が紙袋から取り出したのは──白い拡声器。
街頭宣伝にも使用した、あの拡声器……!
「これを使えば声がちゃんと届くよ!」
「おぉ……!! ……え、そんだけ?」
「そんだけ」
「そんだけ!? 秘密兵器って爆弾とかバズーカじゃねぇの!?」
「何の話? うわぁ七海くん厨二病だねぇ……あとうるさい」
うるさい奴にうるさいと注意されてしまった。不服だぁ……!
とにもかくにも、今からこの体育館で起こることを俺たちは見届けるしかない。
これより、初月ユウキの恋の終わりが始まる。
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