Case.12 想いが声に出ない場合
「じゃあ、早速だけど告白練習しよっか! これを相手だと思って告白してみてー」
「これって、俺のことか!?」
告白練習。
俺を想い人に見立てて、シミュレーションするみたいだ。
ったく、何の説明なしにいきなり始めるんじゃねぇよ。
初月は日向の指示通り、俺の目の前に立つ。
深呼吸をしたのち、勇気を振り絞って目を合わせ…………って、めちゃくちゃ可愛いな!
クリッとした目、ぷにっとした小さい唇。
どうやらインドア系らしく、ウルトラヴァイオレットに晒されない肌も、白くてぷにぷにしてそう。
まるで下界に舞い降りた天使──拳を握って頑張ろうとする姿に、ついつい惚れてしまいそう。
これは守ってあげたくなる……庇護欲を掻き立てる可愛さだ!
そう思うと相手が羨ましいな。こんな可愛い子に好かれていて、告白までされるなんて。
やはりイケメンは勝ち組だな。
って、そうだ。シミュレーションで代理とはいえ、俺も今からこの子に告白されるんだ。
あ、あれ……めっちゃ緊張する……!?
告白(失敗例)したことはあるけども、告白(例)されるのは初めてだ……!
「あば、あばば……!?」
「ちょっとー、七海くんが緊張してどうすんのー。腐りかけのサクランボみたいな臭いするよ。ちゃんと代理を果たして!」
「う、うるせぇな……って、誰が腐敗しかけのチェリーだ! せめて新鮮であれ!」
日向に煽られてしまったが、大声出したことで緊張が解けた。
だから日向が言ったように、何で俺が緊張してんだよ。頑張るのは初月だ。
俺も初月同様に深呼吸をして、しっかりと彼女の目を見る。
「よし、初月さん。ドンと来い」
初月はコクリと頷くと……声を振り絞った!
「・・・・……!」
「…………んん? え、初月さんもう一回……」
「・・・・……!!」
「………………」
「・・・・!!」
「何言ってるか分かんねぇ!」
「んー? ちょっと待って! 拡大したら分かるかも!」
拡大? 何言ってるんだこいつは。いつものことだけど。
日向は何かしら特別な方法で初月のセリフを拡大する。
「『すきです……!』 一応告白はしてたみたいだね」
「・・・・って縮小され過ぎた文字かよ!」
初月は恥ずかしそうに顔を隠す。
「これじゃフラれるどころか結局聞こえなかったっていうオチになるぞ」
「そんなラブコメは困るなぁ〜、ちゃんとフラれて貰わないと〜」
別に俺らが困ることは何一つとしてないが、まぁ、初月がやり切れないよな。
「よし! じゃあまずは声を出すところから特訓だね! 目指せ100db!」
パチンコ店よりうるさくなってどうすんだ。
ただ、このままではマズいと、俺たちは初月に声を出させるための特訓を始めた。
**
「まずは基本発声からー! あ! え! い! うっ! えぇぃ! おー……あ! お〜♪」
「適当かっ!」
俺たちがさっき出会ったゴミ集積所の近くにて、演劇部等でよく使われる発声練習をしてみた。
ふざけてはいるが、日向の発声バッチリ。
一方、初月はというと、
「ぁ……ぇ、ぃ、ぅっ、ぇぇ、ぉ……ぁ、ぉ〜……」
「よし! まずは文字が見えるようにはなったね!」
静寂の中で集中すれば、聞き取れる声量にはなった。
**
「みなさん! 失恋していませんか! ワタシたち失恋更生委員会が、みなさんの失恋を更生させます! どうぞ、よろしくお願いしますー! ──ほら、ういちゃんもなんか言って!」
『あ……ぅ、よ、よろしくおねがいしますぅ……』
「みんなよろしくー!」
高校から徒歩15分。
最寄り駅である
初月は拡声器を使っているので、強制的に声が届いている。慣れていけば少しずつ拡声器のボリュームを下げていくようだ。
「にしても何で学校じゃなくてこんなとこで」
「失恋は別に学校だけに限らないからね。幼稚園児からおじいちゃんおばあちゃんまで、失恋は等しく訪れるよ。恋なんて人生何周しても上手くいかないもんだから」
だそうだ。
確かに名前や活動内容のインパクトは十分にあるし、リーダーはやかましいし、良くも悪くも注目されるのは間違いない。
それに人前に立つことで、恥ずかしがり屋な初月の特訓にもなる。
……しかし、高校最寄り駅には当然、友出居高校の生徒が多く通りかかる。
「なにあれ」「恥ずかし〜」と嘲笑が聞こえてくる度に、初月は俯いてしまう。
「初月さん、別に無理して付き合わなくていいんだぞ」
『い、いえ、お二人がわたしのために手伝ってくれてますから……! が、がんばります……』
震えながら拡声器で話しているためにノイズが混じっているが、まぁ、何とも可愛らしいではないか。
くっ……守ってあげたい……。
よし、ここは俺が初月よりも大きな声で目立って、注目を俺に集めよう。
俺はとっくに嘲笑の的だからな。別にこれくらい苦でもない。
「失恋更生委員会をぉ! よろしくお願いしまぁす!!」
「また君たちか! 騒がしいことするなぁ!」
「ヤバ、逃げるよういちゃん……!」
俺が張り上げた声に反応したのは、以前ゴールデンウィークで俺たちを注意した、年齢が40代くらいの強面の警備員。
また警察を呼ばれたらたまったもんじゃない……! 俺は日向と初月と共に逃げようと……って、あいつらもういねぇ!?
「こっち、来てもらおうか」
「す、すいません……」
囮にされた俺は警備員室へと連れて行かれ、ちびりそうなくらいこっぴどく怒られてしまった。
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