Case.10 初依頼が来た場合


「あ、来た来た……!」


 日向に付いていき到着したのはゴミ集積所だった。

 周囲を見渡せる草むらに身を隠し、ってまた草むらかよ。

 制服が土や葉で汚れるし、虫もいて不愉快なんだが。

 あとそもそも旗がデカすぎて草陰から飛び出している。てか、俺たちも隠れ切れてはいない。

 まぁ、こんな奇妙な二人組に話しかけようとする奴はいないので、ゆっくりと観察はできるけど。


「あれだよ。あの二人のどちらかだよ七海くん」


 日向が指差したのは、ゴミ捨てに来た男女二人。

 男はTHEイケメン。

 一見チャラそうだが、こう見えてしっかりものというか。クラスメイトからはもちろん、先生からの信頼も厚そうなのが、容姿から分かる。

 もちろん、大きなゴミ袋を持っている方だ。


「………………」

「(いいなぁ〜、俺もあれぐらいカッコよかったらフラれなかったのに)」

「勝手に心を読むなよ!? じゃなくてそんなこと思ってねーし!?」

「七海くん。人には人の乳酸菌があるように、七海くんはあのイケメンにはなれないよ。ドンマイ、いいことあるって♪」

「意味分からんが!?」



 一方、三回りくらい小さいゴミ袋を持っている女子は、髪型がルーズサイドテールの可愛らしい感じの子だった。

 身長は平均より低そうだが、隣で煽ってくる日向こいつよりかは高そうだ。

 つって、こうして会話してもバレないくらい遠方から観察してたので、分かるのはここまで。

 二人は和気藹々と──ではなく、特に言葉を交わしている感じはなく、集積所にゴミ袋を入れる、ただ普通の作業が行われた。



「…………ぁ、ありがとっ……!!」

「どういたしまして。それじゃあ僕は部活だからここで。じゃあ、また明日」

「……ぅん…………!」


 男は来た道を戻る方向の先にある体育館へと走っていき、女子は歩いて自分の教室へと戻っていく。



「……くんくん。失恋してるのはあっちの女の子の方だねー」


 正直何話してるかは一言も聞き取れなかったが、日向は二人の関係性を見抜いたらしい。いや、嗅ぎ取ったのか??


「失恋の匂いねぇ……。どう見てもフラれ現場には見えなかったぞ。ただのゴミ捨てにしか……」

「うーん。たしかにそだねー。じゃあ本人に聞いてみよっか! おーい!」

「そんな非科学的な能力よりもうちょい関係性を調べてから、っておい!?」


「ねーねー! そこのキミ!」


 突然背後から話しかけられた女子生徒は、ビクンッ! と背筋を伸ばしてこちらに振り返った。

 他の人に話しかけたのかと思い、キョロキョロ見回すが誰もおらず、日向が真っ直ぐにこっちを見ているから、自分だと確信する。


「ぇ……ぁ……」

「最近失恋した?」

「ぇ……」

「ワタシたちは失恋更生委員会! キミの失恋を更生させブゥ!!」

「いきなり何言ってんだお前は!」


 持っていた旗を日向の頭に振り下ろした。

 こうでもしないとこいつは止まらない。


「いったー! なにすんのさ七海くん!」

「いいから行くぞ! うるさくてごめんな、じゃあ俺たち行くから」

「…………っ! ま、まって……!!」


 俺が日向を無理やり連れて退散しようとしたその時、彼女が何か言った。


「…………失恋……更生? できるんですか……?」

「あ、あぁ。そう、らしい。俺は何とも言えないけど」

「できるよ!! やっぱり失恋更生願望あるんだね! そういう時はワタシたちに任せてよ! 失恋更生委員会がキミを更生させるよ!」

「…………っ! お、おねがいします……! この〝好き〟を、忘れたい……わ、わたしを更生させてくださいっ……!」


 彼女は弱々しくて小さい声で依頼してから、頭を下げた。かよわそうな身体が小動物のようにプルプルと震えている。

 不審者みたいな俺たちにお願いするほど、彼女はきっと思い詰めているのだろう。

 

「おぉ、初依頼……! よーし! 七海くん! 半分おさげのキミ! まずは本部に直帰だぁー!」


 初めての依頼に歓喜した日向は、依頼人を置いて走り去ってしまった。

 ほんとに大丈夫かよ、あいつ……。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る