Case.9 失恋の匂いがする場合
「なーなーみくん! 失恋更生しよっ♪」
日向が迎えに来た。
放課後はシフト制で、班に分かれて各地を掃除することになっている。俺の班は今週自分たちの教室だ。
そこに今週は割り当てられていないのだろう日向が、ズカズカと教室に入ってきた。あの長い旗を背負って。
つーか、よく他クラスに入れるよな。普通は躊躇しないか?
「七海くーん。聞こえてる? ねぇねぇ返事してよ。おーい、小指で耳掻き失敗したかなー?」
旗でバシバシ叩いてくるから、ほうきでガードする。
「聞こえてるよ、わざわざ返事しないだけだ。あと、耳掻きはちゃんと綿棒だわっ!!」
「あ、ねぇねぇそこのキミ! なんか失恋よくしてそうだね! 良かったら失恋更生委員会に入って、同類を応援しない!?」
「おいそこ!! 勧誘あげく失礼をぶち撒けるな!!」
俺の返事をスルーして、同じ班の男子を勧誘する日向。
そいつ引いてるし、ちょっと涙目で可哀想だろ……失恋してるのは当たってんの? って、やめろこれ以上は!
「んー、ワタシの失恋センサーは正しいのになぁ」
「そうだとしても、本人に伝えるなよ。ほら、先に諦めたら当たって砕けないだろ。そしたらお前の出番がないじゃねぇか」
「たしかに! 七海くんあったまいい〜! ごめんね、そこのキミ! 勇気を持って好きな人に告白したらいいよ! ダメだと思うけど。その時はワタシたちを頼ってね! ワタシと〝七海くん〟がフラれても更生できるよう応援するから!」
「おぉい! 俺も馬鹿にしてるみたいだろ、強調するな!」
きっと、のちに陰で言われるんだろうな。フラれたくせに生意気な、と。
ただ、それくらいもう気にしない。こいつのせいで、もっと恥ずかしい目に遭わされてるからな……。
「ほらっ、掃除終わったし。行くんだろ本部に……!」
「おぉ〜そうだったそうだったー。それではみなさん! 失恋更生委員会をよろしくおねがいしまぁーすぅー〜……──」
早くここから逃げるため、俺は日向を無理やり連れて本部へと向かった。
**
「七海くん七海くん。どうしてそんなに怒ってるの?」
「当たり前だろ、俺の評判が下がることしやがって!」
「ははっ、狙い通り」
「おい!?」
「いや〜、七海くん。それだけワタシのせいで自分の立場を失ってなお、こうして失恋更生委員会の本部に来るなんて、さてはワタシのこと好きだな?」
「ち、違うけど!?」
「ごめんねー。ワタシ彼氏募集してないんだー。だから七海くん可哀想だけどフるねー。ごめんなさい」
ナチュラルにフラれたんですけど。
誰か俺を拾ってください。
「あ、七海くんフラれたし失恋更生しようか?」
「いらねぇよ」
「それにしてもさ、ずーっと鼻ムズムズするんだよねー」
「なんだよ、花粉症か?」
「ワタシ何もアレルギー持ってないよ。そうじゃなくて失恋センサーだよ。ここ最近、ずっと失恋の匂いがしてる。それもうっすらと香ってて……だけど、誰かまでは辿れないし、時々しか匂わないんだよねー」
「はぁ……センサーはよく知らないけどさ。ずっとってことは、フラれ続けてるってことか? そんなドMみたいな奴いないだろ」
「そうなんだよねー、七海くん以外」
「それぞれ別人が遠いとこでフラれてるんじゃ、おい誰がドMだ!」
「ううん。同じ匂いなんだよ。失恋の匂いは人それぞれの特有の匂いがあるんだー。それに恋する相手とか、恋の仕方によって違う。今回は塩分過多な塩キャラメルみたいな匂い」
「塩キャラメル……の匂いが具体的に分かんねぇけど。じゃあなんだ、俺の匂いもあったのか?」
「うん。ちょっと、表現しがたい臭いだったけど」
「表現しがたいって何? てか、ニオイの漢字がさっきまでと違くないか……!?」
「あ、ちょっと息止めて! くんくん、失恋の匂いがする……!」
ナチュラルに息臭いって侮辱した? したよな??
「同じ塩キャラメルの匂いがする。しかも今は凄く強い!! 近くにいるっぽい! ん〜これは大失恋な気がするよ! さっさと行くよ七海くん!」
「色々と言いたいことはあるけど! とりあえず分かったよ……」
言うことを聞かないと、きっともっと恐ろしい目に遭わされそう。
素直に指示に従うことにした俺は旗を持ち、本部(勝手に占領した教室)を出発した。
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