Case.8 失恋を待ち望んでいる場合


 失恋してから二週間が経った。

 けど、俺の立たされている状況は何も変わらない。

 人の噂も七十五日と言うけども、本当に二ヶ月半経てば忘れてくれるのかね。

 もはや失恋云々の前に、そもそも俺の性格に問題があったんじゃないかと卑屈になってしまう。

 目立ちも地味にもならないよう心がけていたというのに!


 よくある失恋がこんなにもトレンドに乗り続けるとかあるわけないし、誰かが面白おかしく誇張して話してるとか……

 ……え、日向が絶えず言ってないよな。フラれたこと流布し続けてないよな!?

 あいつなら委員おれを逃すまいとしてやりそうだ。

 ここのところずっと一緒に過ごしてきて、こいつのことが手に取るように分かってきた。


「うーん、中々フラれないねー。早く誰かフラれないかなー」


 (自称)本部にて。手に取ったチョコを口に放りながら、人の不幸を今か今かと待ち望んでいる女だ。


「はっ! もしかして浮気発覚からカップルは別れて、失恋発生するのでは! 七海くん! ちょっと彼氏持ちを寝取ってみて」

「するわけないだろ!?」


 こんな感じで、俺は日向の思いつきと行動力に振り回されていた。

 たとえば先週、しれっとゴールデンウィークがあったのだが、毎日のように電話で呼び出されては、街中を「失恋更生だー!」と言って駆け巡った。

 オンラインゲームでもして引きこもろうと思ったのに……迷惑行為として警察に注意されるとは思わなかったぞ!?


「えぇっ!? どうして!?」

「どうしてもこうしても、どうして俺が人から嫌われるようなことを率先してやるんだよ!」

「もう既に評価は地に落ちてるんだから、大して変わらないって。何がイヤなのさー」

「その子の彼氏にボコられるだろ!! 喧嘩なんて強くないし、非は俺にしかないから反撃できないし……って誰が評判ドン底だ! ……つーか、そもそもフラれたばかりの俺が彼氏持ちと付き合えるわけねぇだろ」

「たしかに。七海くんじゃ……うん、遠回しに言っても無理か」

「しっかりと全否定したよなお前」


 と、このように日向はとても失礼な奴である。

 たしかに俺は人気俳優のようにイケメンじゃないかもしれない。だが、別にブサイクでもないはずだ。

「客観的に見ても普通以上、上の下はあるはず。毎日の髪のセットだってちゃんとしてるし。茶髪に染めたんだぞ。モテないラノベ主人公は絶対に黒髪だから、わざわざ染めたってのに!」

「そういう見え透いた考えだからモテないんじゃないのー?」

「俺の考えを見通すな!」

「全部口に出てたよ」

「マジかよ」


 そもそも五月も半ばを迎えようとしている。

 もうすぐ中間テストだってのに、今の時期に恋人を作ろうとする奴はこの世にはいない。


「まぁ、でも中間テストを過ぎたら失恋は増えるんじゃないか? 文化祭があるから」

「そう! 文化祭! 学校行事で一番大事なイベントごと! この時にはみんな浮かれて恋人を作りたくなるものなのだ! 成功率も高いけど、文化祭前後ではカップルが別れたり、告白に失敗する人もた〜くさんいるっ! 絶好の失恋更生アタックチャーンス!!」

「足を机にあげるな」


 椅子の上に立ってから、右足をダンッ! と机を踏み込む日向。

 俺の注意など聞く耳も持たない。


 しかしながら、彼女の言う通りである。

 テストが過ぎれば、あちこちで成就と失恋が発生するだろう。

 だからこそ俺は、その流れでの告白は嫌だったから、早めに告白したんだけどな。ついでにテスト一緒に頑張ろうイベントもしたかったんだけど……!!


「そのためにも、今は失恋更生委員を増やさないとね」

「え、これ以上被害者増やすのか?」

「ワッハッハッ! もう七海くんったら〜、被害者ってどの面下げて言ってるの〜。七海くんはむしろ加害者顔なのに〜」

「失礼の申し子かお前は!!」


 とりあえず今日も今日とて昼休みは終わった。

 教室に戻り、授業を受けて放課後が訪れる。

 授業中は勉強に集中すればいいが、英語の会話練習とか体育でのペア作りの時はボッチにはしんどい。

 なので一番心が休まる時は、クラスの半数以上が寝落ちする、俺も苦手な数学となった。

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