2章 《初月ユウキ》
Case.7 既に失恋している場合
──わたしには好きな人がいます。
相手は同じクラスの
二年続けて同じクラスで出席番号も前後で続いています。
だから自然と話す──なんてことは、わたしにはできないけれど、雨宮くんは気さくに話しかけてくれました。
彼は周囲に気が利いて、とても優しい人だから。こんなわたしでも分け隔てなく接してくれます。
そんな雨宮くんを好きになったのは、一年秋の体育祭でのこと。
わたしはクラス対抗女子リレーの、しかもアンカーに出場することとなってしまいました。
本当は障害物競走みたいなあまりポイントにもならなくて、運動神経に左右されないような競技が良かった。
けれども、残り一人の枠を誰も参加することを嫌がったので、仕方なくしたジャンケンに負けてしまい、わたしが担当することになりました。
わたしがアンカーなのは、最初に他と差をつけて逃げ切る作戦だったから。他三人が陸上部などで学年の中でも足が速いからです。
──目論見通り、バトンが回ってきた時にはわたしのクラスは一位でした。それも二位とは大きく差をつけて。
わたしは走った。追いつかれないように。
差は縮まるばかり。
けれども、このまま走り抜けたら一位……! ……というところでわたしは盛大に躓き、コケてしまった。
結果は……これ以上言わなくても大丈夫だと思う。
クラスのみんながいるテントに帰ったらきっと責められる、前三人が繋いでくれたバトンを無下にしてしまったわたしは、怖くて泣きそうだった。
けれど……
「
「……ぁ、ぁの、わたしのせいで……」
「誰も初月さんを責めたりなんかしないよ! それよりも怪我は大丈夫? 一緒に救護テントまで行こっか」
雨宮くんが一言目にそう口を開いてくれたお陰で、本当に誰からも責められることはなく、むしろ励ましの言葉や怪我の心配をクラスのみんなもしてくれるようになった。
彼はクラスを執り仕切る存在で、人望も人気もある人だった。鶴の一声で、わたしは救われたんだ。
「ぁ、ぁりがと……でも、一人で行けるよ……」
「足を引きずってるじゃないか。膝から血も流れているし。──失礼するよ、っと……!」
「きゃっ……!?」
さらには救護テントまでのわたしの運び方がお姫様抱っこだった。
「ヒューヒュー!」と周りから囃し立てられて凄く恥ずかしかった。
「ごめんね、目立つようなことになっちゃって」
「ぃぇ……」
「じゃあ、しっかり掴まってて」
「……はぃ…………」
それでも雨宮くんは当たり前のようにわたしを運ぶ。
周りにはたくさんいるのに、どうしてかこの時は二人きりのように感じた。
その時にわたしに見せた「もう大丈夫だからね」の笑顔。
わたしはこの時、恋に落ちたんだ。
それからというものの、わたしは雨宮くんを自然と目で追うようになっていた。
好きな時間は授業中。後ろ姿を不自然なくずっと見てられるから、自分の名字に感謝してしまう。
プリントを渡すため彼が振り向く時には、目が合う度に必ず雨宮くんは微笑んでくれる。
わたしは恥ずかしがっていることがバレたくないからつい目を逸らしちゃうけど、これは雨宮くんがわたしにだけ見せてくれる顔だから、すごくうれしい……。
って、気持ち悪いですよね……けど、この瞬間がいつも幸せに感じるんです。
でも、雨宮くんは誰にでも優しいんだよね。
男女問わず平等にみんなに優しくて、そして──彼女にも優しくて。
いることを知ったのはバレンタインデーの時だった。
当然だよね。だって雨宮くんはカッコよくて勉強も運動もできて、優しくて……モテるはずだよ。
彼女なんているに決まっている。いるのに知らないわたしが馬鹿だったんだ。
あの日食べた手作りチョコ。
しょっぱくて、美味しくなくて、とても雨宮くんにあげられるものじゃなかったよ。
それに……わたしは話すの苦手だから。声が小さいから。
雨宮くんに渡すなんてことはできなかったと思う。
彼の前にすら立てなかったんだから。
──すき
この気持ちも届けられない。
伝えてはいけない。
わたしは告白する前から失恋している。
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