Case.6 高校生活が再始動する場合
「本部にとうちゃ〜く! ふぅ、長旅だったねー」
「同じ階じゃねぇか」
日向に連れられたのは、俺たち二年生の教室がある南校舎三階端にある空き教室。
基本構造としては他の教室となんら変わりない。
ただ一席だけ中央に設置されている机と椅子を除き、それ以外の机と椅子は後ろの壁沿いに積み上がっている。他にも段ボール箱やよく分からない物が並んでいる。
備品倉庫として余った教室を活用しているのだろう。
授業にも部活でも使われないこういう部屋は開かずの教室として施錠されたままなはずだが、どうしてこいつはその鍵を持っているんだ?
「というわけで! ようこそ失恋更生委員会へ! これでメンバーは七海くん入れて二人になりましたー!」
「パチパチパチー」と口でも言いながら、拍手で俺を歓迎している。
歓迎というかもはや連行だったけどね!?
いきなり誤解を招くような寸劇を始めやがって……!!
ただ、今までの居場所を失ってしまったのは紛れもなく事実であると、この半日で痛感した。
独りぼっちだった
高校ではあえて部活には入らなかった。
交友関係が狭まりやすいし、部活動に時間を取られ、放課後や休日に友達と過ごす時間が確保できないだろうと考えていたからだ。
だが、どこにも所属してないのが仇となってしまった。他クラスの友達や先輩後輩など、俺にそんな仲間はいない。
二年になった今さらどこにも入れるわけないし、ましてやこんな状況に立たされてしまっては……。
「はぁ……分かった。入るよここに」
「やったー!」
「で、その失恋……なんだっけ?」
「失恋更生委員会だよ!」
「あー、その失恋更生委員会ってのは、何すればいいんだ」
「もう、何度も言ってるじゃーん。失恋を更生するんだよ!」
「だからそれがなんだよ」
「ふっふっふっー、ならば説明しよう! 失恋更生とは! 失恋した人を応援すること! その人が悲しまないように立ち直らせる! 説明以上!」
「説明雑っ。まぁ何となくは分かったけどよ。で、具体的にどうするんだよ」
「それは〜、あむっ、ひょのひひょによるかなー」
「食べながら話すな!」
けど、俺も今食べとかないと昼休みがそろそろ終わってしまう。
駅のコンビニで買ったサンドイッチと生ハムとサラダチキンを食べた。みんなこの組み合わせを買うんだ。
「あ、そうだ。明日多分同じ二年の人が告白してフラれるよ。ワタシたちの初更生はそれにしよっか!」
「はぁっ!? 何で明日告白するのが分かるんだよ、それにフラれることだって……!」
「ふふーん! 実はワタシ、失恋した人の匂いが分かるんだよ〜! どうやら明日は、
「いかにもモブそうな名前とたまたまいそうな名前だな」
「一回目もフラれたけど諦めずにまた告白するんだってー。ツッタカターで言ってた!」
「SNSの力じゃねぇか!」
「けど、明日もフラれるのは確定してるの。『SNSでいちいち呟く人は嫌いだ』って、多摩さんが呟いてた!」
「全部SNS! つーか、その女も大概じゃねぇか!?」
てか、本当なのかよ。その失恋した人の匂いが分かる能力ってのは……。
あとこいつも同じ二年生かよ。小学生にしかもう見えねーよ。
そしてあっという間に訪れた翌日、よく分からん活動に初参加させられたのだ。
そう、ここで話はプロローグに戻る。
連日フラれ現場に変わり果てる告白現場となる校舎裏に、先回りして待ち伏せしていた俺たち。
もちろん場所はSNSの力で把握した。
喪無くんがフラれたところを、すかさず昨日の放課後に作った失恋更生三三七拍子をお見舞いしたが……見事俺らがその男にフラれた形となって、初更生は幕を閉じた。
もう一件、「はっ……! 失恋臭がする!」と日向はどこかに向かって走っていったが、目的地の体育館周辺には既に人影はなかった。
「えぇ、間違いない。ここには失恋者がいました。なぜなら辺りには
だから何それ。
「うーん、今日は上手くいかなかったけど仕方ないね。明日の昼休み、さっきの人がいる教室に行って、失恋更生三三七拍子でお見舞いしてあげよう!」
「それはやめて差し上げて!?」
「そんじゃーとりあえず、今日の活動終了! トニーズでも寄って帰ろっか!」
トニーズとは、駅前の商業施設にある安い値段でポテトがたくさん食べられる店。
……昨日と同じく奢らされるな、これは。
ほら、指咥えてこっち見てやがる。
「七海くんにもポテト分けてあげるからねー」
「俺が買うんだから俺のだよ!」
こんな無鉄砲な団体が誰かを励ますなんてできんのか? 不安しかねぇ……。
とにもかくにも、こうして俺はこのちんちくりんと一緒にたくさんの失恋を更生させていく高校生活が、強制的に再始動するのであった。
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