「三振ループの地獄」第2話
ピッチャーはふと目を開けると、再び9回表、ツーアウト、ツーストライクの状況に戻っていた。視界がぼやけ、疲労が全身に重くのしかかる。しかし、どれだけ繰り返しても、この場面から抜け出せないという絶望が、彼の意識を鈍く蝕んでいた。
「おかしい…これは夢なのか…?」
何度も繰り返してきたはずのこの状況。しかし、今回は今まで以上に身体が重い。腕の筋肉は痛みで焼けるようで、投球をする度に限界が近づくのがわかる。それでも、三振を取れば解放されるはずだと信じ、彼は再びボールを握る。
次の投球。力を振り絞り、ボールを放つ。バッターが空振りし、またしても三振。しかし、瞬間的な安堵も束の間、周囲が再び静寂に包まれ、視界が暗転して「9回表、ツーアウト、ツーストライク」の場面に戻る。
ピッチャーは混乱し、苛立ち、恐怖に囚われる。しかし、誰に話しかけても反応はない。チームメイトも審判も観客も、みな無表情で淡々とその場に佇んでいるだけ。まるで彼だけがこの異常を認識しているかのようだ。
「どうすれば…どうすれば終わるんだ…!」
声を張り上げても、誰一人として答えない。ただ、何度も同じ状況が繰り返される。ピッチャーは次第に心をすり減らし、肉体も限界に達しつつあった。
再び投球を続ける彼の目に、観客席の端に立つ幼い少女の姿が入った。彼女は相変わらず無表情で、じっとこちらを見つめている。
「なぜだ…なぜ君はここにいる…?」
少女は微笑むこともなく、ただこちらを見つめたまま。ピッチャーは次第にその存在が不気味で仕方なくなり、目をそらそうとするが、気がつけば視界の片隅に必ず彼女がいる。投球する度に、少女は少しずつ近づいてきているように感じられる。
そして、また三振。だが試合は終わらない。絶望の中、彼は無意識にマウンドに膝をついた。その瞬間、少女の声が再び耳元に響く。
「まだ、終わりたくないの?」
声には不気味な響きが含まれていた。ピッチャーはその言葉に怒りと恐怖を覚えながらも、反射的に叫び返した。
「終わらせてくれ!どうしても!」
すると、少女は一瞬だけ哀れむような表情を見せた。そして、ゆっくりと静かにささやくように言った。
「本当に、終わりが欲しいのね?」
ピッチャーはその問いかけに一瞬、返答をためらった。だが、疲れ果てた彼は強くうなずいた。その瞬間、視界が暗くなり、彼は深い闇の中へと引き込まれていった。
再び意識が戻る時、彼が目にしたのはまたしても「9回表、ツーアウト、ツーストライク」の場面だった。少女の声はもう聞こえず、ただ無限の絶望が彼の心を覆っていた。
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