三振ループの地獄 〜終わらない9回表〜

星咲 紗和(ほしざき さわ)

「三振ループの地獄」第1話

9回表、ツーアウト、ツーストライク。あと一球で試合は終わる。ピッチャーは腕を振り上げ、ボールを投げた。力強いストレートがキャッチャーミットに吸い込まれる。バッターは空を切り、見事な三振だ。


審判が「アウト!」とコールし、ピッチャーは胸の高鳴りを抑えながら、マウンドを降りようとした。その瞬間、周囲のざわめきが止まった。歓声が聞こえるはずのスタンドも、試合の終わりを祝うはずの仲間たちも、すべてが奇妙に静まり返っている。


何かがおかしいと気づいたのは、その次の瞬間だった。視線を戻すと、なぜかまた「9回表、ツーアウト、ツーストライク」の場面が続いていた。まるで先ほどの三振がなかったかのように、審判がストライクのカウントを示している。


「…まさか。」


混乱する頭を振り払いながら、ピッチャーはもう一度腕を振る。バッターはまたもや空振りし、今度こそ試合が終わったはずだ。だが、振り返った瞬間、また同じシーンが繰り返されている。ツーアウト、ツーストライク。ピッチャーは、信じられない思いでマウンドを見渡した。


同じことがまた起こる。何度も、何度も。完璧な三振を取るたびに、時間が巻き戻されたかのように状況がリセットされ、まったく進展しない。


「いったい…どうなっているんだ…」


疲労と焦燥が重くのしかかる。ピッチャーの腕は次第に重くなり、視界が揺らいでくる。それでも、何かに取り憑かれたかのように、彼はボールを投げ続けた。


限界が近づき、ふらつきながらマウンドに立ち続けるピッチャー。やがて、観客席で視線を感じる。振り返ると、どこかで見たような幼い少女がひとり、じっとこちらを見つめていた。何も言わず、ただ、静かにこちらに向かって微笑んでいる。


その少女が唇を開く瞬間、ピッチャーは意識が遠のいていく。その声が耳に届いたとき、彼はふと安堵した。


「アウトにして欲しい?」


その一言が、不気味に耳の奥に響き渡った。

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