第3話 悪の組織と正義
数日後、桃瀬、ブレードメン・ピンクが基地に入ると慌ただしかった。
「あ、ピンク。ちょっと面倒なことになった」
スーツを着ていないイエローが近付いてくる。
「実は――」
「イーヴィル……本当ですか?」
「ああ、本当だ。君も噂ぐらいは知っているだろう」
教授が影野、シャドーマスクにそう言った。
「確か、我々のような組織の中でも相当な外道とか……」
「その通りだ。奴らは悪の組織としての
教授は憤りを隠さずに言った。
「それで、総帥はどのような判断を?」
「総帥は我々の縄張りに入ってきたイーヴィルと徹底抗戦せよと言われている」
「そうですね。総帥ならそうおっしゃられると思っていました」
シャドーマスクは
スーツを装着したレッドが、同じ様にスーツを着た残り四人の目の前に立った。
「先程、イーヴィルから予告状が届いたと警察から連絡があった」
スーツ越しにでも彼らの顔がこわばるのが分かる。
「内容は、市内五か所に爆弾を仕掛けたというものだ。現在、警察が向かっているが事態が好転したという連絡はない。また、爆弾を守る戦闘員を多数配置しているという情報もある」
「五か所……まさかバラバラになれと言うのですか?」
意図を察したグリーンが言った。
「そうだ。一人ずつ現場へ向かう」
「これは罠です! 我々を分断して――」
「分かっている! だが、そうするより外はない!」
レッドが一喝するとグリーンは黙った。
こうして、敵の思惑通りにブレードメンは動くのだった。
「――以上が、警察無線を傍受して得られた情報です」
マッドペイン会議室に集められた幹部一同にそう伝えられた。
「ブレードメンが向かっているそうだが――」
「ふむ、これは難しい。下手に動くとヒーローを助けてしまう」
「ここは彼らに任せた方が――」
幹部たちには消極的な意見が目立つ。
シャドーマスクは幹部としてはまだ下の方だが、参加することは認められていた。
彼が真っ先に思い浮かんだのはあのピンクのことだった。
もっとも、総帥や幹部たちに意見するのは
そうしている間にも、悪い情報が次々に入ってくる。
各所に一人ずつブレードメンは分散。
現場に最初に到着したグリーンがイーヴィル戦闘員と交戦中。警察は退避。
他のブレードメンも現場に到着。交戦を開始。
ブルー負傷。イエロー、ピンク苦戦。他隊員も爆弾までたどり着いた者はなし。
「ブレードメンの通信を傍受しました。スピーカーに繋ぎます」
そう伝えられると、部屋中に声が響き渡った。
「……お~い! ブレードメンの野郎共! 聞こえるか? お前たちはヘルメットの中に通信機が入ってるって知ってるんだぞ!」
下品な声が響く。
「お前たちのお仲間、ピンクちゃんはこうして捕まえた! 助けてほしいか? 助けてほしいなら爆弾解除を諦めて引き揚げろ!」
「おい!? これってヤバくね?」
「通信はピンクのヘルメットからです。捕まったとみて間違いありません」
「……もう引き揚げちゃったら? 幸い住民の避難は完了してるし」
「イエロー、適当なことを言わないでください! しかし避難完了は事実なので、もう他の爆弾は放置で救助に向かえば良いのでは?」
沈黙。レッドの判断を待っているようだ。
「いや、今は救助しない。各自作戦通り動いてくれ」
「しかし、ピンクは……」
「グリーン! 作戦を最優先しろ! 救助は後だ!」
ここまで聞いた時、シャドーマスクは出口へと歩き出した。
「おい、シャドーマスク!? 何を――」
「ピンクが向かった先のイーヴィルを殲滅して爆弾を止めます」
「そんなものヒーローに任せておけば――」
「イーヴィルと徹底抗戦せよ、というのが総帥の判断でしたね」
「だからと言ってヒーローに手を貸すのは――」
教授が助け舟を出そうと近寄ってきた時だった。
「構わん」
奥から威厳に満ちた声が聞こえた。総帥の声だ。
「……だが、行く以上はしくじるなよ。シャドーマスク」
「は! もちろんです!」
総帥の判断に異を唱えるものは誰も居なかった。
「こちら、爆弾が仕掛けられたという雑居ビルです」
望遠でテレビカメラが捉えている。
「先程、ブレードメン・ピンクが突入しましたが、動きはありません。爆弾が解除されたという情報は入ってきていませんので、我々もこれ以上近付けません」
そこでカメラがビルの入口にズームインされる。
「誰かが入って……あ! あれはマッドペインのシャドーマスクです! 今、シャドーマスクが入っていきました!」
リポーターが興奮気味に伝える。
シャドーマスクはイーヴィルの戦闘員たちを山刀型のブレードで切り裂いていく。
「お、お前……俺たちイーヴィルに盾付いて無事で――」
言い終わる前に切り裂かれる。速い。
薬物で恐怖心は麻痺させていると聞いていたが、どうやら完全にではないようだ。
狭いビル内で戦闘員は逃げ惑う。おそらく、爆弾の解除が間に合わない時間になればピンクを残して引き揚げるつもりだったのだろう。
一際目立つヘルメットの男が残っていた。どうやらリーダーのようだ。
「動くな!」
男は大口径の銃を向けてそう言ったが、聞くはずもない。
銃弾が発射された時にはそこに姿はなく、宙を撃っただけで喉を切り裂かれて死んだ。
「ピンクは無事か!?」
「捕まったと聞いていましたが、爆弾が解除されたということは――」
ブレードメンの残りの四人は自分の爆弾をなんとか解除して、ピンクの下に集まってきていた。
その時、雑居ビルの入口から出てきたのは――ピンクを抱きかかえたシャドーマスクだった。
「……
ピンクが弱々しい声で言った。
シャドーマスクは無言で四人の足元にピンクを置いた。
そして、レッドに向かって言った。
「仲間を見捨てるつもりだったのか?」
「正義のためだ。やむを得ん」
レッドは冷ややかに答えた。
「避難は完了していたと聞いている。それでも『皆』のヒーローでいるために、個人を犠牲にするのは正しいのか!?」
レッドは答えなかった。
背を向けて立ち去ろうとするシャドーマスク。レッドは剣に手を伸ばしたが、グリーンがその手を押さえた。
「シャドーマスクです! なんとシャドーマスクがピンクを助けました!」
リポーターが早口でそう伝えていた。
悪の組織幹部の休日 異端者 @itansya
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