鏡よ鏡

@YAMIAKUI

第1話

女王

「鏡よ鏡。この世で1番美しいのはだぁれ?」


「多分、白雪姫っすね」


女王

「まぁそうよね」


「はい」


女王

「…じゃあ2番目に美しいのはだぁれ?」


「吉田セーコさん」


女王

「誰だよ」


「ちなみに3番目はケーコさんっス」


女王

「多分セーコさんの親族の方ね」


「吉田家の遺伝子恐るべしっすね」


女王

「ちなみに私は何番目くらいなの?」


「下2桁は切り下げの方がいいっすか?」


女王

「え、まって。私そのレベルの立ち位置なの?」


「そうみたいっす。でも自分的には女王様は可愛い系の顔してると思うっすよ」


女王

「今そういう話してないじゃん。嬉しいけど」


「恐縮っす」


女王

「というかそもそもアナタはどういう基準でランキングつけてるわけ?宮殿の魔術師に作らせたはいいけど、仕組みはよく分かんないのよね」


「自分は美意識を持つ全ての生命体の”揺らぎ”を数値化した世界である、言わば擬似的な美のアカシックレコードに接続して、4次元の仮定を立てた上での設問回答を演算して出力できるっす」


女王

「分かったわ。死ぬほど噛み砕いて教えてちょうだい」


「まぁ精密な国民アンケートっすね。それをシミュレーションできる感じっす」


女王

「すごいのねアナタ」


「この城の地下はスーパーコンピューターで埋まってるっスよ。この鏡の裏もめちゃくちゃワイヤー回路が組んであるっす」


女王

「なんかそれ知りたくなかった。てか予算は大丈夫なの」


「カツカツっす。計算だと、来年にはこの城の上半分売らないとダメっすね」


女王

「お城のアイデンティティ無くなるじゃない。とんがってるからお城なのに」


「遺憾っすね」


女王

「これはもう税収あげるしか無いわね」


「あ、今ので女王様の美しさランキング鬼下がりしたっす」


女王

「え、どゆこと」


「税収が上がった世界では女王様への不満も高まるんで、『あのババア許さん』みたいな感じで女王様への投票率も落ちた感じっす」


女王

「美しさって顔だけの話かと思ってたけどそうでもないのね。半分冗談とはいえ、先ほどの発言は美しくなかったわ。訂正します」


「まぁ、もし女王様が白雪姫の容姿を持ってたらランキング変動は無かったっすけど」


女王

「は?」


「この国の労働階級はほぼ男性が担っているので、もしも白雪姫がこの国の女王に就任した場合、『税金キツイけど、まぁ白雪女王カワイイしいいか』ってなるみたいです」


女王

「美しさめちゃくちゃ顔依存じゃない。マジで所得税ゲロ上げしようかしら」


「いいんすか?ランキング下がるっすよ?」


女王

「……はぁ、ちょっと聞いてちょうだい」


「うっす」


女王

「女ってね。立ち回りがすごく難しいのよ」


「と言いますと?」


女王

「基本的に女はね、自分の容姿の位置をだいたいは理解してるの。多分そこは男より敏感。男で身の丈じゃ無い服と髪型してる奴ザラに見るでしょ」


「そうなんすかね」


女王

「私は身分が高いから蝶よ花よで育って来たけど、分かるのよ。一端の召使いにも私より可愛い子がいるってね」


「よくその自己評価で質問してきたっすね」


女王「…割るわよ?」


鏡「うっす。すいません」


女王

「例えば私は、自分の顔は、まぁ…60点ぐらいだと思ってるわ。恐らく庶民の平均よりはやや上ね。それでも、北方の国の姫あたりには全然負けるわ」


「わかるっす。北の姫ちょー綺麗っすよね。ランキングは17位っすけど」


女王

「あんた自我持ってない?」


「製作者と同じ人格が設定されてるっす」


女王

「…まぁいいわ。しかし、そう考えると白雪姫はバケモノね」


「まぁ、そうっすね。なにせ、この世で1番っすから」


女王

「言っとくけどマジの美人とマジのイケメンは全員性格終わってるわよ。色んな国の美男美女を見てきたもの。間違いないわ」


「そうなんすか?」


女王

「そりゃそうよ何をしても映えるんだから。何も引かれない人生を送ってる人間は、そういう価値観同士でつるんで、他は蹴るのよ」


「いやぁ流石に何も引かれないってのは無いと思うっすけど」


女王

「ふん。美人である事の辛さなんて、美人でない事の辛さに比べたら絶対に大した事ないわ」


「反応に困るっす」


女王

「大体、白雪姫のやつムカつくのよ。自分が1番美人なの知ってるくせに、さもそうでもないみたいに振る舞うじゃない。『女王様の方がお綺麗です』とか嫌味でしかないわ。そしたらこっちはこっちで気遣わないといけないし」


「女王様、白雪姫に気遣うんすね」


女王

「当然です。社交の場では全部に気を遣って生きてるもの。自分が攻撃されないように、他を讃えるの。誰も前に行きすぎないように足を引っ張り合うフリをするの。結果は見えてるのにね」


「…女王様」


女王

「なによ」


「計画通り白雪姫が毒リンゴを食べて倒れました」


女王

「…ふん。いい気味ね」


「なぜ、王子を向かわせるのですか?それも彼の唇に解毒魔法までかけて」


女王

「…あの2人、お互いウブなのよ。見た目がいいからって追われるばっかりで、本当の恋を知らないのね。だから、このくらいのドラマが無いとくっつかないわ」


「…女王様」


女王

「………」


「あの、マジで予算ヤバいんでなんとかしてくださいね」


女王

「あーもう分かったわよ!この一件は見積もりを気にしなかった私の責任でいいわ!臣下を召集しなさい!緊急会議を行います!」


「それでこそです。私の女王」


END

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