第13話 七星の人達
総長代理をはじめてから変わったのは、教室の中だけじゃない。
むしろこっちが本題。
あれから放課後になると毎日、七星のアジトに足を運ぶようになったの。
だって仮にも総長代理なんだから、顔を出さないのはちょっとね。
幸い今までは学校が終わっても家に帰るだけだったから、何も問題はないんだけど……。
「悪いね美子ちゃん、付き合わせちゃって」
「いえ、大丈夫ですから」
アジトの奥で、直也先輩と話をする。
近くには拓弥くんと晴義先輩もいて、七星の幹部が全員そろってる。
「しかしこう毎日顔を出すとなると、不都合もあるだろう。できることは何でもするから、遠慮なく言ってくれ」
「そうそう。無理しなくても、友達と遊びに行ったりとか、していいからね」
晴義先輩と直也先輩はそう言ってるけど……そもそも私、友達がいないのですよね。
拓弥くんはそれをわかっているから、なんて声をかければいいか分からないみたいで、気まずそうな顔をしてる。
そして響夜さんを見ると、無言でこっちを見ている。
四六時中一緒なんだから、きっと友達がいないってバレてるよね。
隠してもしょうがないけど、なんだかとても恥ずかしい。
だって求心力があってみんなに慕われてる響夜さんとは、正反対なんだもの。
私と響夜さんと比べるなんておこがましいけど、近くにいると余計に、情けなさを痛感しちゃうなあ。
するとその時、倉庫のシャッターが開いた。
「晴義さん! うちのやつらがまた、紫龍のやつらに襲われました!」
「またか!? それで、大丈夫なのか?」
「はい。ケガは大したことありません。ほら、入ってこい」
七星のメンバー数人が、アジトの中に入ってくる。
中には腕や顔などに傷がある人もいて、すごく痛そう!
「大変、すぐに手当てしないと」
「これくらい平気ですよ。メンバーで固まっておいてよかった。姐さんの指示のおかげでです」
実は前に、私がみんなに言ったの。
狙われてるなら、みんなできるだけ固まって動いた方がいいんじゃないかって。
小学生のときに時々やってた、集団下校を参考にしたの。
大勢でいるとそれだけで手を出しにくくなるし、何かあったときも協力すれば逃げやすいしね。
けどやっぱり、悔しそうにしている人もいる。
「ちくしょう、アイツらめ。指示さえあれば、返り討ちにしてやったのに」
みんなやられっぱなしだと、悔しいみたい。
私は何かあったら心配だから、絡まれても逃げるよう言っていて、みんなちゃんとそれを守ってくれてるけど、大丈夫かなあ?
すると響夜さんが「体借りるぞ」って、私の中に入ってきた。
このパターンにも、だいぶ慣れたよ……。
「悪いなお前ら、辛抱させちまって。けど俺……響夜を仲間外れにして、暴れても仕方ないだろう。響夜が帰ってきたら、奴らに目にもの見せてやろーぜ」
「姐さん……わかってますよ。なあお前ら!」
「ああ、もちろんだ!」
響夜さんの発言で、さっきまで沈んでいた空気が熱を帯びていく。
響夜さん、本当にすごいや。
すると響夜さん、憑依するのをやめて、主導権が私に戻る。
「それじゃあ、今は手当てを。治療をしますから、ケガしてる人は並んでください」
私は救急箱を取ってくると、ケガをしている人を順番に診ていく。
前に保険委員をやってたから、治療には慣れているの。
「姐さんに手当てしてもらえるなんて、うらやましい。俺もケガしてりゃよかった」
「バカ、不謹慎だぞ……けど、気持ちわかるかも」
みんなが何か言ってるけど、それより治療治療。
幸い本当にケガは大したことはなくて、救急箱だけで手当てをすませることができた。
治療を終えると、晴義さんが声をかけてくる。
「悪いね、手伝ってもらって」
「いえ、私にできるのなんて、これくらいですから」
「そんなことないよ。僕達も、それにきっと響夜も、君にはとても感謝してるよ」
「そ、そうでしょうか? あの、それと少し気になってるんですけど……私と響夜さんが時々入れ替わってること、みなさんに変に思われていませんか?」
さっきも途中で響夜さんに変わってもらったけど、実は気になっていたんだよね。
私と響夜さんじゃ、口調も態度も全然違うし。
晴義先輩達なら事情を知っているけど、そうでない人達にはどう映っているんだろうって。
「気にしてなくていい。どちらの美子さんも、評判いいから」
「よかった……って、あれ? それって、答えになってないんじゃ? 晴義先輩、誤魔化していませんか?」
「……そんなことより。うちのやつらが狙われてるのを見て分かると思うけど、紫龍のやつらは手段を選ばない。今はバレていないかもしれないけど、もしも美子さんが総長代理をやってることが奴らに知られたら、やつらは君を狙ってくる可能性もある」
それは、たしかに。
私は実際に襲われたことはないけど、もしそうなったらと思うと、背筋がゾクゾクする。
「だからこれからは、拓弥に送り迎えを任せようと思う。アイツも君を守れるならって、やる気になってるし」
「拓弥くんが?」
拓弥くんなら帰る方向も一緒だからちょうどいいし、頼もしいかも。
安心していると、話を聞いていた響夜さんがボソリと言う。
「なにかあったら、俺もいるから。そのときは体を借りるかもしれねーけど、美子だけは絶対守る」
「は、はい」
響夜さんの言葉に、ボッと顔が熱くなる。
なんだろう。最近響夜さんと話してると、時々変になる気がする。
「けどすみません。私のために、わざわざ気を回してもらって」
「元々こっちが巻き込んだんだから、これくらい当然だよ。それに今の七星にとって君は、なくてはならない存在だからね」
「わかってます。響夜さんの言葉を伝えられるのは、私だけですから」
「まあ、確かにそれもあるんだけど……気づいていないかい? 響夜だけじゃなく美子さん自身が、今の七星に必要不可欠だってことを」
「え、私がですか!?」
そんなまさか。
私が七星のために、何かできてるとは思えませんけど。
なのに響夜さんまで、「無自覚かよ」って言ってくる。
「血の気の多いうちの連中を抑え込んでくれてるのは、響夜の言葉だ。けど行き場を失った気持ちを抱えてるアイツらの心をケアしてあげてるのは、君なんだよ。君は治療するとき、一人一人から話を聞いてあげてるだろ」
「あれは、少しでもみなさんのことを知ろうって思っただけで」
「それが好評なんだよ。カウンセラーみたいなものかな。話を聞いてもらってると、心が癒される。もしかしたら美子さんには、そういう才能があるのかもね」
信じられない。
今まで友達すらいなかった私が、誰かの心を癒すって。
「ここまで考えて、総長代理をお願いしたわけじゃなかったんだけどね。巻き込んだ僕が言うのもなんだけど、響夜を見ることができたのが美子さんでよかったって、今なら思うよ」
「同感だな。もしも代理を任せたのが美子以外だったら、絶対ここまで上手くいかなかっただろうな」
響夜さんまで言ってきたけど。
か、過大評価ですよ~。
「まあわざわざ治療されたいって言うやつも出てきたのは、いきすぎだけどね。アイツらにはわざとケガするのだけはやめとけって、言っとかないとね」
冗談っぽく言いながら、苦笑する晴義先輩。
普段はクールな印象だけど、こんな風に笑うんだ。
「私、もっと頑張ります。みんなの役に立てるように」
「なに言ってるの。もう十分頑張ってるよ。みんな美子さんのことを、仲間って認めてるしね」
「仲間……」
晴義先輩の言葉が、ジーンと胸に響く。
そんな風に言ってもらえるなんて、思わなかった。
成り行きでやることになった総長代理だけど、七星のみんなと過ごす時間は私にとっても、意外と心地いい。
そんなみんなの力になっているのなら、嬉しいな。
けど……。
「美子は頑張ってるよ。それに比べて俺は……」
響夜さんが遠い目をしたのが、少し気になった。
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