第5話 意外な事実?

 

 急に崩れ落ちたり、1人で叫んだり騒いだりして。これで不信に思わないはずがない。

 ほら、みんな顔を見合わせながら、気味悪そうにこっちを見てますよー!


「えっと、美子ちゃん。君、ふざけてるの? いいかげんにしないと、これ以上はさすがに……」


 引きつった顔で、再び手を伸ばしてくる春風先輩。

 だけどその腕を私が……ううん、私に憑依してる桐ヶ谷先輩が掴んで、そのまま締め上げた!


「──っ! 痛ててっ!」


 春風先輩は何が起きたか分からない様子で、腕を締め上げられて苦悶の表情を見せる。

 桐ヶ谷先輩はそのまま、私の声で告げる。


「お前らしくねーぞ、直也。女には優しくがモットーだって、いつも言ってたよな?」

「──っ!? 君はいったい?」


 桐ヶ谷先輩は答えずに、今度は驚いてる染谷先輩と拓弥くんに目を向けた。


「晴義、ちゃんと話を聞け。いつもの冷静さはどうした? 拓弥、お前は皆元を、このまま追い返していいのか? 前に言ってたずっと謝らなきゃって思ってる相手って、皆元のことだよな?」

「なっ、どうしてそれを!? 響夜さんにしか話してないのに!?」


 なんの話かはわからなかったけど、拓弥は驚愕して、染谷先輩も目を見開いている。


「君は何者だ?」

「晴義、分からないか? 俺は、響夜だ」

「は? なにをふざけたことを!」

「信じられねーのも無理はねーか。けど本当だ。コイツに憑依してしゃべってる」


 話しながら、春風先輩の拘束を解く。

 口調は桐ヶ谷先輩なのに私の声だから、すごく変な感じ。

 拓弥くんや春風先輩は「マジか?」、「いや、まさか」って困惑してるけど、染谷先輩はまるで仇でも見るような怒りに満ちた目を、私に向けた。


「どこまでもふざけて。本当に響夜だって言うなら、証明してみせろ!」

「ちょっ、晴義さん!?」


 拓弥くんが叫んだけど、もう遅い!

 染谷先輩の拳が風を切って、私めがけて繰り出されたの。

 な、殴られる!

 だけど桐ヶ谷先輩が憑依したワタシは迫る拳を、手刀で払った!


「なに!?」

「いきなり殴りかかるなんて、お前らしくないな。けどいいぜ、相手になってやる!」


 腕を構えて、ファイティングポーズを取る桐ヶ谷先輩だけど、全然よくありません!

 私の体で戦う気ですかー!?


 だけどこうなったらもう止められない。

 染谷先輩は次々とパンチを、時に蹴りを繰り出してきて、だけど桐ヶ谷先輩はそれを全部さばいていく。


「懐かしいな晴義。道場に通っていたころ、よくこうして組み手してたっけ」

「くっ、まだ響夜のフリを……」

「フリかどうかは……コイツで確かめろ!」


 ワタシの拳が、染谷先輩の顔に直撃──してない!

 寸でのところで、手は止まっていたの!


 拳を受けるかと思ってた染谷先輩は、固まっちゃってる。

 そしてワタシは、そんな染谷先輩にフッと笑ってみせた。


「今日も俺の勝ちだ。けど、いつでも相手になってやるから。もっと強くなってかかってこい」

「──っ! その言葉は、いつも響夜が言っていた。まさか、本当に……」

「だからさっきから言ってるだろ……心配かけたな、お前ら」

「──っ! 響夜!」


 染谷先輩の目に、何かが光った気がした。

 それに拓弥くんも春風先輩も桐ヶ谷先輩の名前を呼びながら、集まってくる。


「まさか、本当に響夜なのか?」

「響夜さん、そこにいるんですか!?」


 さっとまでとは明らかに違う目で私を……響夜先輩が憑依している、ワタシを見る。

 みんな、信じてくれたんだ。

 ここにいるのが、桐ヶ谷先輩だって。

 だけど……。


「うっ!?」

「響夜!?」


 ワタシがフラっとよろけて、床に膝をついた。

 や、やっぱりこうなっちゃった!


「なんだ? 力が入らねー」

(そ、そりゃあそうですよ。先輩はさっき暴れましたけど、体は私のものなんですから。激しい動きについていけなくて、反動がきたんです!)


「あれくらいでか? 皆元の体、ヤワすぎだろ」

(しょうがないじゃないですか。それに今日は、お昼食べそこねちゃいましたし……)

「そういえばお前、昼飯食えてなかったな。てことはコレは、貧血ってやつか? はじめて味わったけど、結構つれーな……」


 次の瞬間、私の体から先輩の幽霊がポンッて弾き出された。

 どうやら疲れたせいか、憑依が解けたみたいだけど。

 体の主導権を取り戻した私に、ダメージが一気に来た。

 うう、頭が痛い。もうダメ……バタッ!


「美子っ!? いや、響夜さんか?」

「どっちか知らねーけど、これヤベーんじゃねーの?」

「急いで病院に運ぶ。2人とも、手を貸してくれ!」


 薄れゆく意識の中で、拓弥くんたちが慌ただしく騒ぐ声が聞こえたけど、やがてそれも消こえなくなって。

 私は眠りに落ちていった……。



 ◇◆◇◆



 次に私が目を覚ましたのは、病院のベッドの上。

 辺りを見ても、病室の中には誰もいない。

 けど桐ヶ谷先輩の幽霊だけは、隣にいてくれていた。


「起きたか? 悪い、皆元のことを考えずに、無理をさせすぎた」

「せ、先輩、顔を上げてください。あの、それよりここは?」

「晴義の家の病院だ。アイツのとこは医者の家系でな。倒れた皆元を運び込んだ。晴義達は今、医者の話を聞きに行ってるけどな」

「桐ヶ谷先輩は、みなさんといっしょにいなくていいんですか?」

「お前を1人にして行けるかよ。といっても、幽霊に残られても頼りねーだろうけど」


 桐ヶ谷先輩は苦笑いを浮かべたけど、そんなことありません。

 目が覚めたとき側に先輩がいるのを見て、安心したんですから。

 すると、部屋のドアが開く。

 入ってきたのは拓弥くん。それに、染谷先輩と春風先輩だった。


「美子、起きたのか!? それとも、響夜さんか?」

「美子だよ。おはよう拓弥くん……って、もう夜だよね」


 窓から外を見ると、すっかり暗くなってるのがわかる。

 いったいどれくらい眠っていたのかな?

 すると染谷先輩が前に出てきて……勢いよく土下座をした!


「すまなかった!」

「ええっ!?」


「君の言うことを信じずに暴力をふるってしまい、本当に申し訳ない。響夜が憑依していたというのは、本当だったんだろう」

「はい……桐ヶ谷先輩は、今もそこにいます」


 隣を指すと、拓弥くんたちは「マジか?」って食い入るように見てくる。

 けど残念ながらいくら集中しても、視ることはできないみたい。

 とりあえず、土下座していた染谷先輩には立ってもらって、話をする。


「私がみなさんを訪ねたのは、桐ヶ谷先輩に頼まれたからなんです。拓弥くんは、知ってるよね。私が幽霊が視えるって言ってたの。信じられないかもしれないけど、あれは本当なの」

「もう信じてるよ。さっきの動きも口調も、まるっきり響夜さんだったからな。お前じゃあんな演技できねーだろ」

「ありがとう。それで桐ヶ谷先輩、死んじゃったのは仕方ないけど、最後にみんなに、言葉を伝えてほしいって」


 さっきは話を聞いてもらえなかったけど、これでようやく先輩の願いが果たせる。


「みんな、聞いてくれ。こんなことになってしまって、本当に悪い。けど俺は、お前達なら七星を守ってくれるって信じてる。それと間違っても俺の仇って理由で、紫龍と戦おうとするな。今大事なのは戦うことじゃなくて、チームをまとめることだ。わかってくれ」


 桐ヶ谷先輩が言って、私はそのままをみんなに伝える。

 拓弥くんは涙ぐんで上を見ながら、「響夜さん」って名前を呼んでるし、春風先輩は黙ったままうつむいてる。

 染谷先輩も何かを考えているようだったけど、やがてゆっくりと口を開く。


「ありがとう。響夜の言葉、たしかに受け取ったよ」


 よかった。桐ヶ谷先輩の言葉、ちゃんと届いたんだ。

 これで安心して、成仏することができますね。

 隣を見ると、桐ヶ谷先輩は満足したように、ニコッと笑ってくれる。

 うっ、やっぱり桐ヶ谷先輩に笑いかけられると、ドキドキするや。

 なんて思っていたけど。

 なにやら染谷先輩が、言いにくそうに口を開いた。


「だけど、その……君はなにか、勘違いしているんじゃないかな?」


 え、勘違いって?

 すると先輩はさらに、驚くべきことを言った。


「響夜は死んでいない。今もちゃんと生きてるよ」

「え?」


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